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可愛くて強い私の陛下、一生お守りいたします  作者: 倉本縞


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19/60

19.絶対似てません

 わたしとマイアの着替えが済むと、クラウス卿とヘルムートが控室から部屋に入ってきた。クラウス卿はソファに座ると、しばらくうつむいたまま、ロウィーナ男爵夫人が入れてくれたお茶を何杯もがぶ飲みしていた。


「ねー、クラース卿! 立って、立って!」

「えっ!?」

「服! とても綺麗ですね! 立って、よく見せてください!」

 わたしの言葉に、クラウス卿はあちこち視線をさまよわせながらも、大人しくソファから立ち上がってくれた。


「わー、クラース卿、キラキラ光って綺麗ですね! くるっとしてみて! くるっと!」

「は……」

 わたしに褒められ、クラウス卿は少し赤くなってはにかんだ。


 クラウス卿の今夜の服装は、全体的に白くて、ところどころ金色で、とっても綺麗だった。マントだけは濃紺だけど、地味でも暗くもない。とても素敵だ。


「いつもと違いますね! 黒くない!」

「……は……」

 ギクッとしたように動きを止めたクラウス卿に、ロウィーナ男爵夫人が穏やかに声をかけた。

「……夜会でございますからね。皆さまもいつもとは違う衣裳をお召しでしょう? こちら、サムエリ公爵閣下の衣裳ですけど、いつもと形自体は同じで、色味だけを変えております。ジャケットとズボンを白に、ボタンや肩章、飾緒を金にいたしました。黄色ではなく金色なのですが……、いかがでしょう、殿下?」

「よくわかんないけど、キラキラしてて、いいと思います!」

「……お気に召しました?」

「はい! とっても素敵!」

 力強く頷くと、「よかった……」とクラウス卿とロウィーナ男爵夫人がつぶやくのが聞こえた。


 あの後、ロウィーナ男爵夫人は高速でわたしとマイアを着替えさせてくれた。わたしだけではなく、マイアの髪も結い、わたしたち二人のお化粧までしてくれた。

 ロウィーナ男爵夫人は、ほんとに最高だ……。ヘルムートはいいなあ。仕事が終わって帰ったら、ロウィーナ男爵夫人を独り占めできるなんて。魔術師のくせにズルい。


「……そろそろ行くか? ベルチェリ家から迎えの馬車も来ていることだしな」

 ソファにだらしなく座るヘルムートが、億劫そうに言った。ヘルムートもきちんと髪を一つにまとめ、手袋をはめて、胸にはなんかキラキラ光る飾りをつけている。さっきと服は変わらないのに、それだけでベルガー王国の貴族っぽく見えるから不思議だ。


「ヘルムットー、貴族だったんだね」

「あ? 今さら何を言う……、おっしゃるか」

 クラウス卿に睨まれ、ヘルムートが言い直した。

「めんどくさい……」

 チッと舌打ちするヘルムートが、礼儀作法にうとい草原の戦士と重なって見え、わたしは思わず笑った。


「殿下?」

「……べつにいいよ、ヘルムットー。丁寧に話さなくても、怒らないから」

「殿下、それでは他の貴族に対し、示しがつきません」

 クラウス卿が顔をしかめて言ったが、

「……他の貴族が聞いたら、わたしとヘルムットーが、ベルガー王国のしきたりを無視するほど、親しいって思うでしょう? そのほうがいいんじゃないですか?」


 レギオン様は、わたしがクラウス卿とロウィーナ男爵夫人を愛人にすることを、貴族派への牽制になるとお考えのようだった。

 それならば、魔術師の頂点に立つヘルムートがわたしと親しいと誤解されるのは、国王派にとって良いことなのではないだろうか。

 草原の国とは違い、ベルガー王国では魔術師は尊重される存在だ。単に日常生活の中に魔法が溶け込んでいるというにとどまらず、ベルガー王国では戦いにも魔術師が重要な役割を果たしている。数は騎士より少ないが、戦力として考えると、魔術師の力は無視できない。


「ふん。……殿下は、見かけによらず政治に長けているようだな」

「政治は知らない、面倒なだけだよ。……ヘルムットーと、そこだけは同じ」

 わたしはクラウス卿を見た。

「問題ありますか、クラース卿? わたしがヘルムットーと親しいと思われるのは、陛下にとってよくないことでしょうか?」

「いえ……」

 クラウス卿は眉根を寄せ、少し考え込んだ。


「殿下のおっしゃる通りです。貴族派はすぐに悟るでしょう。宮廷魔術師団が、次の王として殿下を認めたと。もともと宮廷魔術師団は国王派でしたから、その噂はすぐに広まり、中立派にも影響を与えると思われます。……ですが……」

 クラウス卿は何か言いたげに、わたしとヘルムートを交互に見た。


「なんだ、サムエリ公」

 ヘルムートが顔をしかめて言った。

「何かあるなら、はっきり言ってくれんとわからん」

「何、というほどのことでもないのですが……」

「クラース卿?」

 しばらく逡巡してから、クラウス卿が小さな声で言った。


「ずいぶん……、その、ヘルムート卿と殿下は、親しくなられたようだと……」

「「ハァ!?」」

 わたしとヘルムートの声が重なった。


 親しくって、なにを言ってるんだクラウス卿は! 縁起でもない!


 するとロウィーナ男爵夫人も、わたしとヘルムートをつくづくと見て言った。

「……そういえばわたくしも、失礼ながら殿下とヘルムート様が、とてもよく似ていらっしゃると思いましたわ」

「「どこが!?」」

 ふたたびわたしとヘルムートが同時に叫ぶと、クラウス卿が複雑そうな表情を浮かべた。


 いや違う、ほんとにわたしとヘルムートは、仲良くなんかないし、もちろんぜんぜん似てなんかないから!


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