表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
可愛くて強い私の陛下、一生お守りいたします  作者: 倉本縞


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

59/60

59.僕の蝶々(レギオン視点)

「陛下、体調はいかがですか」

 宮廷魔術師団長ヘルムートが、注意深く観察するような目で僕を見ている。

「少しはお体が楽になりましたでしょうか」


 寝室のカーテンは開けられ、柔らかい日差しが心地よい。

 やっと日の光を浴びても問題ないくらい、体が回復した。


 僕は寝台に横たわったまま、ほっと息をついた。

「……うん。息がしやすいっていうか、胸の重しが取れたような気がするよ」

「そうですか。良かった」

 ヘルムートはふう、と息をつき、考え込みながら言った。


「ひとまずはここまで、解呪……というか、呪術の糸をゆるめることはできました。が、完全な解呪は、やはり難しいようです。力及ばず誠に遺憾ではありますが、ここから先は、神聖帝国の術者に頼るしかなさそうです」

 申し訳ありません、と悔しそうに謝るヘルムートに、僕は少し笑った。

「……君は魔術師だ。呪いは君の管轄外で、謝るようなことじゃない。……むしろ、僕は驚いているくらいだ。卿はなぜ、呪術をあつかうことができるんだい?」

 呪術に関しては、古い文献にもあまり記述が残っていない。ベルガー王国では魔法が発達したせいで、呪術そのものの存在さえ忘れ去られているような状態だ。

 まして、宮廷魔術師団長という魔術師の頂点に立つヘルムートが、ここまで呪術に詳しいことのほうが驚きだ。


「……まあ、それは、私の趣味のおかげと申しますか……。ん、その、実は私は長年、呪いのグッズや関連する書籍などを収集しているのです。そのため、わずかながら呪術を使えるようになりまして」

 古今東西の呪いに関する、書籍やグッズなどの収集量は、大陸一と自負しております! と胸を張るヘルムートに、僕は顔を引きつらせた。


「そ、……そう、か。……まあ、おかげで助かったよ、うん。ありがとう、ヘルムート」

「いえ。私のしたことはしょせん、時間稼ぎに過ぎません。陛下からそのようなお言葉を賜るほどのものでは」

 ヘルムートは謙遜するが、正直、彼の力がなければ、神聖帝国にたどり着くまで僕の体力は持たなかっただろう。


「……ヘルムート卿。カーチェには、明日、会える?」

「はっ! だいぶお体も回復されましたので、問題ないかと」

「そうか、よかった。……神聖帝国に行く前に、お別れを言いたかったんだ」

 僕は安堵のため息をついた。


 彼女には、迷惑ばかりかけた。

 騙し討ちのように草原から連れてきて、あげくの果てには仮の女王として、これから戦火広がる王国の後始末を任せなくてはならない。

「カーチェは、僕の回復を待って王位を返上すると言ってくれているようだけど……、ずっと、彼女が女王のままで、いいんじゃないかな」

「陛下」


 僕は顔を横に向け、ヘルムートを見た。

「卿もそう思っているんじゃないかい? ……この乱世において、僕よりも彼女のほうが王に向いている。彼女はおそらく、この大陸の覇王というべき存在になるだろう」

「…………」

 ヘルムートの沈黙が、すべてを物語っている。

 彼は王宮にあって、血筋や家柄ではなく、その者の価値、本質を見極められる数少ない人間だ。

 サムエリ公爵もそうだったな、と思い、僕は苦く笑った。


「カーチェにとって僕は、重荷以外の何物でもなかったんだろうな。そう考えると、胸が痛いよ。……彼女が気づいているかどうかはともかく、彼女はずっと……、サムエリ公爵に恋をしていたんだから」

「陛下」

「サムエリ公爵もそうだ。……僕は、気づいていながら何も知らぬふりをしていた。彼がどれほど苦しんでいるのか、わかっていたのに……」

「あれはサムエリ公の自業自得です」

 ヘルムートは苦々しい口調で言った。


「カーチェ殿下はともかく、私はサムエリ公には、同情の余地などないと考えております」

 だいたい、サムエリ公は慎みがなさすぎる! 夜這いだの何だのと! と、ヘルムートは訳の分からぬ怒りを爆発させていた。彼は時々、よくわからない理由で荒ぶっている。


「サムエリ公爵はね……、あれは、しかたないと思うよ。彼は、たぶん、初めて恋に落ちたんだ。初恋の愚かさを知る者なら、彼を責められはしないだろう」

 僕の言葉に、ヘルムートは驚いたように目を見開いた。

「え、初恋? サムエリ公が? ……しかし、サムエリ公は三年前まで」

「あれは政略結婚だ。……なんとかうまくやっていこうと、努力していたようだけど。ヘルムート卿こそ、よくわかっているだろう。恋とは、そんなに上手く制御できるものかな? 卿が、己の恋心の手綱を問題なく操れた、と言うのなら、僕からはもう、何も言うことはないけど」

 そう言うと、ヘルムートは押し黙った。

 彼と奥方のロマンスは、魔術師の塔のみならず、宮廷で知らぬ者はいないほど有名な話だ。ヘルムートは、数多の浮名を流したライラ殿と恋に落ちると、決闘までして他の男を蹴散らし、結婚に漕ぎつけたのだ。


「……陛下は、それでよいとおっしゃるのですか」

 ヘルムートがぽつりとつぶやいた。

「カーチェ殿下とサムエリ公が結婚し、二人ともルコルダルを名乗れば……、いずれ陛下がこの国に戻られた時、陛下はまた違う誰かを娶らねばなりません」

「それくらい、二人のしてくれたことに比べれば、大したことないよ」


 かつてサムエリ公爵は、妻を殺された。彼の妻と僕の母親は、僕の身代わりとなったのだ。

 そして今、カーチェは、命がけで反乱軍を鎮圧しようとしている。

 何もかも、ベルガー王家が背負うべきものを、二人に肩代わりさせているのだ。


「……僕は、カーチェの剣の主だからね。主たるべく、己に仕えてくれる者の幸せに、心を配らなくては」

 そうだ、と僕は自分に言い聞かせた。


 僕はもはや、彼女の婚約者ではない。

 だが、彼女は僕に剣を捧げてくれた。僕は彼女の剣の主だ。その信頼に応える存在でありたいと思う。


「明日、カーチェと一緒に、サムエリ公爵にも会えるだろうか?」

「陛下がお望みなら、そう手配いたしますが」

「そう。じゃあ、お願い。サムエリ公爵は神聖帝国まで一緒だけれど、カーチェと二人そろって会えるのは、何年も先になるだろうからね。二人に感謝とお別れと……、それから、祝福を授けたいんだ」

 かしこまりました、とヘルムートが頭を下げる。


 視線を窓に向けると、僕の願望が見せた幻なのか、一瞬、木漏れ日が窓に反射し、鮮やかな黄色の蝶のように見えた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ