14.訓練
レギオン様に忠誠を誓ってから三日間、わたしはまたレギオン様に会えなくなってしまった。
「レーギョン様、ほんとに体が弱いんだねえ……」
「さようでございますわねえ……」
マイアと向かい合って座り、お茶を飲む。ベルガー王国のお茶にも、だいぶ慣れた。こっちのお茶は草原とは違い、発酵させた上で乾燥させるせいか、不思議な香りがする。
「……陛下のお体のことは残念ですけれど、でもわたくしは、やはり姫様が石の国にいらして良かったと思いますわ」
マイアの言葉に、わたしは笑顔になった。
「マイアもそう思う? わたしも! レーギョン様にお会いできないのは寂しいけど、毎日ローナ男爵夫人に会えるし、クラース卿もよく会いにきてくれるしね!」
「ええ、ようございましたわねえ」
ほのぼのした気持ちでいると、セレスが先触れとして部屋に入ってきた。
「あ、セレース。ローナ男爵夫人なら、もう先触れなしでいいって言ってるのに」
「いえ、殿下、それが……」
セレスの後ろから、短い金髪の大柄な体格の男が顔を出した。
「いや、すまん……、すみません、殿下。ライラ殿ではなく、私です」
「ジョーナス卿」
第一騎士団長ヨナス・ランベールの姿を認め、わたしは頷いた。
「どうぞ、ジョーナス卿。訓練の日程が決まったのですか?」
「ええ、そうです。……急な話で申し訳ないのだが、本日はいかがでしょうか? ちょうど第三騎士団の面々がそろっておりますので」
「いいですよ!」
わたしは勢いよくソファから立ち上がった。
久しぶりに打ち合いができる!
第三騎士団の力量を見極めるのが一番の目的だけど、それでも嬉しい!
「マイアも一緒でいいですか?」
「そちらの侍女ですか? ええ、もちろん。……ただ、騎士の訓練など見ても、あまり楽しいものではないと思いますよ」
「いえ、そうではなく、マイアも訓練に参加していいですか?」
マイアは、草原では王を守る戦士の一人だった。わたしの輿入れに侍女としてついてきてくれたけど、基本的にマイアは武人だ。
ベルガー王国に来てからも、部屋でできる限りの鍛錬はしているけれど、やはり他人との打ち合いができれば、嬉しいだろう。
そう思ったのだが、
「侍女の方も……、訓練を?」
「はい! マイアは強いですよ!」
わたしの言葉に、ヨナス卿はしげしげとマイアを見た。
「たしかに、よく鍛えておられるようだが。……しかし、噂には聞いておりましたが、草原には本当に、女性の戦士がおられるのですな」
驚いたようなヨナス卿に、わたしは少し笑った。
「わたしは、ベルガー王国に女性の戦士があまりいないと聞いて、驚きました」
「女性の騎士は複数おりますが、王族など貴人の護衛が主な任務ですからな。草原とは違うと思います」
ヨナス卿と話しながら、第三騎士団の訓練場に行くと、
「殿下!」
金髪の騎士が、こちらに走り寄ってきた。
「殿下、ラリー・エイベルと申します。先日は殿下に命をお救いいただき、お礼を申し上げねばと思っておりました」
ひざまずく騎士に、わたしは頷いた。
「うむ、ジョーナス卿から話は聞いた。今日はこれから、わたしも訓練に加わるつもりだ。後で手合わせしてくれ」
わたしの申し出に、金髪の騎士は「え!?」と驚き、ヨナス卿を見上げた。
「団長、よろしいのでありますか?」
「うむ、殿下はなかなかの技量の持ち主とみた。おまえも指導してもらうといい」
「はっ!」
金髪の騎士は立ち上がると、もう一度頭を下げ、訓練場の中央へ戻っていった。
「サムエリ公に伺ったのだが、殿下は弓の名手でおられるとか」
「はい! 弓は得意です!」
張り切って答えると、ヨナス卿は顎に手を当て、考え込むようにして言った。
「サムエリ公もラリーも……、殿下の護衛にあたった第三騎士団員全員が、殿下が弓を射ると、敵の魔法が無効化したと申しておりました。いくらなんでも話の盛りすぎだろうと言ったのですが……、どうなのでしょう、殿下? 殿下の弓は、魔法に対して、何らかの妨害ができるということですか?」
「ああ、できますよ。ちょっとの間だけですけど、敵味方関係なく、すべての魔法を無効にできます」
そう答えると、ヨナス卿はぎょっとしたようにわたしを見た。
「まさか! いったいどうやって? 草原の民は、魔力を持たぬとうかがっておりますが」
「うーん、どういう原理なのかはわたしもわかりません。ただ、響き矢という対魔術用の特殊な矢を射ると、一定時間、魔法を無効にできるんです」
わたしはマイアに言って、響き矢を持ってきてもらうことにした。
「なるほど、それが本当なら、草原の戦士が無敵と呼ばれるのも頷けます。あれだけの身体能力を持ち、さらに魔法すら無効にできるのであれば、こちらに勝ち目はないでしょう」
「でも、ちょっとの間だけですよ。それに、響き矢はそんなに何本も射ることができないんです。どうしてかはわからないんですけど、ある一定以上の数を射ると、そこから先は、どれだけ響き矢を射ても、魔法を無効化できなくなるんです」
「ほう」
ヨナス卿は興味を覚えたようにわたしを見た。
「こちらで言うところの、魔力切れのようなものですかな?」
「わからないです。わたしだと、だいたい三本までかな。父上なら、五本はいけるんですけど」
「なるほど。……これは、ヘルムートの分野になりそうですな。私では、原理についてご説明できそうにない」
「いいですよ、別に。草原でも、特に気にする人はいませんでしたから」
草原で響き矢を使用するのは、だいたい老人や子どもを戦場から逃がす時限定だし、そもそも草原では、戦いに魔法を使用すること自体少ない。
みんな魔法が嫌いだから、たとえ戦争であっても、魔術師を自軍に入れたがらないのだ。
そう説明すると、ヨナス卿が大声を上げて笑った。
「これは、魔術師も嫌われたものだ。……ヘルムートが聞いたらなんと言うか」
魔術師になんて思われようが、別にいい。……けど、そんなこと言ったら、ロウィーナ男爵夫人を悲しませてしまうかなあ……。




