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可愛くて強い私の陛下、一生お守りいたします  作者: 倉本縞


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29.偉大な女王様

 マイアもクラウス卿も戻ってこない。

 わたしは今日も、第三騎士団の訓練場に向かうことにした。


「そういえばセレース、ヘロードって人、知ってる? レーマン侯爵の……、たぶん息子かな?」

 訓練場に向かう途中、わたしは先に立って案内するセレスに聞いてみた。


「……ハロルド・レーマン様のことでしょうか。金髪に青い瞳の」

「そうそう、その人!」 

 セレスはかすかに眉根を寄せ、言った。


「レーマン侯爵家のご令息で、大変ご令嬢方に人気のあるお方と伺っております。しかし……」

 迷うような口ぶりで、セレスは言った。

「差し出がましいようですが、ハロルド様には、あまりお近づきになられないほうがよろしいかと」

「んー、近づくっていうか、この前の夜会で、挨拶されたの。でもわたし、ベルガー王国の問答形式を知らなくて、なんか怒らせちゃったんだ。……セレースは、意味わかる? 『自分を殿下に捧げます、如何ようにもお使いください、どのような要望にもお応えします』ってどういう意味なの?」

「……それは……」


 セレスは驚いたようにわたしを見た。

「……そのようなことを、ハロルド様が?」

「うん。それって、剣の相手か、踊りか歌か、料理をするってことかな、って思ったんだけど、そう言ったらヘロードが怒ったから、違うのかな? って」

「……う、ええと……、その、ああ、訓練場につきました殿下! その……、その申し出につきましては、ヨナス様にお聞きいただければと思います!」

 セレスは顔を赤くし、わたしの質問には答えずにそそくさと来た道を引き返していった。


 なんなんだろう。ベルガー王国の問答形式は、ほんとに訳がわからない。

「おう、カーチェ様。難しい顔して、どうしました」

 わたしに気づいたヨナス卿が、手を上げて親しげに声をかけてくれた。

 うん、考えてもわからないことは、素直に聞くに限る。

 わたしは、先ほどセレスに説明した事を、ヨナス卿にくり返した。


「……ってことなんですけど、意味わかりますか、ジョーナス卿?」

「そいつあ……」

 ヨナス卿は苦い顔で、顎をさすった。


「なんか悪い事ですか?」

「悪い……、まあ、悪いっつうか……、社交界ではありふれたやり取りかもしれませんが、俺はそういうのは虫唾が走る」

 吐き捨てるように言ったヨナス卿は、わたしをちらりと見た。


「まあ、アレです、つまりは夜のお誘いです。……殿下は、ほら、……サムエリ公やロウィーナ男爵夫人を愛人にしてるって、貴族の間で噂になってますから。あわよくば自分も、ってことなんでしょうよ」

「ええ!?」

 わたしは驚いてヨナス卿を見た。


「それがベルガー王国式の、愛人の申し込み方なんですか? ぜんぜんわからなかったです!」

「そういうことじゃなくて……、いや、合ってるのか? ともかく……」

 ヨナス卿は唸った。


「つまり……、なんて言えばいいんですかね、サムエリ公もロウィーナ男爵夫人も、殿下に目をかけていただいてますよね?」

「目をかけ……、大好きってことですか? その通りです、大好きです!」

「ハロルドの野郎は、それと同じ地位に納まりたいんでしょうな。ヘルムートとの一件があってから、父親のレーマン侯爵にも見限られたようですし、焦っているんでしょう」

 わたしは首をかしげた。


「レーマン侯爵は、貴族派なのでは? わたしに気に入られてもしかたないんじゃないですか?」

「そう簡単な話じゃありません」

 ヨナス卿は苦笑した。


「貴族派も一枚岩じゃない。……元々あいつらは、ただ甘い汁が吸えればいいってだけの、理念も信条もない金の亡者の集りです。貴族派の旗色が悪いと見れば、平気で国王派に尻尾を振るようなやつらですから」

「へー」

 それはそれで、わかりやすくていい。

 金や利権だけが目的なら、ごちゃごちゃ考えずに済む。与えても問題ないものは与えて味方にし、そうできないなら倒せばいい。


 しかし、そうか。ハロルドは、わたしの愛人になりたいのか。

 でも、今のままじゃ無理だ。いくらレーマン侯爵家の後継者が国王派に鞍替えするという利点があっても、あんな弱い男を愛人にするのはごめんだ。いや、弱くてもいいが、あのバランスの悪さは耐えがたい。見ていて落ち着かないし、第一恥ずかしい。

 マイアだって呆れるだろう。わたしを非難する姿が目に浮かぶようだ。姫様、あんな体軸の傾いだ男を愛人になさったのですか、って。


「ジョーナス卿、ヘロード・レーマンを訓練場に呼んでもらえますか」

 わたしの言葉に、ヨナス卿は顔をしかめた。

「そりゃかまいませんがね。……何をなさるおつもりですか」


「一緒に訓練をします」


 わたしの言葉に、ヨナス卿はぽかんと口を開けた。

「は? 何を……」

「わたしの愛人となるなら、最低限の筋肉はつけてもらわないと! 何より、あんなに体軸が傾いていては、危なっかしくて見ていられません!」

 わたしは力強く言い切った。そして、思い出した。


 そういえば父上も、母上の愛人にしてもらう時、「筋肉をつけろ! 体を鍛えてから出直せ!」って言われたんだっけ。

 父上がすごく幸せそうに教えてくれたけど、母上は大変だっただろうなあ。体の出来ていない男を、鍛え直したんだから。

 うん、やっぱり父上の言う通り、母上は偉大な女王様だ。

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― 新着の感想 ―
[一言] オモシロイ! 今一番楽しみな連載です へロードの仕上がりが楽しみです
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