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可愛くて強い私の陛下、一生お守りいたします  作者: 倉本縞


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52.ヘルムートの苦手な人種

「バルドール様、どうぞお座りになって」

 にこにこしながらロウィーナ男爵夫人が言ったが、バルドの力はゆるまない。

「もー、バルド、骨が折れるよ! いい加減に放して!」

「カーチェ」

 唇が触れるほど近くに顔を寄せ、バルドが言った。


「おまえを迎えに来た。草原に帰ろう」

「ちょっと! いい加減にしないと、また刺すよ!」

 バルドの足を蹴ると、ため息をついて体を離された。


「お茶を入れますわ。お座りになって」

 ロウィーナ男爵夫人が輝く笑顔で言った。

「……カーチェの愛人候補の一人だな」

 バルドはロウィーナ男爵夫人をじっと見つめ、頷いた。


「わかった、しかたない。このご婦人も連れていく。だから草原に帰ろう、カーチェ」

「ハァアア!?」

 ヘルムートが飛び上がって叫んだ。


「わかったって、わかったって、なになになにが!? 連れていくって、おい、ふざけるなよ、この草原のハロルドが!」

「ふざけていない。それに、俺の名はバルドールだ。ヘロードではない」

 バルドは執務机の前に置かれたソファに腰を下ろした。

「どうぞ、バルドール様」

 すかさずロウィーナ男爵夫人がお茶を差し出した。

「いただこう」

 落ち着いた様子でお茶を飲むバルドに、ヘルムートが地団太を踏んだ。


「きさま! なに当然みたいな顔して、ライラの入れたお茶を飲んでるんだ! ライラもなんでこんなやつにお茶なんて……!」

「ヘルムート様も、どうぞ」

 ロウィーナ男爵夫人からきらっきらの笑顔を向けられたヘルムートは、思わずといった様子でお茶を受け取り、バルドの向かいのソファに座った。

「………………」

 光り輝くロウィーナ男爵夫人の笑顔を見つめ、ヘルムートがちょっと赤くなる。気持ちはわかるけど。


「カーチェ」

 バルドの声に、わたしはハッと我に返り、ヘルムートの隣に座った。

「土産だ」

 バルドが懐から短剣を取り出し、わたしに差し出す。小ぶりな湾刀だ。黄金の鞘から引き抜き、ブレードを確認すると、油をさしたようにぎらついている。

「ちょっと重いな」

「鞘が黄金だからな。実戦用に木鞘を作ればいい」


 わたしは立ち上がり、剣を構えて軽く腕を振ってみた。刀身は軽く、素早く動ける。切れ味も良さそうだ。

「うん、気に入った」

「そうか」

 バルドが嬉しそうに笑った。

「……土産はもう一つある。おまえの欲しがっていた情報を教えよう」


 バルドの言葉に、ヘルムートが険しい表情になった。

「待て。……バルドール殿、一つ伺いたいのだが」

 バルドはお茶をテーブルに置くと、ヘルムートを睨んだ。

「……おまえに、俺の名を呼ぶことを許した覚えはない」

 部屋に緊張が走り、ヘルムートが目を吊り上げた。


「なんだと? きさま、ライラが名を呼んだ時は何も言わなかったくせに」

「そこの美しいご婦人はカーチェの愛人候補だが、おまえには特に考慮すべき事由はない」

「……きさま」

 一触即発の空気に、わたしは慌てて声を張り上げた。

「あー、待って! ヘルムットー、ちょっと黙って!」

 わたしはバルドの隣に座り直し、その肩に手を置いた。

「バルド、紹介する。この黒いやつは、ヘルムットー・マクシーテだ。ちょっと死神みたいな見目をしているし、いろいろ問題もあるが、でも、いいやつなんだ」

 黒いやつってなんだ、死神ってなんだ、とヘルムートが騒いでいるが、バルドは気にした様子もなく、わたしを見つめた。

「……こいつが、いいやつ?」

「うん。辛い時、側にいてくれた。慰めてくれたんだ」

「……そうか」

 バルドはため息をつき、ヘルムートに向き直った。


「ヘルムットー・マクシーテ。我が名はバルドール・ラジラス。……バルドと呼ぶことを許そう」

「結構だ! バルドール・ラジラス殿!」

 ふんっとそっぽを向くヘルムートに、バルドは顔をしかめた。

「……こいつが、いいやつ?」

「う、……ん。まあ、うん……」

 わたしは視線をさまよわせ、立ったままのロウィーナ男爵夫人に気づいた。


「あ、ごめんなさい、ローナ男爵夫人、座ってください! ……バルド、こちらのご婦人の紹介もさせてくれ! こちらはローナ男爵夫人! わたしの愛人候補だ!」

 胸を張って言うと、

「ふむ……」

 バルドはロウィーナ男爵夫人を一瞥すると立ち上がり、さっとロウィーナ男爵夫人の前にひざまずいた。


「あら」

 どこか嬉しそうな声を上げるロウィーナ男爵夫人に、

「神秘の国の麗しきご婦人に、ご挨拶申し上げる。我が名はバルドール・ラジラス。草原の氏族、ラジラスの次期族長にして、カーチェ・ルコルダルの婿候補だ。どうぞバルドと呼んでくれ」

 胸に手を当て、バルドが言う。


「おい、なんだあれは! 私の時とずいぶん名乗り方が違うではないか!」

「わたしに文句言わないでよ」

 ヘルムートはぷんぷんしているが、なんかバルドに向ける目に、怯えがあるように見える。

「……なに、どうしたの、ヘルムットー。バルドは別に、いきなり斬りかかってきたりしないよ」

 小声で言うと、

「だっ……、いや、だってあいつ……、なんかハロルドみたいで……」

 ああいうやつ苦手なんだ、とヘルムートが言いづらそうにもごもごと言った。


 バルドのどこが、ハロルドに似てるんだろう? 肌や髪、瞳の色もぜんぜん違うし、性格も、バルドは頑固だけどハロルドは素直だ。この二人に、似たところなんてないと思うんだけど。

 よくわからないけど、なぜかヘルムートはバルドのことが苦手らしい。

 バルドは無口で誤解されやすいけど、とても優しいやつなんだけどなあ。



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