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グルイヤールの姫君  作者: 天桜犀 海陽
6/9

闇市

私たちは質屋を出た後、ドレスを買い、必需品を買い、宿へと戻った。

宿の部屋についたら、さっそくもらった招待状を開いてみることにした。

中にはこう書かれていた。


『   招待状

 親愛なる皆様。

 少し肌寒くなり、冬の訪れを感じるようになりました。

 さて、今回の市は10月22日にエスパルサ商会の裏口から、

 合言葉である「シェーネンターク」を言い、中に入ってください。

 もちろん、仮面をつけるのを忘れずに。

皆様にとって良い一日になりますように。           』


「10月22日か…。今から2日後ね。」

「意外と近いな。まあ、会場に行くためのドレスなんかは買ってあるから、あとは情報収集だけだな。」

「あと2日でいい情報を得られるかしら。」

「それはいい情報源が見つかるかどうかにかかてるな。」

「悪魔なら、悪魔の情報網とかはないの?」

「悪魔の情報網があったとしても、人間界で起こることなんか把握している奴なんて物好きな奴しかいないだろう。だから、無理だな。」

「そう、なら仕方ないわね。地道に頑張るわ。」


翌日から、私たちは情報収集を行った。

どうやら隣国で反乱が起きたことは大きなニュースとなっているらしく、知っているものは多かった。

新聞にもその情報が載っており、今のグレイヤール王国が元大臣によって収められているということを知った。

悔しさで唇をかむ。

口の端から血が伝った。


「おい、リアーヌ。血が出てるぞ。」

「あ、ごめんなさい。ありがとう。」


指摘されてから気づいた私は、慌てて血をぬぐった。


「悔しいのはわかるが、それがなるべく表情に出ないようにならないとな。」

「…ええ、なるべく努力してみる。」

「いや、これからこういう場面は何度もやって来るはずだ。これからは表情にあまり出ないような特訓も行うか。」

「ありがとう、助かるわ。」

「ま、すぐにできるようにはならないだろうから、今度行く市では俺がカバーするさ。」



そうして、情報収集を続け、ついに裏の市の日がやってきた。


私たちは、仮面をつけ中に入る。

これは身元が分からないように隠すため、全員着用するようになっているとのことだった。

この仮面のおかげで、グライナーの美貌も少しは隠され、注目を浴びずに済んでいる。

私たちは、ホールの中の席へ案内された。


多くの人がホールにはいた。

また、貴賓席も用意されており、そこには高位の貴族と思しき人たちがいた。

こんなにも多くの人が悪魔憑きの品を求めているなんて思ってもみなかった。

すると、隣の席から声をかけられた。


「おや、ずいぶん若いお嬢さんですね。珍しい。」

「ああ、俺がこの市に参加すると知ってから、どうしても参加してみたいと聞かなくて。今回特別につれてきたんです。」


グライナーがすぐさま怪しまれないよう回答をした。


「それはそれは。お若いのにいい趣味をお持ちで。お目当ての品があるんですか?」

「今日は見てから決めようと思いまして。彼女が気に入るものがあったら、それを落札するつもりです。」

「なるほど、婚約者思いの素晴らしい方ですな。」

「ええ、本当に。私にとって素晴らしい婚約者ですわ。」


私は本心から、そう答えた。

周りからは婚約者同士に見えていることに嬉しくなった。


しばらくすると、あたりが暗くなり、市が始まった。


「ようこそ、紳士淑女の皆様。今日はこの悪魔憑きの市へ来てくださり誠に感謝しております。ぜひ、今日一日が皆様にとってよい一日になりますよう願っております。それではさっそく商品の紹介を始めましょう。」


最初の商品は、ネックレス、その次も宝飾品、壺など様々な品がどんどん落札されていった。

私の目当てであるグライナーの力を封じた宝石はまだ出てこない。


「それでは、次の商品になります!次の商品は悪魔憑きの人間!悪魔の能力を使うことができる珍しい商品となっております。護衛にしてもよしの優れものです!」


観客は沸き立ち、感嘆を漏らした。

落札が始まると、どんどん高値がつけられ、今までで一番の高値が付いた。

人間までもが商品になるなんて。

すると、グライナーが耳打ちしてきた。


「気を付けておけよ。お前も悪魔の力を使える。ばれて捕まれば、同じように商品として売られるからな。」

「わかった、気を付けるわ。」


そうか、私もあの商品と言われていた彼女と同じなのか…。

これからはなお特訓して捕まらないようにならなければ。



「それでは、今回の目玉商品に行きましょう!かのグルイヤール王国に伝わる何でも願いの叶えることのできる悪魔の力が宿った宝石です!これは確かな筋から仕入れたものですので、お力は保証します!」


きた!狙いの商品だ!


「それでは、100万ロイスから!」

「120万!」

「150万!」

「180万!」



どんどん値が上がっていく。

私も負けじと盗賊団から奪ったお金から払えるだけの額を提示したが、どんどん値は上がっていき、ついには私が払えないような額まで上がってしまった。


「6400万ロイス!6400万です!これ以上出される方はいらっしゃいますか!」


すっと、貴賓席から手が上がった。


「1億」


あたりはその言葉に静かになった。


「い1億!1億です!これ以上出される方はいらっしゃいますか!!」


司会の言葉に続くものは現れなかった。


「それでは1億で落札です!」


やられた…!

あんなに高値が付くなんて…。私たちにはどうしようもない。

でも、あの宝石は絶対手に入れなきゃいけないのに…。

悔しさに襲われながらも、市は終了した。


全員が退出するとき、グライナーに手を引かれた。


「ど、どうしたの!?」

「しっ、静かに。どうせ買えないとわかっていたからな。盗りに行くんだよ。」

「どうやって?場所はわからないのに。」

「俺の力だぞ?分かる範囲にあれば、位置の特定なんて簡単だ。」

「そうなの。じゃあ、早くいきましょう。」


私は引っ張られていた状態から、並んで走るよう足に力を入れた。

途中にいた見張りや係員をグライナーは音もなく殺していく。

私も戦闘に加われるよう、水晶を5個ほど展開して準備した。


私たちは一気に目的地までたどり着いた。

するとそこには、先ほど落札した人達と、商品が並べられていた。


「なっ、貴様ら何者だ!?」

「俺たちはただ、もともと俺らのものだったものを奪い返しに来ただけだ。」

「なに!?護衛は何をしているんだ!さっさと捕らえろ!」


部屋の中にいた護衛が襲い掛かってくるが、私とグライナーに簡単にやられた。

それを見た商品の購入者たちは、急いで部屋から出ていこうとした。

しかし、それを許さず、逃げようとしたものはグライナーが全員殺してしまう。

他の逃げようとした購入者たちに動揺が広がる。


「どうしてその人たちも殺したの?」

「俺らのことが広まると厄介だろ?だからみたやつみんな殺すんだ。」

「なるほど、納得がいったわ。」


そう言って私も逃げようとした人たちを何人か水晶で貫き殺した。

すると、私たちの目的のものを購入した貴族が話しかけてきた。


「まて、君たちの話を聞かせてくれ。いったいどの商品が目的なんだ?」

「あんたが買ったものに決まってるだろ?」

「なっ、それは困る。マノロ、奴らを殺せ!」


貴族は後ろに控えていた護衛に命令をした。

護衛は私たちの前に出てきて、攻撃を仕掛けてくるが、私の水晶がそれを阻む。

剣と水晶の力が拮抗している間に、背後からほかの水晶で貫いた。


「なに!?」

「悪いけど、それはもともと私たちのものなの。返してもらうわね。」


そう言って私が宝石に手を伸ばすと、貴族が割って入り、宝石を奪って逃げようとした。


「させるかっ!こんな貴重なものとられてたまるものか!!」


私は無言でその貴族を水晶で貫いた。

気づいたころにはそこには人の山と血だまりができていた。


「なんだ、残りの人間全員殺したのね。」

「ああ、なんだかのんびりやってるみたいだったからな。」


この部屋にいた残りの人間はグライナーが全員殺していた。


「別にのんびりしてたわけじゃないのよ。」

「結局殺すんだから、さっさと殺したほうがいいだろ?」

「そうかもしれないけど…。はぁ、もういいわ。」


私の人を殺すという行為に対する心の奥底にあった懸念は、どうやら悪魔であるグライナーには伝わらないらしい。

なら、もう気にせず私は私がやらなきゃいけないことを突き進むだけだ。


「うん、どうせならここにあるもの全部もらってこう。」


グライナーが突拍子もない発言をした。


「何言ってるの?別に要らないでしょ?」

「いや、この中には何個か本物の悪魔憑きの品物が混ざってる。使えるはずだ。」

「なるほど…。わかったわ。」


私は、カバンを叩いて、部屋にあった商品をすべてカバンに収納した。

ただし、悪魔憑きといわれていた人を残して。


「この子はどうするの?」

「いらないし、ほっとけばいいんじゃないか?」

「それもそうね。」

「あら、じゃあその子、私が引き取ってもいいかしら?」


突然部屋の出入り口から男の声が聞こえた。

そちらに振り返ると、白い髪の毛先のほうは紫のグラデーションになっている短髪でスラッとした体形の男が立っていた。


「あなた、何者?」

「ただの通りすがりの人間よ。ただ、悪魔憑きの人間に興味がある、ね。」

「悪魔憑きの人間に?」

「そう、だからその子譲ってくれないかしら?」

「…ええ、別にいいわ。私たちには必要のないものだから。」

「ありがとう。それじゃあ失礼するわね。」


そう言って彼は中に入ってきて、彼女の拘束を解き外へと連れて行った。


「これでよかったのよね、グライナー。」

「ああ、どうせあの人間を連れて行くわけにはいかないからな。」

「それじゃあ私たちも退散しましょうか。」


私たちもその会場を後にした。

返り血もついていないきれいな状態で。


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