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可愛くて強い私の陛下、一生お守りいたします  作者: 倉本縞


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31.わたしの大事な愛人候補

「おい、きさま! ハロルドを愛人にしたというのは本当か!?」

「うるさいなあ。ヘルムットー、なんでおまえはいつもそんなに騒がしいんだ?」

 わたしは顔をしかめ、部屋に入ってきたヘルムートを見た。


 まだマイアも帰ってこないし、クラウス卿も音沙汰がない。マイアはともかく、クラウス卿はあんまり強くないから心配だ。怪我をして泣いたりしてたらどうしよう。


 ただでさえ心配事で神経質になっているのに、ヘルムートのうるささにわたしはイラッとした。

 だが、ヘルムートはわたしの機嫌の悪さなど気にもとめず、さらに言いつのった。


「今までのきさまのやりようは、無茶苦茶だが、まあ筋が通っていると言えなくもない。だから容認してきたのだ。……が、これは絶対に認められん! ハロルド・レーマンを愛人にするような人間と、同じ側に立つことなどできん!」

「……言っとくけど、ヘロードはわたしの愛人じゃない」

 わたしの言葉に、ヘルムートは、は、と息を吐いた。


「……そ、そうか。ん、まあ、……そりゃそうだな。いくら何でもあんなやつ」

「今はまだ、な」

「ハア!?」


 ヘルムートはつかつかとソファに歩み寄ると、わたしの耳に顔を近づけて怒鳴った。

「きさま、正気か!? 今はまだ、って……、将来的に、あの男を愛人にするつもりなのか!?」

 わたしは耳をふさぎ、言い返した。

「まだわからない。今、育てている最中だからな。……なんでヘルムットーは、ヘロードを愛人にするのに反対なんだ? クラース卿の時も、ローナ男爵夫人の時も、……まあ、ローナ男爵夫人の時は反対してたか。……あ」

 わたしは、ある可能性に思い至り、ヘルムートを見上げた。


「ヘルムットーは、ヘロードを愛人にしたいのか?」

「はぁああああ!?」

 ヘルムートは大声を上げ、飛び上がった。


「なにを言っている!? よせ、冗談じゃない! なんで私が、あの最低カス野郎を愛人にせねばならんのだ!? なにその地獄! まだサムエリ公のほうがマシだ!」

「えっ、ヘルムットー、クラース卿を愛人にしたいの!? ダメだよ、クラース卿はわたしが愛人にするんだから!」

「誤解だ! なんでそうなる!? やめろ、考えただけで体が痒くなる!」

 うぎゃぉおおおう! と絶叫し、ヘルムートがくるくる回りはじめた。わたしはため息をつき、後ろでおろおろするセレスに言った。

「セレース、悪いが、ローナ男爵夫人からもらったお茶を入れてくれるか?」


 この前、ロウィーナ男爵夫人に、「もしヘルムート様が暴れ……いえ、大声を上げたり飛び跳ねたりして殿下にご迷惑をおかけするようなことがありましたら、このお茶を飲ませてくださいませ」と渡されたのだ。鎮静効果のあるハーブティーで、ヘルムートが戦場にまで持っていくほど気に入っているお茶らしい。

 なんか、ロウィーナ男爵夫人に大切にされてるって感じがして、羨ましい。いいなあ、ヘルムートは。なんであんなにロウィーナ男爵夫人に愛されてるんだろう。こんなにうるさくて死神みたいで、しかも魔術師なのに。


「どうぞ、ヘルムート様」

 セレスがお茶を差し出すと、その香りを嗅いだヘルムートは「あ、すまん、ありがとう」と一瞬、笑顔になった。ほんとにこのお茶、大好きなんだな。

 わたしもセレスからお茶を渡され、一口飲んでみた。……ふーん。まあ、悪くない味だ。口がさっぱりするな。


 ヘルムートはわたしに向かい合ってソファに座り、わたしは無言でお茶を味わった。

「……それでは、釈明を聞こうではないか」

 ヘルムートはわたしをキッと睨みつけて言った。

「こともあろうに、あのハロルドを! 愛人にし……てはいないが、将来的にする可能性もあるということなのだな?」

「そうだ」

「なんで!?」

 ヘルムートが、ほとんど叫ぶように言った。


「あいつは、ライラに無礼を働いたやつだぞ!」


「……なんだと?」

 わたしは顔をしかめ、ヘルムートを見た。

「それは初耳だ。……詳しく話せ」



 一刻後、わたしは全速力で第三騎士団の訓練場に向かって走っていた。すれ違う人々が驚いたようにわたしを見るが、そんなことを気にしている場合ではない。

 この間から、ハロルドは真面目に訓練に出ていると聞いたから、たぶん訓練場にいるだろう。いなければ、王宮内に与えられた部屋、そこにもいなければレーマン侯爵家を捜索するとしよう。

「ヘロード!」

 訓練場の入り口に、ばん! と手をつき、大声で名を呼ぶと、


「……殿下?」

 汗ではりついた金髪をうっとうしそうにかきあげながら、ハロルドが驚いたようにわたしを見た。木剣を手に、第三騎士団員と打ち合いをしていたようだ。大変結構。……が、それを褒めるのは後だ後!

「どうかなさったのか?」

「どうもこうもあるか! 来い!」


 わたしはハロルドに近づき、その手を取ると、強引に訓練場から連れ出した。

「殿下!?」

「黙ってついてこい!」

 訓練場を出る時、ヨナス卿がぽかんと口を開けてわたしとハロルドを見ているのが目に入った。

 片手を上げ、目礼しておく。またもや私用で訓練を中断させてしまった。後でヨナス卿には謝っておかねば。


「で、殿下、いったい……」

 うろたえたような声に、わたしはちらりと後ろを見た。

 ハロルドが顔を赤くして、わたしに握られた手を見ている。

 クラウス卿もそうだったが、いきなり手を握るのは、ベルガー王国の礼儀に反しているのかもしれない。……が、それもこれも後回しでいい、そんなことよりもっと重要な問題が!


 わたしは部屋にハロルドを引っ張り込んだ。

「で、殿下、ここは殿下の私室では……」

 うろたえるハロルドを睨みつけ、わたしは怒鳴った。

「ヘロード! おまえ、ローナ男爵夫人になんという無礼を働いたのだ!」


「……え?」

 ハロルドが目を丸くしてわたしを見た。あれ、もしかして間違い?

 わたしは振り返り、ソファに寝そべっているヘルムートに声をかけた。


「ヘルムットー、さっきの話、本当なのだろうな?」

「ああ?」

 のそりとソファから起き上がったヘルムートを見て、ハロルドが驚いた声を上げた。


「ヘルムート・マクシリティ! なぜここに!」

「……私は宮廷魔術師団長だからな。殿下の護衛を任されることもある」

 しゃあしゃあと言うヘルムートを、わたしはあきれて見た。


 ウソばっかり。ヘルムートがここに来るのは、ロウィーナ男爵夫人に会いたいか、わたしに文句を言いたいか、どっちかの時だけだ。わたしの護衛らしきことなんて、ハルスティアの森に行った時くらいしかしていない。


 わたしの冷たい視線を気にした風もなく、ヘルムートはハロルドと向かい合い、堂々と言った。

「ハロルド・レーマン。忘れたとは言わせぬぞ。貴様はその昔、わが……つっつ妻、ライラを侮辱した過去がある」

「……それが何か?」

 ふん、と悪びれた様子でハロルドがそっぽを向いた。


「ちゃんと謝罪をおこない、ライラ殿もそれを受け入れたはずだが?」

「「そういう問題じゃない!」」

 わたしとヘルムートは声をあわせて叫んだ。ビクッとハロルドの肩が揺れる。


「ヘロード! ローナ男爵夫人は、わたしの愛人となる大切な女性だ! 彼女を侮辱するような行為は、決して認めるわけにはいかぬ!」

「違うぞ、ハロルド・レーマン! ライラは誰の愛人にもならん! 彼女は私の……、ん、その、あの、だから……、アレだ、さっきも言ったが、つつつ「ヘルムットー、ごちゃごちゃうるさい! おまえはもうしゃべるな!」

 わたしはヘルムートに怒鳴ると、ハロルドに向き直った。


「ヘロード、今ここで誓え。……決してローナ男爵夫人に無礼は働かぬと。そして、かつての無礼を、心からローナ男爵夫人に謝罪するのだ。でなければ、おまえをわたしの愛人にすることはできぬ」

 わたしは腰に手を当て、呆然とするハロルドを見つめた。


 ロウィーナ男爵夫人は、わたしの大事な大事な、可愛い愛人候補だ。彼女を侮辱するやつは、誰であっても許さない! 絶対に!


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