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可愛くて強い私の陛下、一生お守りいたします  作者: 倉本縞


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27.昔の男

 せっかく森に来たのだから、何か仕留めて帰りたかったのだが、ヘルムートの主張により、わたしは泣く泣く手ぶらのまま王宮に戻ることにした。

「おまえはいいかもしれんがな、このまま狩りを続け、もしライラの身に何かあればどうするつもりだ?」

 そう言われてしまうと、わたしも強く反論できない。


「わたくしは大丈夫ですわ、殿下。護身術は修めておりますし、お二人の足手まといになるようでしたら、すぐ逃げますもの」

「うん、それはヘルムットーもわかってると思います。ただ、心配なの。ローナ男爵夫人が大切だから。……だから、今日はもう、帰ろ」

「まあ、殿下」

 ロウィーナ男爵夫人は目を見張り、それからふふ、と優しく笑った。


「そのようにおっしゃられると、なんだかドキドキしてしまいますわ。……殿下は、人を口説くのがたいそう上手でいらっしゃいますのね」

「「エッ!?」」

 わたしとヘルムートは飛びあがった。


「えー、ほんと? ほんとですか、ローナ男爵夫人? じゃあじゃあ、わたしの愛人に「絶対ダメだ!」

 ヘルムートが吼えた。


「そ、そそんな……、そんなのダメだ、絶対ダメ! わ、私だって私だって、ライラが大切で大事なのに! なんでそんな」

「ヘルムットー、うるさい」



 そういう訳で王宮に戻ってきたのだが、わたしの部屋で(セレスは控室に下がらせ、魔道具で簡易結界を張った)録音を確認することにした。

 ヘルムートはロウィーナ男爵夫人の隣に、わたしはその向かいのソファに座り、録音の再生に耳をすませたが、雑音が多くて詳細を聞き取ることができない。

「ヘルムットー、これ、失敗作じゃない? ぜんぜん聞こえないんだけど」

「失敗は成功の母という言葉を知らんのか? ここから改善を重ね、実用化に向けて努力してゆく段階にあるのだ。これこそが魔道具製作における醍醐味というのに」

 ふんっとそっぽを向くヘルムートは放っておいて、わたしは気になる箇所をもう一度聞き直した。


 ザザ、ザサッという雑音にまぎれ、途切れ途切れではあるが、低い男の声が聞こえる。

『……なんだ、この虫は。ハーステアの森……こんな虫が……』

『痴れごとを……、……がそろったら……。戦……、いくらでも……。まだ……』

 わたしは少し、考え込んだ。


 ところどころ聞こえる単語をつなぎあわせれば、貴族派が金で集めた傭兵相手に指示を出しているのだとすぐわかる。

 まだ動いてはならぬ、だがその時は近い。もうすぐ戦が始まる、と。


「……なんだ。何か気になることでもあったか?」

 ヘルムートが怪訝そうにわたしを見た。

「んー……、ヘルムットー、ベルガー王国の騎士とか傭兵って、どこがどういう獣の縄張りだとか、どういう虫が生息しているとか、そういうことに詳しい?」

 わたしの質問に、ヘルムートは考え込んだ。


「……私は趣味で動植物の生態系を調査しているから、だいたいのことは把握しているが、普通の騎士たちはまず、知らんだろう。ヨナスなら、ある程度の知識はあるかもしれん。傭兵も、他国を渡り歩いている経験豊富な者なら、あるいは」

「あのね、この男、ヘルムットーの魔道具に気づいてる。ただ、魔道具だとは知らなくて、なんか珍しい虫だって思ってるみたい」

 わたしはため息をついた。この予想が当たっていたら、面倒なことになりそう。


 わたしはロウィーナ男爵夫人にもわかるよう、説明した。

「……草原では、自分のいる所とこれから向かう場所に、どんな獣がいるのか、どういう虫がいて、どういう役割を果たしているのか、……そういうことを徹底的に調べます。草原はどこまでいっても草原で、景色で見分けがつかないから。星と風、獣と虫で、自分の今いる場所を知るんです」

 ヘルムートとロウィーナ男爵夫人が、わたしの言わんとするところを察したらしく、驚いた表情を浮かべた。


「うん……、たぶん、この男は草原の民だと思います」

「……そういえばこの男、『ハルスティア』を『ハーステア』と発音しているな。草原の訛りだ」

「でも、なぜハルスティアの森に?」

 ロウィーナ男爵夫人が戸惑ったように言った。

「わざわざ森で会わずとも、王都には貴族派の者たちの屋敷がありますのに」

「三年前のあの茶会の後、王都内の貴族の屋敷は、すべて宮廷魔術師団の監視下にある」

 ヘルムートは淡々と言った。


「屋敷を訪れた者、手紙のやりとり等もそうだ。王都の外に出れば監視もゆるむが、そもそも王都から出ようとすれば、それだけで目立ってしまうからな。殿下の侍女でさえ、魔術師に見つかったのだ、貴族ならなおさらだろう。……そう考えれば、森で密談というのは、よい手かもしれん。冒険者の格好をした他国の人間など王都には掃いて捨てるほどいるし、貴族どもも王都内なら出歩いても別段おかしくはないからな。……考えたものだ」

 ふん、とヘルムートが鼻を鳴らした。


「あのね、それから……、この草原の人なんだけど」

 わたしはもじもじしながら言った。うう、なんだか恥ずかしい。


「この草原の人、ひょっとしたら昔、わたしに妻問い……、結婚の申込みをした人かもしれません」


「ああ!?」

「えっ!?」

 ヘルムートとロウィーナ男爵夫人が、驚愕の声を上げ、わたしを見た。


「いや……、うん、もしかしたら、だけど。よく声も聞こえないし、確信はないんだけど……」

 わたしは赤くなってうつむいた。


 確信はない。……けどたぶん、間違いない。

 きっと、彼だ。

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