二話 契約 前
そのまま百貨店でインクとハードカバーの日記帳を買い、日々のルーティンにすることを決めた。
せっかくもらったのに使わないのはもったいない。
日記帳の一ページ目に今日あったことを書き込んで布団にもぐる。
祖父の手伝いで疲れていたのか、眠りにつくのは早かった。
「ここどこ…?」
気づくと、自分は畳の敷かれた部屋にいた。
自分の手は透明で、原稿用紙の置かれた文机が透けて見える。
「キュッ!」
何かの鳴き声がした。そちらを向くと襖の向こうに蝶が飛んでいくのが見えた。
「こっち…かな?」
部屋を出ると、そこは真っ白な一本道だった。
振り向くと、襖が消えていた。
「一方通行…」
前に進むしかないだろう。
両脇には写真が貼ってある。
写真にはシワの入った手で握られる万年筆が写っている。何故だか嬉しかった記憶の写真だということがわかった。
最初の方はそのような写真ばかりだった。しかし、握られず、机の上に放置されている写真が増えてきた。
最後の一枚は箱に詰められ、誰かに渡される万年筆だった。
「キュッ!」
見ると、アンティーク調の扉の向こうにトカゲが歩いていくのが見えた。
「待って!」
最初の蝶やさっきのトカゲが関係しているのは間違いないだろう。
ガチャリ
扉を開けると、そこはたくさんの本が置かれた
書斎だった。
大きなアンティーク調の机は使い込まれていることがわかった。
「こっち…?」
入ってきたのとは別の扉を開けて進む。
こちらも白い一本道で、両脇に写真があった。
万年筆で何かを書く写真だ。
やはり、最後は誰かに渡される万年筆だった。
目の前に再び扉が現れた。
今までと違ったのは見覚えがある点だった。
「お祖父様の家の蔵…?」
今日、掃除に行った蔵の扉だった。
ギイ…
重い扉を開けて中に入る。
あたりを見渡すが、今日入った状態と何も変わらなかった。
「最近なのか、むかしから変わってなかったか…」
あの二つの部屋はどちらも万年筆が関係していた。
ならばこの空間の終わりは一つしか考えられない。
「あった。」
自分が万年筆を見つけた埃を被った箱の山。その中から綺麗な箱を出して開ける。
箱の中の万年筆は自分を待っていたかのようにきらりと光った。
「お待たせ。」
万年筆を握ると目を開けていられないほどの光があたりを満たした。