三話 契約 後
目を開けるとそこは本棚に囲まれた小さな部屋だった。
大きな本棚には小さな文庫本が二冊ほど置かれているだけで余白ばかりだった。
自分は部屋の中央の大きな机の前に座っていた。
「契約書…?」
机には羊皮紙の契約書が置いてある。
「キュッ」
「君は…」
途中何度か見かけたトカゲ…
「羽?」
「キュ?」
…訂正。それは蝶の羽のついたドラゴンだった。
「えっと…?」
「キュウ」
広げた手の上にドラゴンが乗る。
触れた時に何かが流れ込むような感覚がした。
『悪い、何もできなかったな…』
『ごめんな…お前ももっと書きたかったろうに…』
それは二つの声。終わりを感じさせるその声は大きな後悔を含んでいた。
「もっと書きたかったんだよね、読者に希望と夢を与えられるような物語が。」
「キュウ…」
この本棚にある本は彼らがこの子を使って描いた物語だったのだろう。
「自分は君の持ち主だ。出来るだけ君の力になりたい。」
そこで区切り、立ち上がって真っ直ぐに見つめる。
「だから、書くよ。君を使って、希望の光を読者に届けられるような作品を!」
「キュッ!」
契約書に向き合って尋ねる。
「何を書けばいいの?」
「キュッキュキュ、キュッ!」
「名前を書くの?」
頷いたと思ったら首を横に振られた。
「あってるけど少し違う?」
「キュッ!」
そうらしい。
「じゃあ、何を…あ、」
わかった気がする。
「君の名前?」
「キュッ!」
責任重大だ。少し考えたら案はすぐに浮かんだ。
「君が、読者の光になるような作品を書けますように。」
息を吸って契約書にペンを走らせる。
「ライト。それが君の名前だ。」
結ばれた絆を祝福するように、契約書が光を放つ。
今、ここに新たな契約者が誕生した。
それがどんな影響を及ぼすのか。
それは誰にも分からない。