新たな同行者
宿に戻ってから、私たちは手に入れた宝石を取り出した。
私は手に取ったそれをグライナーに渡した。
グライナーはその宝石を握りこむと、手から光が漏れだした。
光が収まった後、手を開くと、その手の中に宝石はもうなくなっていた。
「どう?力は戻った?」
「ああ、少しな。これは10個ある宝石のうちの1つだ。だからまだ力が完全に戻ったとは言えないが。」
「そうなの。なら、早く次の宝石も見つけないとね。」
「次の場所の目安もついたしな。」
私たちが襲撃した会場には、他の裏市の会場の情報が記載された紙が保管されていた。
会場を後にする前に少し建物内に探りを入れたのだが、それが見事にあたりを引いた。
「それじゃあもう寝るか。明日はこの町を出るからな。」
「ええ、私はもう寝させてもらうわ。おやすみなさい。」
「ああ、おやすみ、リアーヌ。」
翌朝。
私たちは身支度を整え、宿を後にするため部屋を出た。
すると、隣の部屋からも同時に人が出てきた。
「あら、もしかして、昨日のお嬢さんたちじゃないかしら?」
部屋から出てきた人を見ると、昨日会った男だった。
「いいえ、気のせいではないですか?」
当たり障りのない回答をすると、男はにっこり笑いこちらに向かってきた。
「やっぱり昨日のお嬢さんじゃない。私、声を聴き間違えたりしないわよ。」
「っ!!」
私は驚き身構えた。
グライナーも警戒してくれている。
「あら、ちょっとそんなに警戒しなくてもいいわよ。昨日のことで衛兵に突き出したりなんてしないから。」
「それじゃあ、何のつもりで話しかけてきたの?」
私たちは警戒を解かず男に尋ねた。
私たちの所業を知っていて、衛兵に突き出さないなんて怪しさしかない。
「はぁ、信じてもらえないわね。私が話しかけたのは、互いに理がある提案をするためよ。」
「たがいに理のある提案?」
「ええ、私も悪魔憑きの売買で見つけたいものがあるの。あなたたちもそれは同じでしょ?」
「…。」
「沈黙は肯定とみなすわよ?私一人ではこの間みたいな無茶はできないの。だから、あなたたちに同行させてもらって、お互いが目的を果たすまでの利害関係を組もうって話。その間、私も力を貸すわ。どう?悪くないでしょ?」
「私たちは、あなたが強いかどうかなんて知らないわ。だからいい提案かどうかなんて判断できないけれど。」
「それもそうね。じゃあ、これならどうかしら?」
そういった瞬間、男の手に黒い色の炎が燃え盛った。
「なっ!?」
「これでわかったでしょ?私も悪魔憑きなのよ。あなたたちと同じでね。私は能力を得たパターンなの。そちらの男性は体に現れるパターンみたいだけど。」
どうやら、この男も悪魔憑きのようで、悪魔の能力を扱うことができるようだった。
しかし、グライナーが悪魔憑きだと思われているとは。
これはいい勘違いかもしれない。
「どうする?グライナー。」
「まあ、利用できるものは利用していけばいいだろう。」
「決まったみたいね。それじゃあ、これからよろしく。私はケンティ。あなたたちは?」
「私はリアーヌ。」
「俺はグライナーだ。」
「そう、リアーヌ、グライナー、よろしくね。」
そうして、私たちの復讐の旅に新たな同行者が加わった。
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その頃、闇市の会場には多くの衛兵たちが集まり、中を検分していた。
「これはひどいな。」
「はい。全員が惨殺されています。」
「高位の貴族まで混ざっているとは…。ここで一体何があったんだ?」
「状況から察するに、ここで闇市が行われていたようです。」
「闇市か…。なら、悪魔憑きの商品も売られていた可能性があるな。」
「悪魔憑きですか!?あの、おとぎ話の!?」
「おとぎ話として伝わっているが、実際に存在するんだよ。だから、もし悪魔憑きのものが見つかった場合は、即回収が言い渡されているんだ。」
「そうだったんですね。」
「新人は知らなかったか。これを機に知っておけ。悪魔憑きが絡んだ事件は今回みたいに悲惨な事件が多い。気を付けるんだな。」
「はいっ!」
そうして、闇市の会場は徹底的に調べられたが、悪魔憑きの証拠になるものは一切見当たらず、怪奇事件として幕を閉じた。