3人で初めての夜
私の体力が尽きたところで、今日は野宿することとなった。
グライナーがさらっと私から奪ったサッチェルバッグから、盗賊たちから奪ったテントを張る。
「なにそのバッグ!すっごく便利じゃない!」
「これは悪魔が作り出したどんなものでも入る便利なバッグだ。」
「悪魔が作り出したってことは、誰かの願いの対価ってことよね?いったい誰の?」
「さぁ?盗賊たちが持っていたから、盗賊たちの願いなんじゃないか?」
無限にものが入るバッグをみたケンティは、当然のことながらどうやって手に入れたのか聞いてきた。
それをグライナーが上手い嘘をついて躱していた。
私もあんな話術とポーカーフェイスを手に入れたいな…。頑張らなきゃ。
「見張りはどうするの?」
「それなら、私が最初に見張りをするから、3時間交代で見張るのはどう?」
「あら、それでいいわよ。」
「俺もそれでいい。」
全員賛成してくれたので、私は疲れをとるため一息つきながら焚火で温めたお湯を飲んだ。
ケンティはすぐさまテントに入り寝てしまったようだ。
ゆったりしていた私のそばにグライナーがやってきた。
「そのまま寝るなよ?」
「寝ないよ!大丈夫、運動した後だからまだ興奮して寝られないから。」
「それならいいが。」
「それよりも、グライナーは寝ないの?」
「言っただろう、悪魔に睡眠など不要だと。」
「だけど、今はケンティがいるのよ。ばれないためにも寝たふりをしてちょうだい。」
「それもそうだな。…わかった、寝てくる。くれぐれも気を抜くなよ。」
「わかってる。」
グライナーもテントの中に入り、寝たふりをしたみたいだった。
昨日のことを思い出す。
戸惑うことなく人を殺した。
それも何人も。
罪悪感がないかと聞かれればうそになる。
それでも。
それでも、私の復讐のために必要な犠牲だったのだ。
……。
暇だな…。
力の練習でもするかな。
私は少し先にある石に向かって水晶を当てた。
石が砕け散る。
次はイメージを変えてやってみる。
水晶を石に当てる。
すると、石が水晶で固められた。
「こういうこともできるんだ。」
手をぐっと握ると、その水晶は壊れ、中の石も砕け散った。
遠くに大きな岩がある。
岩に手を向け、水晶を当てる。
1個だけでなく、連続して。
何度も何度も当てた。
ふむ。連射はもううまくできるようになったな。
次は、どれだけ大きな水晶を出せるか練習しよう。
両手を空き地に向け、水晶を出す。
最初はカバンサイズだった水晶がだんだん大きくなっていく。
遠くにあった岩のサイズになったとき、後ろから声をかけられた。
「あんたも休まず熱心なことね。」
「ケンティ。もう起きたの?」
「そりゃ起きるわよ。交代の時間なうえに、あんな音聞かされたらね。」
「あんな音?」
「あんた、気づいてないの?あれよあれ。」
そういって指さしたのは、さっきまで水晶を当てていた大きな岩だった。
その岩は真ん中から割れてしまっている。
「あれが割れるほどの衝撃音よ。目が覚めるにきまってるじゃない。」
「ご、ごめんなさい。」
「いいわよ。今度から気を付けてくれれば。」
「交代だったよね。じゃあ、お願いね?」
「任せなさい。あんたみたいに大きな音立てたりしないわ。」
「うっ、本当にごめん。」
「ほら、寝た寝た!」
「おやすみなさい。」
「はい。おやすみなさい。」
自分では気にならなかったけど、相当大きな音だったみたいだ。
今度から気を付けよう。
私は水晶を消してテントの中に入った。
「だいぶ能力の扱いが上達したようだな。」
「うん。もう手足みたいに使えるよ。」
「それはそうだろう。お前の手足の爪から作られたものなんだから。…もう寝ろ。明日はもっときつい訓練をする。」
「わかった。ありがとう、グライナー。おやすみなさい。」
私は横になってすぐ、泥のように眠った。