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つくも神のいる日々  作者: 月喰エイム
プロローグ
4/17

四話 逃走

夏に入り始め、暑くなってきた6月。

「なあ、聞いてくれ。」

「なんだ?ついに廃部の危機でやる気でも出したか?この前、オセロ部が廃部になったらしいが。」

「いや、あれはボードゲーム部に統合されただけらしいですよ。」

放課後、大きめの机に三人も入ればいっぱいの文芸部の部室でそれぞれ原稿用紙に向き合いながら話をする。

「実はまだ、先月の部誌用の作品が終わっていないんだ。」

サラサラというペンが原稿用紙の上を走る音が止まる。

「はい?」

「マジかよ…」

部誌の作品の提出期限は先週だ。

「え、一作だけですよね?」

「いや、三作全部だ。」

部員が三名しかいないため、一人当たり三作は出す必要があった。

「…つまり?」

「あと一作ずつ出してもらいたい。」

部室が静寂に包まれる。

「鬼ぃー!」

「いや、お前部長なのにそれでいいのか?」

「構想はあるんだがいい書き出しが思いつかなくてな。ハハハハハハ!」

「笑ってないで書いてくださいよ!」

静かだった部室は喧騒に包まれて、それはしばらく止まらなかった。


「ありがとうございましたー」

部室を出て軽く伸びをする。

「えっと…あ、」

スマホがない。

「教室かな…」

取りに戻ろう。

「あ、出てきていいよ、ライト。」

「キュッ!」

シャツの胸ポケットに入れていた万年筆が蝶の羽の竜に変わる。

「どうなってるんだか…」

「キュウ?」

頭を撫でながら首を傾げる。

質量保存の法則はどうしたのだろうか。

自分のクラスの1-4を見るとまだ開いていた。

「ラッキー」

一番後ろの自分の机の中を探すとあっさり見つかった。

「キュッキュッ!」

「あ、」

ライトの鳴いている場所を見ると財布が落ちている。

「ありがとう。」

「キュッ!」

頭を撫でながら財布を確認する。名前はない。

「ごめんなさい。」

謝りながら中身を確認する。

「そこまでですわ!」

「!?」

振り返ると、教室の入り口に一人の少女が立っていた。

「花蓮ちゃん…?」

「まさか盗人がクラスメイトだったなんて…」

とんでもない誤解を受けてる…

「これ、誰のだかわかーー」

「今更言い逃れができるとでも?」

…ですよねー…

「しかも、つくも神の悪用までしてるだなんて…」

「つくも神?」

ライトのことだろうか?

「嘆かわしいですわね。」

「誤解なんですけど…」

嫌な予感がする。

「ひとまず…」

「ひとまず…?」

立ち上がってすぐに逃げ出せる体勢になる。

「実力行使であなたを取り押さえさせて頂きますわ。」

そう言って取り出したのは彫刻刀。

「えっと…?」

「後悔しなさい。」

軽く投げつけられたそれは当たってもいないカーディガンの裾を削って教室に突き刺さる。

「…」

「これが私のつくも神の能力です。抵抗なさいますか?」

軽く息を吸って持っていたシャーペンを投げる。

目標はロッカー。

シャーペンは金属製のそれにぶつかり大きな音を立てる。

そちらを向いた彼女の隣を走り抜けて教室を出る。

「な…待ちなさい!」

重い荷物を捨て、足音の原因になる上靴を脱ぎ捨てる。

自分は逃走を始めた。


〜〜〜〜〜〜


1年4組11番、佐藤花蓮さとうかれん、美術部所属。

『あなたの近くにいつもいる』が売り文句の大企業、サトウグループ設立者の孫娘。

成績は学年トップで運動万能。

その可憐な姿と凛とした雰囲気で学年美少女ランキングの上位に君臨している。

というかどうやって作ったんだそのランキング。聞かれた覚えがない。

…閑話休題

まさか異能バトルな世界の人だとは思わなかった。

つくも神…長く使われたものには命が宿るという日本の思想から生まれた精霊とか妖怪系のもの。近年ではライトノベルやマンガなどで主役をしてたりもする。

「…ライトもつくも神?」

「キュッ!」

らしい。

「君もあんな能力を?」

「キュウ。」

カーディガンの断面を触ってさらに尋ねる。

「こういう能力?」

「キュッキュッ!」

激しく首を横に振られる。

まあ万年筆がそんな物騒な能力を持っているはずがない。

「どんな能力?」

「キュッキュキュッキュキュキュキュー!」

「なるほどなるほど…」

メモ帳を取り出し、万年筆に戻ったライトを構える。

自分はただ、書き綴るだけでいい。



〜〜〜〜〜〜


『「ようやく見つけましたわ!」

荒い呼吸をしながら睨みつけられる。』

「ようやく見つけましたわ!」

ハアハア、と荒い呼吸をして、こちらを睨む彼女に正面から向き合う。

『「一応こっちの話を聞いてもらってー」

「盗人であるあなたと話す意味が分かりませんわ。」

「ですよねー。」

彼女は良くも悪くも真っ直ぐだ。』

「一応こっちの話を聞いてもらってー」

「盗人であるあなたと話す意味が分かりませんわ。」

「ですよねー。」

この反応は想定内、むしろこの反応でないと困る。

『「一体なんなんですの!?あなたは!やけに逃げるのにも慣れているだなんて…経験でもあるのですか?」

「さあ?」

もちろんそんな経験なんてない。』

「あなたは一体なんなんですの?やけに逃げる手際がよかったわ。経験でもあるのかしら?」

「さあ?」

ズレた。

実際は厨二病を拗らせていただけだ。

『「これでおしまいですわ。もう逃げ道はありません。」

「その通りです。」

後ろには壁があり、逃げようがない。』

「これでおしまいですわ。もう逃げ道はありません。」

「その通りです。」

大丈夫、あと一言で完成する。相棒を信じればいい。

『「そこ、危ないですよ。」』

「そこ、危ないですよ。」

『「はい?」』

「はい?」

『運良く、彼女の頭上にあった火災報知器が落ちてくる。』

火災報知器が落ちる。

これは偶然だ。

『「イタッ!」』

「イタッ!」

けれど必然だ。

『当たりどころが悪かったのだろう。

崩れ落ちる彼女を見て一言言う。』

「ごめんなさい」

『「ごめんなさい」』

これがライトの能力だから。


〜〜〜〜〜〜


万年筆のつくも神:ライト

能力:現実の書き換え


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