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4.王城

「カーチェ王女殿下。遠き東方の地より、ベルガー王国へようこそおいで下さいました。殿下に拝謁の栄を賜り、恐悦至極に存じます」

 王城に着くと、城門の内側になんかずらっと人が並んでいた。

 その先頭に、金髪に白髪混じりの男の人がいて、馬に騎乗したままのわたしに頭を下げた。


「……レーマン侯爵殿、出迎え大儀である。騎士団長ヨナス殿はどちらに?」

 わたしの横に馬を並べたクラウス卿が、やや強張った表情で白髪交じりの男の人に問いかけた。

 レーマン侯爵、とわたしは口の中で小さくくり返した。

 よかった、これは簡単に発音できそう。


「これはサムエリ公爵様、カーチェ王女殿下護衛のお役目、ご苦労様でございました。……殿下におかれましては、道中、何も問題はございませんでしたか?」

 レーマン侯爵ににこやかに問いかけられ、わたしもにこっと笑い返した。


「レーマン侯爵、そなたの気遣いを嬉しく思います! 道中、何も問題はありませんでした! ありがとう!」

 元気よく答えると、レーマン侯爵は面食らったように瞬きし、しばらく無言になった。

 隣でクラウス卿が咳き込んだのでそちらを見ると、口に手をあててうつむき、肩を震わせている。


「クラース卿? どうしましたか?」

 クラウス卿はゴホッと大きく咳払いすると、わたしに笑いかけた。

「いえ、何も。……ただ、当初は第一騎士団が殿下のお迎えにあがる予定だったのですが、こちらのレーマン侯爵殿のお気遣いにより、第一騎士団ではなく、わたしと第三騎士団がその栄えある役目を任されました。ベルガー王国の者として、真っ先に殿下にお目にかかれる栄誉を賜ったこと、レーマン侯爵殿に礼を言わねばならぬと思っていたのです」

「なるほど、そうでしたか」


 わたしはあらためてレーマン侯爵を見た。

 襲撃される可能性もあるのに、なんであんまり強くない第三騎士団とクラウス卿を迎えに寄越したんだとは思うけど、ひょっとしたらベルガー王国には、草原みたいに強い剣士がいないのかもしれない。

 そういうことならレーマン侯爵を責めるのも可哀そうだし、そもそも襲撃犯自体、弱かったから問題ないか。

 よし、とわたしは頷き、レーマン侯爵に声をかけた。


「そなたはなかなか気の利く人物のようですね! これからもよろしく頼みます!」

「…………ははっ」

 少しの沈黙の後、レーマン侯爵は再びわたしに頭を下げた。


「そうだ、レーマン侯爵殿」

 クラウス卿は騎乗したまま、レーマン侯爵を見下ろして言った。

「道中、何も問題はないと殿下は仰せだが、馬車にちと不具合があったようだ。天井の骨組みが一部破損している。この馬車には、ルコルダルの花と呼ばれる非常に貴重なつづれ織りが使われているゆえ、至急、修繕部に命じて直させるように」

「……承りましてございます」

 頭を下げたまま、レーマン侯爵が返事をした。


 そのまま馬を進めると、城壁塔から一人の男性が走り寄ってきた。

「クラウス様」

 長い茶色の髪を一つに結んだ男性が、クラウス卿に頭を下げた。


「セレスか」

 クラウス卿は馬を止めると、男性に声をかけた。

「いま戻った。第一騎士団長殿はどちらに?」

「クラウス様、よくぞご無事で。ヨナス様は、陛下のお側に付いておられます」

「そうか」

 クラウス卿は頷くと、わたしを振り返った。


「殿下、この者はサムエリ公爵家の者で、セレス・ダルシアと申します」

 わたしは馬を止め、セレスを見た。

「セレス・ダルシアと申します、殿下。サムエリ公の補佐を務めております」

「セレース・ダーシャ」

 わたしは頭をかいた。

「発音が難しいな」

「どうぞ、お好きにお呼びください。殿下のお力になれれば幸いにございます」


 わたしはセレスという男をじっと見た。

 年の頃はクラウス卿と同じくらいだろうか。なんとなくクラウス卿に雰囲気が似ている。

「クラース卿に似ているな」

 わたしの言葉に、セレスもクラウス卿も、はっとした。

「恐れ多いお言葉でございます。私のような身分卑しき者に、過分なるお言葉です」

「……参りましょう、殿下。セレス、第一騎士団長殿に殿下が到着された旨をお伝えしてくれ」


 クラウス卿にうながされ、わたしは側塔の馬車回しまで馬を進めた。後ろで、馬車を降りたマイアがこちらに駆けてくるのが見えた。

「姫様!」

「マイア」

 わたしも慌てて馬を下り、マイアに走り寄った。


「マイア、大丈夫だった?」

 襲撃犯を倒した後、とりあえず全速力で王城を目指したから、マイアともろくに言葉も交わせなかったのだ。でも、見た感じ、怪我とかはしてなさそうで、ちょっとほっとした。

「あれくらい、何ということもありませんわ! カーチェ様こそ、ずっと戦っていらっしゃいましたでしょう」

「平気、平気。マイアも見たでしょ? あいつら弱かったもん、ぜんぜん問題ないよ」

 にこにこしながら話していると、クラウス卿に声をかけられた。


「殿下、お疲れでしょうが、この後は陛下にご挨拶いただけませんか? 私がご案内いたします」

 陛下……、レギオン・ベルガー様。わたしの結婚相手!

「はい、わかりました」

 わたしはうなずき、クラウス卿の後に続いた。

 レギオン・ベルガー様。どんな方なんだろう。なんかドキドキしてきた!

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