37.あなたも一緒に
部屋に戻ると、ロウィーナ男爵夫人が待っていてくれた。
「わああ! ローナ男爵夫人!」
久しぶりに会ったロウィーナ男爵夫人は、輝いて見えた。
「会えて嬉しい! 嬉しいです! 会いたかった!」
飛びついてぎゅうぎゅう抱きしめると、ロウィーナ男爵夫人は笑って抱きしめ返してくれた。
「まあ、殿下。わたくしも殿下にお会いしとうございました」
わたしたち両想い! 幸せ!
しばらくロウィーナ男爵夫人に抱き着いて幸せを堪能していると、セレスに声をかけられた。
「お茶をお入れしました、殿下。ロウィーナ男爵夫人もどうぞ」
わたしはソファに座り、お茶を受け取った。最近、セレスはいつもわたしの好きなハーブティーを入れてくれる。
「ね、ね、ローナ男爵夫人! このお茶すっごくおいしいです! ヘルムットーが来る時だけじゃなくて、毎日このお茶飲んでます!」
「まあ」
ロウィーナ男爵夫人が驚いたような、少し嬉しそうな表情になって言った。
「そのお茶は、実はあまりベルガー王国では親しまれておりませんの。……恐らく、王都で消費される量の半分くらいは、ヘルムート様が購入したものだと思いますわ」
「え。……あ、そ、そうなんですか……」
「殿下とヘルムート様は、食の好みもよく似ていらっしゃいますのね」
「……偶然だと思います……」
いかにロウィーナ男爵夫人の言葉であっても、認めたくない事実だ。
ロウィーナ男爵夫人は、王宮から下がっていた間、情報収集をしてくれていたらしい。ベルチェリ商会と、夫人自らがマスターを務めるギルドを利用し、ベルガー王国周辺の国々を探っていたそうだ。
「殿下のお従兄様……、バルドール様とおっしゃいましたか? 先代の女王陛下の、兄君のご令息ですわね。いま、草原にはおられぬと伺いました」
バルド! 彼の名前に、わたしの心臓が跳ねた。
「やっぱりバルドは、ベルガー王国にいるんですか!?」
「そこまでは調べられませんでした。……草原の方がこの国にいらっしゃれば、ずいぶんと目立つかと思うのですけど、さすがは殿下のお従兄様ですわね。草原にはいらっしゃらない、ということを調べるので精一杯でしたわ」
「十分です。あとは、マイアが戻ってくるのを待ちます」
バルド。……バルドール。彼はいま、ベルガー王国にいるんだろうか。バルドと共謀する貴族派は誰なのか。レーマン侯爵家の夜会で見つけられるだろうか。
「あ、ローナ男爵夫人、そういえばヘロードに『ルコルダルの花』について助言してくれたんですね! ありがとう! きれいに修繕されてました!」
「いいえ、お礼を言われるほどのことではありませんわ。わたくしはただ、職人を紹介しただけですもの」
ロウィーナ男爵夫人は、くすっと笑った。
「……それに、ハロルド様があんまり一生懸命でいらっしゃるから、なんとなく哀れ……いえ、まあ、少しくらいお手伝いしてもよいかと」
そっかあ。ロウィーナ男爵夫人はやさしいなあ。
「あ、それと明日、レーマン侯爵家が主催する夜会に、出席することになりました!」
「……え?」
「衣装は、この前作ったドレスで大丈夫ですよね?」
「え、あの、……でも、どなたが殿下のエスコートを? サムエリ公爵閣下にご連絡をされましたの?」
「ううん、ヘロードが一緒に出席してほしいって言うから、いいよって言いました!」
「え?」
ロウィーナ男爵夫人が戸惑ったようにわたしを見ている。
なんか問題あるのかな?
「あの、大丈夫です! ヘロードは宝石をくれるっていうから、お返しに、ちゃんと剣を贈るって約束しました!」
「え!?」
ロウィーナ男爵夫人が目を見開いた。
「や、約束をなさったのですね……」
「はい!」
ロウィーナ男爵夫人は額に手をあて、呻くように言った。
「あの女たらし……。少し甘い顔をするとこれだから」
「ローナ男爵夫人?」
ロウィーナ男爵夫人は、にこっと笑ってわたしを見た。
「殿下、ぜひその夜会にわたくしも出席しとうございます。一緒に連れていってくださいません?」
「もちろん! もちろん連れてゆきます、ローナ男爵夫人!」
わたしは嬉しくなった。
夜会ではいろんな貴族と話さなくちゃいけないけど、ロウィーナ男爵夫人がいるなら、安心だ。何より、夫人と一緒にいられたら嬉しい。
「夜会では、またわたくしと踊ってくださいます?」
「はい! 絶対に踊ります!」
わたしはウキウキした。
情報収集のための夜会だけど、ロウィーナ男爵夫人とは何がなんでも踊るぞ。
「それから、わたくしからも殿下に何か、贈り物をさせてくださいな」
「贈り物?」
首をかしげるわたしに、ロウィーナ男爵夫人がにっこり笑って言った。
「ええ、夜会に誘っていただいたお礼です。ハロルド様が宝石を贈られるというなら、わたくしは殿下に、新しいドレスを贈りますわ」
「え? 新しいドレス? でも……」
「この間、ドレスを作った際に殿下のサイズを採寸させていただいておりますから、既製のドレスを少し手直しすれば大丈夫ですわ。わたくしは草原風の衣裳を着させていただきます。ですから、殿下、それに合うような湾刀をくださいません?」
「いいですよ!」
それなら礼を欠くことにはならない。ロウィーナ男爵夫人は体を鍛えているし、女性用の軽い湾刀がいいだろう。ロウィーナ男爵夫人に、どれか好きなものを選んでもらってもいいな。
わたしがにこにこしていると、
「よかった。……ありがとうございます、殿下」
「はい!」
ロウィーナ男爵夫人も嬉しそう。……ていうか、なんかホッとしてるように見える。どうしたのかな?
「それでは、急ぎドレスのサイズ修正に取りかかるよう、職人に連絡いたしますわ。楽しみですわね、殿下」
そう言うとロウィーナ男爵夫人は、どこか謎めいた、たまらなく魅力的な笑みを浮かべた。




