異世界人がもたらした盤上遊戯。
役割がある6種計16駒を駆使して64マスの中で相手のキングを討ち取った者が勝者となるゲーム。
時代の流れでゲームはいつしか頭脳戦のスポーツとなり、最終的に代理戦争の手段として各国々の貴族達の間で用いられるようになった。
魔物が脅威の存在であり、互いに戦争で無闇に血を流さないために取られたこの手段は軍事費の削減と言うコストパフォーマンス。更には人権の尊重と、人類同士で暴力のない世界を構築する思想に賛同する者が増えたと家庭教師から教わったのは昔の話。
揉め事があればチェスでケリをつける。
貴族の嗜みから義務として教育に組み込まれ、一族の中で必ず「騎士」と呼ばれるチェスの代理戦争の役目を担う者を置く事が常識として定着した近年。
僕がその役目を引き受けたのは当時騎士であった九つ上の義理の兄を打ち負かした時。
チェスの師でもあった義理兄は「コレで肩の荷が降りた」と、言いながら清々しい顔で僕に騎士の称号を譲り渡した。
チェスの腕を見込まれての政略結婚であった義理兄だが、領土を死守するのは並大抵の努力では出来ない。
重圧から年々食が細くなり、比喩ではなく本当に身を削りながら役目を真っ当したそんな師匠を僕は今でも尊敬している。
今日は大陸で10年に一度開催されるトーナメント戦。この伝統的な大会の勝者は願い事をひとつだけ口に出来るのが習わしだ。
どうしても叶えたい願いがあると当主に相談して、今回参加した大会。
当主である父はお前なら優勝出来ると背中を押してくれた。
決勝戦の相手は格上。我が国強敵王家の三の姫である幼馴染の獣人族猫種。艶やかな黒い毛並みに、真剣なアーモンドの眼差し、たまに動く尻尾に気を取られながらも劣勢を逆転して粘る。
毎度毎度負け続けていたが、今回ばかりは絶対譲るものかと食らいついて、ポーンを犠牲に相手のクイーンの駒を弾き飛ばす。
キングまで目前。
そんな中、負けを悟ったのか彼女が涙をポロポロと流す。
「そんにゃぁ〜」
「うっ。泣くなよ姫様」
何で今日に限ってそんな強いんだと罵られ、調子が狂う。それを見逃さなかった姫はどこまでも強気で攻めて来る。何でも、どうしても勝って僕にお願い事を聞いて欲しいらしい。何だそれは?
「カラス、お願い貴方と結婚したいの負けてっ!?」
その言葉を聞いて赤面しながら僕は全力で叫んだ。
こんな世界で幼馴染兼ライバルでもある愛しいネコを手に入れるために。