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可愛くて強い私の陛下、一生お守りいたします  作者: 倉本縞


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15.響き矢

「始め!」

 ヨナス卿のかけ声とともに、何組かに分かれた騎士たちが打ち合いを始めた。

 それをわたしは、注意深く見た。


 足型や剣の払い方など、基本に忠実な動きだ。……けど、力が足りないし動きも遅い。どちらか一つを改善するだけでも、だいぶ変わると思うんだけどなあ。


「いかがですか、殿下」

 ヨナス卿に問われ、わたしは正直に答えた。

「弱くて遅いです」

 プッとヨナス卿が噴き出した。

「手厳しいですな。……まあ、しかし、おっしゃる通りです」

「ジョーナス卿が違うのはわかります。卿は強い。……なぜ第三騎士団の騎士は、これほど弱いのですか?」


 ヨナス卿は、一目見ただけでその強さがわかった。あの魔術師、ヘルムートもそうだったが、そもそも体軸からして違っている。筋肉も硬くなく、瞬発力と持久力を併せもっているだろうことが窺える。

「第三騎士団員は、王に仕える騎士なのでしょう? なぜこれほど弱いのですか? ベルガー王国内でも選りすぐりの騎士だけが、城に集められたのではないのですか?」

 ヨナス卿やヘルムートのように、ベルガー王国内にも強い男がいるのはわかっている。だが、第三騎士団の騎士たちは、それと比べてあまりに実力が劣っている。


「第三騎士団は、その成り立ちも特殊でしてね」

 ヨナス卿はため息をついた。

「まあ、簡単に言えば、王城直属の騎士という箔をつけたい貴族子息の集まりですな。……第一騎士団も貴族出身の騎士が大半を占めますが、こちらはまぎれもなく王国一の精鋭集団です。第二騎士団は、平民出身の騎士が多いが、ここも実力は第一騎士団と伯仲している。……が、第三騎士団は……」

「お飾りというわけですか」

 わたしの言葉に、ヨナス卿は苦笑いした。


 そうか。そのお飾りを、わざわざわたしの護衛に配したということは、あのレーマン侯爵は、おそらく貴族派の一員なんだろうな。


「ジョーナス卿、早急に第三騎士団の訓練を強化してください。第一、第二騎士団との実力の違いが、結果的には国王陛下の安全を脅かす原因ともなりかねません」

 ヨナス卿が、はっとしたようにわたしを見た。

「わたしは草原の人間です。こちらの政治的な問題は、何もわかりません。わたしにわかるのは、戦いに関することだけです。……もしわたしがこの国の転覆を狙うなら、まず国の中枢にある一番弱い点を突きます」


 今はヨナス卿やヘルムートなど、この国でも屈指の実力者に守られている陛下だが、いつまでもそれが続けられるとは限らない。王国内のあちこちで反乱の狼煙が上がれば、第一騎士団や宮廷魔術師団を派遣せざるを得ない状況に陥るだろう。

 その時、王城を守るのがこの第三騎士団では、いかにも心もとない。


 その時、マイアがわたしの弓と矢筒を持ってきた。

「どうぞ、姫様。響き矢を三本、お持ちいたしました」

 ヨナス卿が、興味深げに響き矢を見た。

「これは変わっておりますな。四立羽の矢ですか。……この矢で、魔法を無効化するのですか?」

「そうです。誰か、魔法を使える者はいますか?」

「たしか、先ほどの騎士、ラリーが魔法騎士としての訓練を始めていたはずです」

 そう言うと、ヨナス卿は従者に、金髪の騎士、ラリーを呼びにやらせた。


「おまえ、たしか剣に魔法を乗せて使えたよな? ヘルムートがよく戦場でやってるアレだ、剣が炎でブワッとなるやつ」

「あんなのできませんよ!」

 わたしたちの前に連れてこられたラリーは、ヨナス卿の言葉に顔を青くして言った。


「わたしはまだ、訓練を始めたばかりで、魔法騎士として物になるかどうかも」

「御託はいい、とにかくやってみろ」

 ラリーは気の毒なほど緊張した様子で、剣を握り直した。

「そ、……それでは、失礼いたします」


 ラリーは右手に剣を持ち、水平に構えると、左手でゆっくりと剣のブレード部分に指を這わせた。何か模様のようなものを描いている。その模様はボウッと赤い光を放ち、徐々に剣身を炎で包んでいった。

「おっせえなあ! んなチンタラやってたら、敵に殺されちまうだろうが!」

 ヨナス卿に怒鳴られ、ラリーが首をすくめた。

「申し訳ありません! わたしの魔力では、今はこれが精一杯で」


 なんか、息を吹きかけただけで消えてしまいそうな弱々しい炎だけど、とりあえずわたしは響き矢をつがえた。

「それじゃ、矢を放ちます! 右端の円柱、屋根の辺りを狙いますが、みな円柱から離れてください!」

 当たっても通常の矢とは違い、怪我するようなことはないと思うが、念の為、周囲のみなに声をかける。

騎士たちがざっと右端の円柱から下がった。それを確かめ、わたしは弓を引き絞り、響き矢を放った。


 甲高い鳥の鳴き声のような音を響かせながら、矢が訓練場の右端の円柱目がけて飛んでゆく。同時に、ラリーの剣を包んでいた炎がフッと消えた。

「お!」

 ヨナス卿が驚いたような声を上げた。


「ラリー、どうだ、もう一度魔法を乗せてみろ」

「はっ!」

 ラリーは眉根を寄せ、汗を流しながら再びブレード部分に模様を描き始めた。が、それが先ほどのように赤く光ることはない。


「駄目です……、術が発動しません! 魔力を込めても、術自体が崩れてしまいます!」

 ラリーの悲鳴のような声に、ヨナス卿が唸った。

「こいつはたまげたな。……本当に魔法を無効化するとは」

「言っておきますが、本当に少しの間ですよ。一刻もせずに魔法は使えるようになるはずです」

「それでもだ、……です」

 ヨナス卿が慌てて言い直した。動揺している様が見て取れ、わたしはくすっと笑った。


「いや、笑いごとじゃないですよ、殿下。たとえ一刻に足らぬ間であっても、魔法を無効化できるとあれば、この国の戦い方は大幅に変わる。……その響き矢? と言うのですか? それは、草原の方でなければ使えないのですか?」

「草原の中でも、使える者と使えない者がいます。王族は全員、使えますが」

「基準は?」

「わかりません」

 わたしは肩をすくめた。


「草原では、あまり気にする者もいませんでしたしね」

「殿下は……、いえ、草原の方たちは、何と言いますか、大らかな方たちのようですな」

 少し呆れたような、面白がるような口調でヨナス卿が言った。


 そうかな? 草原の民が大らかっていうより、ベルガー王国の人たちが、気にしすぎって感じがするけど。


「……しかし、気に入りました。草原は、よいところなのでしょうな」

 そう言うと、ヨナス卿は楽しそうに笑い始めた。

 うん、そうだね、それには同意する!

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