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グルイヤールの姫君  作者: 天桜犀 海陽
2/9

悪魔の魔法

私は、隣国へ行くためにひたすら山を登っていた。

鬱蒼とした木々の間をずっと歩き、足が棒のようになっていた。


「はぁ、はぁ、まだ山を越えられないの?」

「まだまだだな。」


そう答えるグライナーは、汗一つかいていなかった。


「一度ここで休むか。」

「そうね、そうしましょう。」


私はその場に座り込んだ。

息を整えていると、グライナーが横に来て話しかけてきた。


「そのドレスにハイヒールじゃ、この山を越えるのは相当時間がかかるだろうな。」

「じゃあ、どうしろっていうの。」

「ふむ、そうだな。何かを差し出せば、服装を変えてやらんでもない。」

「何かって、この宝飾品は無理よ!お金に換えるんだから。」

「何も差し出すものは宝飾品だけではない。願いをかなえる対価には、体の一部をもらうこともあるぞ。どうする?」


私はその言葉を聞いてぞっとした。

彼は悪魔だ。

確かに体の一部でも差し出して叶う願いならば、叶えたいと言って差し出すものもいたのだろう。


私が今差し出せる何か…。

はっとし、私は大切に伸ばしてきた髪をつかんだ。


「この髪はどう?対価には足りないかしら。」

「叶うかどうか決めるのは俺だ。まあ、今回は貧相な服をドレスに変えるのではなく、ドレスを一般市民の服に変えるからな、その髪の長さなら足りるだろう。」


そう言うとグライナーは私の髪を左手でつかみ、右手の爪でバッサリと切り落とした。

切り落とされた髪は光の粒に代わり、グライナーはそれを私に吹きかけた。

すると、みるみるうちに服は一般市民の服に変わり、靴も底が平坦な靴になった。


「すごい、魔法みたい。」

「魔法だがな。」

「魔法のかかった服なんて初めて着たわ。」


私はうれしくてその場を立ち上がり、くるくる回った。

足が痛かったことなど忘れてしまうほど、衝撃的だった。


「いつまで回ってるんだ、ドレスを着たわけじゃないのに、やはり変なお嬢さんだな。」

「あ、それ、やめていただける?」

「それとはどれのことだ。」

「“お嬢さん“って呼び方よ。名前で呼んで、リアーヌと。」

「じゃあ、リアーヌ。元気になったのなら行くぞ。せめて、国境は越えておきたい。」


そういって、グライナーは歩き始める。

私も慌てて彼の後を追った。


「足がさっきと違って全然痛くないわ!素敵!」

「そりゃあ、あんなハイヒールを履いていたら痛かっただろうね。」


無駄口だとわかっていながらも、私はそのままグライナーに話しかけながら歩き続けた。



ようやく国境を越えたあたりで、私は少し仮眠をとることにした。

グライナーは悪魔のため寝る必要はないらしく、見張りをすると言って座り目を閉じた。

それを見届けた後、私も地面に横になり、眠った。

ベッド以外で眠るのなんて初めてだったけど、疲れていたこともあってかぐっすり眠ってしまった。



翌朝。


「おい、起きろ、リアーヌ。」


声が聞こえたと思いうっすらと目を開けると、眼前に見慣れない美貌の顔があった。

私は驚き、飛び起きた。


「おっ、おはようございます。グライナー。」

「ああ、おはよう。それじゃあ、町へ向けて出発するぞ。」


そういいながら、グライナーは私に手を差し出した。

私は手を取り、立ち上がった。

すぐに手を放し、グライナーは前を歩き始めた。

私は離れた手に少し寂しさを感じながらも、後を追って歩き出した。



町が見えてきたあたりで、グライナーは私の方を振り返った。


「そうだ、言い忘れていたが、平民らしい言葉遣いをしたほうがいい。できるか?」

「で、できます。これでいいんでしょ?」

「そうだな、それでいい。気を付けてこれから話していけば、そのうち慣れる。」

「それと、宝飾品はこのかばんに入れておけ。」


そういってグライナーは小さなカバンを投げ渡してきた。


「いつの間にこんなものを?」

「髪の毛の対価が余ってたんでな、そのあまりの分でカバンを出した。」

「そうだったの、ありがとう。」


その話が終わり次第、またグライナーは歩き始めた。

私はもらったカバンに宝飾品を詰め、慌てて彼を追いかけた。


私たちは、国境を越え、不法入国という形で隣国のレマルク帝国へ入った。


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