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100 愛憎を生み出した温床




 子爵家の次男坊で、魔力量は長けているものの家督は継げぬ立場だ。しかし魔導士からは人望が厚く、閉鎖的な魔導士研究所との繋がりがあったことで抜擢された人材。


 恋愛結婚とは聞いていたが、両親の間には貴族としての立場やいざこざ等の障害は大いにあっただろう。


「何かの手違いで派遣なさった様だが、大戦争から百年以上経ったこともあり合同の軍事訓練をする良いきっかけを頂きまして、誠に感謝致します陛下」


 父が王家へ顔を立てたのは、叛逆者で無いと象徴すると共に王族の一員である人間が、私情で部隊を動かし危うく武力対立した記録を残さぬ為だ。


 アルベルノの不祥事を逆手に取った、大人の対応である。


「それに息子も留学から急遽呼び寄せた。私兵を何百人寄こそうが無駄足だ」


 それも全て父に手配させたラルシュの手回しだろう。でっちあげの証拠を計上するなら、此方も正当な手段で真実を衆目の前で暴いてやる。


 ラルシュは相変わらず毅然とした風情で、こっそりセルリアーナに耳打ちした。


(もしかして、無視され続けても差し入れサンドウィッチ付きの、あのバスケットの中に入れた────?!)


 サラリと「御守りは首に下げている」と、アルベルノ達が尋問を受けている時間が長過ぎて、退屈凌ぎなのかラルシュが暴露した。


 セルリアーナが魔導士研究所で、時折害獣からドロップ出来る魔法石を溶かして、魔力を丁寧に込めた特殊な加工をしたヒルダ守護石のネックレスだ。


 例え一生会えなくとも、せめて彼を脅かす厄災から守り、幸福であるようにと願いを込めた物である。


(ラルシュ様って本当は人誑しなんじゃ……ッ?!)


「アルベルノ殿下、貴殿は我が侯爵家を王家に仇なす逆賊と嘯いたのはどういう経緯であるか説明を」


「王家へ忠誠を誓う我が臣下を、まさか平民の一声を鵜呑みにしたではあるまいな?」


 威厳さの塊である侯爵家当主と国王陛下の詰問は、周囲の空気を不穏にさせる。止まらぬ滝汗を拭う余裕すら無いアルベルノの背後で、顔面蒼白なマイカの存在をすっかり忘れていたが。


「わ、私が間違っていると仰るのですか?! 私はずっとこの国の為に研鑽して来ましたのに!!」


「発言を許されておらんぞ!! 国王陛下に無礼だ!!」


「な、なんで……だって、私は光魔法を使えて皆んなを救える力を持っているのに? 王家の方々も私を庇護したではありませんか」


「マイカ、君は許可無く発言が出来ない立場なんだ。分かってくれ」


「どうしてですかアルベルノ様! 私を未来の王子妃にして下さると、約束してくれたのに……ッ」


 一歩間違えれば侯爵家を、王族権限で一方的に証拠不十分で王国のライフラインを担う柱を崩壊させることにもなり得ない。


 膝から崩れ落ちて、途方に暮れるマイカは話の席を用意されているはずが無かった。


 あくまでも王家が庇護する対象であったのは、他国に奪われグランドル王国の損失を予め防ぐことだ。


(しかも平民のままで、発言も何も国王陛下に拝謁出来るだけでも名誉なことなのに……。淑女教育くらい施して差し上げたら良かったと今更後悔しても無駄よ、殿下……)


 魔力供給量一位であるエスメラルディ侯爵家は、それだけ重要性の高い地位におり、王家が適当に扱って良い貴族家ではないのだ。


「ラルシュ、さま……はこの様な場に……出られないかと思っておりましたわ」


「散々俺の隠密スキルや認識阻害魔法を打破して追っかけ回した挙句に、餌付けまでしておいて掌返すのは流石に無責任だぞ?」


「無視されるのは堪えますのよ、これでも硝子のハートを持っておりますし」


『ケッ、お嬢さん良く言うよお』


「どの口が言う。俺はもうとっくに答えを出しているぞ?」


 愛は無いとは言え、婚約者持ちのセルリアーナのストーキングはさぞ怖かっただろうが。


 そもそもラルシュが何だかんだ言って無碍に扱わず、寄り添うからこそセルリアーナも己の欲望のまま追い掛け続けた。


(着飾った推しをこうして、生きて拝める日が来るなんて夢みたいだわ)


 王家の監視者として役目を果たしたラルシュは、狼狽して弁明に追われるアルベルノにはもう見向きもしなかった。


「ふふ、……ッ分かりにくいですわよ、不器用な方ね」


「生憎気の利いた歯が浮く台詞は言えぬ血筋なもので?」


 クス、と思わずセルリアーナは笑ってしまった。


「何が元婚約者であった情け、とは。随分と口が達者になったようですね、御子息は」


「あれには手を焼いている」


『認めない、あんな……あんなッ!! (まが)い物よりまだまともなアイツが何故此処に居ない?!』


 腐敗臭と血の澱んだ激臭が突如、禍々しい強烈な魔力と共に吹き荒れる。


 この世の果てに朽ちて行った、声無きカリュプスの器達の嘆きだ。


(これ、は……屍の上に立つカリュプス様が、見て来た光景、なんだわ……)


 ラルシュの眉尻がピクリと微細に動いた時、同じくカリュプスを認識出来る人間はその激臭に無意識に顔を顰めた。







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