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可愛くて強い私の陛下、一生お守りいたします  作者: 倉本縞


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24/60

24.宴の後

「今夜は楽しかったねえ!」

「ええ、ほんとうに! 夜会とは、なかなか面白いものですわねえ!」

 わたしとマイアは、帰りの馬車の中でも興奮して、ずっとしゃべっていた。


 ロウィーナ男爵夫人とヘルムートは、今夜はそのままベルチェリ伯爵家に泊まるとのことだったので、王宮に戻るのはわたしとマイアとクラウス卿だけだ。


 ベルチェリ伯爵家の夜会は、とても面白かった。

 クラウス卿ともロウィーナ男爵夫人とも踊ることができた。次は、二人以外の貴族ともおしゃべりしてみたい。

 あのハロルドとかいう、レーマン侯爵家の後継者を怒らせてしまったことから考えるに、ベルガー王国の貴族と会話を楽しむためには、ベルガー王国の問答形式を勉強する必要がありそうだけど。


 浮かれるわたしたちとは対照的に、クラウス卿は黙ったまま、どこか物憂げな表情だった。

 クラウス卿は綺麗だから、そうして黙っていると、よくできた彫像みたいだ。

「クラース卿、今日はいっぱい踊ってくれてありがとう!」

「……いいえ、私こそ。殿下のお相手を務めさせていただき、光栄です」

 わたしはクラウス卿をじっと見た。


「なんかクラース卿、疲れました? ……違う、なんだろう……、さみしそう?」

「え」

 驚いたようにクラウス卿がわたしを見た。

「それは、どういう……、なぜ」

「んー、わたしにもよくわかりません。ただ、なんとなくそう思っただけ」

 クラウス卿は絶句した。


 するとマイアが頷き、言った。

「こうして皆さんと楽しく過ごした後、その時間が終わるのは寂しいものです。宴の後は、どうしてもそうなるものですわ」

「そっかあ。わたし、草原ではいつも宴が終わる前に寝ちゃってたから、わからなかった」

「草原の宴は、長く続きますからねえ」


 わたしとマイアの話を聞いたクラウス卿は、考え込みながら言った。

「……そう言えば、何度かエルドリッド王から、宴にお誘いいただいたことがありました。結局、出席することは叶いませんでしたが」

 つぶやくように言うクラウス卿は、なんだか悲しそうで、わたしは胸がきゅーっとした。

「じゃあ今度、草原の宴を王宮で開くのはどうですか?」

 わたしの言葉に、クラウス卿は目を瞬かせた。


「草原の宴を?」

「はい! ベルガー王国の夜会とは違って、準備も簡単ですよ! 美味しいお肉とお酒と、あとは季節の果物かな、それがあれば、どこでもできます! 来たい人が来て、帰りたい時に帰って、食べて飲んで、しゃべり疲れたら、その場で寝るんです! あっ、子どもは、強いお酒じゃなくて、馬乳酒を飲みます! すっごく酸っぱいけど、お肉を食べた後だと口がさっぱりして、美味しいんですよ!」

 わたしは一生懸命、説明した。

 クラウス卿に、草原の宴の楽しさを知ってもらいたかったのだ。


 クラウス卿は、なにか眩しいものでも見るようにわたしを見た。

「……それは、とても楽しそうですね」

「「楽しいです!」」

 わたしとマイアは声をそろえて言った。そして、顔を見合わせ、笑い出した。マイアとは気が合うなあ。


 笑うわたしたちを、クラウス卿はじっと見つめ、つぶやくように言った。

「……殿下は、草原をとても愛しておられるのですね」

「もちろん! 大好き!」

 わたしの返事を聞いたクラウス卿は、なぜか辛そうに顔を歪めた。


「クラース卿? どうかしましたか?」

「……いえ、何も。今夜は少し疲れたようです」

 その言葉に、わたしは納得して頷いた。

「今夜は、いっぱい踊りましたもんね! すっごく楽しかった! ありがとう、クラース卿!」

「……私こそ。殿下と同じ時を過ごせて、夢のようでした」

 そう言って微笑むクラウス卿は、今にも消えてしまいそうなほど儚く見えた。


 わたしは、ふとレギオン様を思い出した。

 クラウス卿もレギオン様も、ガラスで出来た精巧な細工物のように、儚く、どこかもろい印象を受ける。ベルガー王家の血を継ぐ人の特徴だろうか。でも、わたしもベルガー王族の一員なんだけどなあ。



 王宮に着き、馬車から降りると、セレスが出迎えてくれた。クラウス卿はセレスと少し話した後、わたしの前にひざまずいて言った。

「それでは御前を失礼いたします、殿下。……しばらく所用でお伺いできぬかと思いますが、何かあればセレスにお申し付けください」

「わかりました。よく寝て、食べて、体に気をつけてくださいね!」

「……ありがとうございます。殿下もどうぞ、お健やかにお過ごしください」

 クラウス卿はわたしの手を取ると、そっと指先に口づけた。


「えっ」

 わたしは驚いてクラウス卿を見た。


 これって、ベルガー王国式のお別れの挨拶だったっけ?

 覚えてない……けど、なんだか照れくさいなあ。物語のお姫様になったみたいだ。


 クラウス卿はわたしをじっと見つめると、立ち上がって踵を返した。

 馬車回しまでクラウス卿が戻ると、そこに控えていた従僕が、葦毛の馬の手綱をクラウス卿に渡すのが見えた。


「……セレース、クラース卿は忙しいのかな? お仕事?」

「ええ……、最近また、いろいろ仕事がたてこんでいるようです」

 クラウス卿は馬車ではなく、馬に乗ってどこかに向かうようだった。王都にあるという、公爵邸に帰るのかなあ。


 わたしは、クラウス卿が馬に乗って王宮から離れてゆくのを、ぼんやりと見送った。


 これからしばらくクラウス卿に会えないのかあ、と思うと、……なんだろう。なんか、心にぽっかり穴が開いたみたい。これがマイアの言う、『宴の後の寂しさ』なんだろうか。


 でも今夜は、クラウス卿についていろいろ知ることができた。

 三年前に奥さんを殺されたこと、……きっとクラウス卿は、奥さんをとっても愛していたに違いない。本人は気づいていないみたいだけど、奥さんについて話すクラウス卿は、傷ついた表情をしていた。

 もっと奥さんに優しくすればよかった、なぜ助けてあげられなかったんだろう、ってそう悲しむ声が聞こえる気がした。


「姫様、どうかなさいましたか? ぼんやりなさって」

「……ううん。あのねえ……、クラース卿がねえ……」

 マイアに、なんて言えばいいのか、わたしは迷った。


 どう言えばいいんだろう。この気持ち。ざわざわと落ち着かない、胸が締めつけられるような、この気持ちを。


「あのね、クラース卿はねえ……、とっても素敵なの! 愛人になってほしいけど、どうすればいいかなあ」

「そうですわねえ。今度は花ではなく、美味しいお肉でも贈ってみてはいかがでしょう?」

 マイアの提案に、わたしは、おお! と思った。

 そう言えばクラウス卿は、草原の宴に出られなかったことを、とても残念がっているようだった。きっとクラウス卿は、美味しいお肉が好きに違いない! ていうか、美味しいお肉を嫌いな人なんていない!


「セレース! クラース卿の好きなお肉、知ってる?」

「えっ!?」

 セレスが、ぎょっとしたようにわたしを見た。


「に、……肉、ですか?」

「うん! クラース卿にプレゼントするの!」

 わたしはうきうきして言った。


 クラウス卿は、どんな肉が好きなんだろう? わたしは断然、魔狼の肉だけど、ベルガー王国ではあまり魔狼の肉は獲れないだろうし、無難なところで大蛇かな?

 できれば、狩りに出て、わたしが獲った肉をプレゼントしたい。

 クラウス卿、喜んでくれるかな?


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