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可愛くて強い私の陛下、一生お守りいたします  作者: 倉本縞


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36/60

36.あなたと一緒に

「ヘロード、なんか怒ってるのか?」

「違います!」

 ハロルドは大声を上げ、それからうなだれた。

「申し訳ありません、殿下……」

「どうした。何を謝る? また誰かに無礼な振る舞いでもしたのか?」

「してません!」

 再び大声を上げたハロルドは、はあ、と深くため息をついた。


「……わたしの、父のことですが」

 厩舎からわたしの部屋へと戻る道すがら、ハロルドはぽつぽつと話し始めた。

「昔からああでした。……権力者にすり寄り、甘い汁を吸おうとする。いえ、父だけでなく、わたしもそうでした」

「そうか」

 わたしは、ヨナス卿の言葉を思い出していた。

『ただ甘い汁が吸えればいいってだけの、理念も信条もない金の亡者の集りです』、そう言ったヨナス卿の顔は、明らかに嫌悪の色が浮かんでいた。


 草原では、約束を破ったり他人を騙したりしなければ、金を得るために努力することを蔑む人間はいない。むしろ、金儲けできる賢さを褒めたたえられる。

 だがベルガー王国では、商人や金貸しの地位は高くない。そもそも金儲け自体、あまり良いこととはされていなのだ。

 金はベルガー王国でも草原でも変わらぬ力を発揮するが、表面上、それを認めるのはご法度らしい。なんでだ。意味がわからない。


「おまえも苦労しているのだな」

 訳のわからぬしきたりに、きっとハロルドも困っているのだろう。そう思って言うと、ハロルドはわたしの表情を横目で伺った。

「……レーマン侯爵家の、宝石を贈るなど……」

「うん」

「失礼な申し出をいたしました。殿下がご不快に思われたのではないかと……」

「うん?」


 わたしは少し驚き、ハロルドを見た。

「不快? なんで? レーマン侯爵は、別に宝石の見返りに馬を寄越せとか言ったわけではないぞ。なにも不快に思う理由などないだろう?」

「……え、ああ、その、それは……」

 ハロルドは戸惑ったようにわたしを見た。


「……あの、それでは、宝石を贈ってもかまわない……、のでしょうか? 『レーマンの青』と呼ばれる宝石を?」

「かまわない。……が、もらっても何を返せばいいのかわからない。ヘロードが宝石をくれるというなら、何か欲しいもの……あ、草原の馬はダメだ。あれは他国に出すと弱ってしまうことが多いからな。可哀そうだから、勘弁してくれ」

「あ、いえ、馬は間に合ってます」

「じゃあ、何を返せばいい?」

 ハロルドはわたしを見た。


「……それでは、わたしの贈った宝石を身につけ、ともに夜会に出席してくださいますか?」

「そんなことでいいのか?」

「はい!」

 勢いよく返事をするハロルドに、わたしは少し考えた。


 夜会。そこには大勢の貴族が集まる。

 ベルガー王国の情報は、ベルガー王国の人間でなければ手に入れることは難しいだろうと思っていた。

 だが、レギオン様の言う通り、この瞳、王家の瞳に人を見抜く力があるというのなら、わたしにもできるかもしれない。


「……なるべく多くの貴族が集まる夜会がいい」

「それならば、ちょうど明日、レーマン侯爵家主催の夜会がございます。殿下のご希望通りの、王都一、盛大な夜会です」

 たしかに、それならば都合がいい。……が、ハロルドに宝石をもらい、わたしは何のお返しもせずただ宴に出るだけなど、あまりに厚かましい行為だ。草原の民とはなんと礼儀知らずであることよ、とベルガー王国の貴族たちにも思われてしまうだろう。わたしはともかく、草原の民がそう思われてしまっては申し訳ない。


「いや、やっぱりダメだ」

「……そうですか」

 しゅんとするハロルドに、わたしは言った。


「剣はどうだ?」

「……剣?」

 ハロルドは、目を瞬かせてわたしを見た。

「うん、馬はダメだが、剣なら何振りか草原から持ってきているからな。……わたしはもらった宝石を身につけ、宴に出る。ヘロードは、わたしの贈った剣を佩いて宴に出る。どうだ、これなら問題ないだろう?」

「……え?」

 ハロルドは驚いたようにわたしを見た。


「剣……、草原の……、殿下の剣を、わたしに?」

「うん。ハロルドの筋力に合った剣があるかどうかが問題だが、たぶん大丈夫だろう」

「本当ですか!?」

 すごい勢いで迫られ、わたしはのけぞった。


「あ、うん。……大丈夫だと思うんだが、あとで剣を見てみる。もし筋力に見合わぬようだったら」

「大丈夫です! 筋力を合わせます!」

 無茶なことを言うハロルドに、わたしは思わず笑った。


「殿下、冗談をおっしゃったのですか? やはり、一緒に夜会に出てはいただけないのですか?」

「いや、本当だ。……ヘロードは剣が好きなのか? たしかに草原の剣は、こちらではあまり見かけないな。珍しいと言えば珍しいが、慣れぬと使いづらいかもしれん」

「すぐ慣れます!」

 ハロルドは勢い込んで言った。


「お願いです、殿下。今さら冗談だなどとは、おっしゃらないで下さい」

「わかった、わかった」

 わたしは笑いながら、ハロルドの背を軽く叩いた。

「ヘロードの筋力にぴったりの、良い剣を贈ろう。約束だ」

 言いながら、わたしは心が浮き立つのを感じた。


 よし、これでレギオン様のお役に立てるぞ!


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