虚
四ヶ月ぶりですね。
いらしゃいませ。
暗く寂しい心の底から、声を張り上げる事すら諦めた頃に。
「“貴方は…?”」
声が聞こえた。優しい声だ。柔らかい。心地の良い。
「わぁ!楽しいねぇ!」
私は、いつからか繰り返す事を辞めていた。
否、気が付けば繰り返されるようになっていた。
思考する。想いを馳せてこの空間を作り変えていた。
私の望むように、私の分かるように。世界がそれに答えてくれた。幸せだった。唯一の不満すらなかった。そして、ただ見ているだけの世界で手を伸ばすことを知った。
遊び方を学んだ。壊れる事。直す事。生き物は死ぬ事。
私のいちばんの楽しみは感情を知ること。
“楽しい”を学ぶまで手を伸ばすことすらしなかっただろう。
悪意の何たるかを知らなかっただろう。
不幸について理解など出来なかっただろう。
“夢”ってなんて素晴らしいのだろう。
君もそう思うよね?私は知ったのだ。繰り返していたのは私の方で、繰り返させていたのは私のせいだった。
神様についても、悪魔についても、天使についても、原初の地についても、奈落は恐ろしかった。
恐怖を学んだ。
何度繰り返そうとも分からなかった気持ち。
観測されるまで私は私を知らなかった。
気まぐれで私を起こした神にも。
ーーー
成長とは変化である。
より望ましい結果を示す事を成長とする。
その前提で再現性を担保した変化。
自己成長とは正当性の主張と誇示である。
以前と以後の比較による視点の切り替えである。
そして、自己変容を他者に受け入れてもらうには、以前よりも分かり易く、“善く”なっている必要がある。
道徳と倫理の両立。或いは技術と理論の強化。
または、自己犠牲を前提とした活動の実績。
自己の矛盾を排除し、他者の矛盾に寛容になること。
人間性の向上と成長は、他者を生きやすくすることである。
故に、歓迎され、促され、求められる。
「我々の教育は洗脳ではないのですよ」
文化に沿った様式美の習得こそ、教養の基礎である。
そして怠ることは忌避される。
何故ならば、文化的様式美は“普通”の帰属先である。
万人が理解すべきとする基盤。故に“普通”を求める事は“当然の権利”であって“不当に応えない”ことは除外の対象となる。何故ならば、文化の及ぶ範囲に於いて普通こそ共通の言語であり、意思の翻訳概念であり、取り引きの条件に他ならないからだ。
「言語の不一致の解消こそ互いの友情に不可欠な要素なのです」
「だから、教育によって社会に馴染めるように矯正するのです」
「言語の壁を免罪符に文化圏への叛逆は到底許されるものではないのです」
「言葉が通じなければ、話し合いは不可能ですから」
「言葉の通じないうちは、人類の共通語である肉体言語に頼らざるをえないのです」
「我々も、言葉の通じる相手には肉体言語に訴えることはしませんよ?当然です」
「しかし、言語の壁がある。我々の文化圏にいるのですから、我々の文化こそ優先されるべきであり、犯罪者の為に我々が変わる必要はないと判断しております。」
「それに、…犯罪者の生まれ育った文化圏でも犯罪と定義される行動を行っているのですから当然の待遇と思います」
「我々は我々の教育を施し、我々の文化圏で問題なく活動できるように矯正する必要があるのだと、ご理解いただけますようお願い申し上げます」
犯罪者の成長。否、人間性の必要発展は文化の許容範囲に依存する。
「何故、犯罪者如きを気にして居られるのですか?」
虫の息。或いは後悔と諦念による浅い吐露。自身の間違いを認めず、のうのうと生きている。自己弁明の表れか。
蛮行の末の逃避行が行き着いたのは圧倒的正義の墓穴だった。
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意思を持って唸る。
門番の咆哮は宇宙に木霊する。
お疲れ様でした。




