一話 遭遇
「うっわ、埃だらけ…」
祖父に呼び出され、蔵の掃除を任されたが予想以上にひどい。
雑に積み上げられた段ボールはいつ倒れるかもわからない状態になっている。
「一つ、好きなものを持って行ってもいいと言われても…」
つられるんじゃなかった。
しばらく掃除をしていると、綺麗な箱があった。
「なにこれ…?」
この箱の『中身』に呼ばれたように感じる。
導かれるように箱の蓋に手をかけ、開けようとする。
蓋は思ったよりも軽く、簡単に開いた。
「万年筆…?」
艶のある木製の軸に高級感のある金色のペン先。
綺麗な万年筆だった。
「おーい、段ボールは蔵の外に出してくれ。」
「あ、了かーい!」
しばらく見惚れていたが祖父の声で正気に戻る。
「働かないと…」
まず終えないともらえるものももらえない。
掃除をしている間、万年筆が頭から離れなかった。
〜数時間後〜
「これが欲しいのか?」
「はい。」
太陽が沈み始める頃、ようやく掃除が終わり、万年筆を欲しいと伝えると、祖父は渋った。
「だが、なあ…」
「約束が違うじゃないですか。一つ、何でも好きなものを持っていっていいって言いましたよね?」
そう、問い詰める。
「…なぜ、これが欲しい?」
「なんかいいなあって思って。」
「…間違っても高く売れそうだからなどという理由じゃないな?」
「失礼な!そんなわけないですよ!」
無駄な贅沢でもしない限り十分な生活費はもらっている。
「じゃあ、持っていくといい。」
「ありがとうございます!」
百貨店を経由してから行こうと考えながら席を立つ。
「何かあったら呼んでください。」
「ああ、何かあったら呼ぶ。」
そう言って玄関を出ると、夕暮れが道を照らしていた。
高校生、筆谷格。彼がこれから起きることを知ることなどできるわけがなかった。
見切り発車です。終わらせる気はあるんですけどいつになるんでしょう?