用途
いらっしゃいませ。
神々の知る世界。
或いは観測可能な世界。
その空間は神々が認知した全てがある。
その空間は極小にして膨大。
膨大ゆえに多次元の神々とて包括する空間。
白む闇。
森羅万象その理が及ばぬ極意。
無。
宇宙の望まぬその全てがその空間を保証する。
真に普遍なるはその境地。
ーーー
「やぁ、暫く会ってなかったね?」
怒りの感情のその根源たるやある種の人懐っこさ。
「え?、なんできたんだ!」
その表現としての拒絶は急激に膨れ上がる感嘆の抑制。
「そんなに怒鳴らなくてもよいじゃないか」
沸き起こる感情が割れ蓋如き理性で抑えられぬ結果。
「お前なんか嫌いだ!」
心の内に湧く抑えの効かない感情を恐れ反転させる。
「…そうなんだ」
怒りも悲しみも或いは感嘆することもない。
受け取り手として知れぬ根源。
表に出る感情は、その時々の状況に対応する為の意図的な表現である。示される感情の傾向や頻度はその個体の性質と、経験によって変化する。湧き上がる感情を目的に沿って独自に処理し、表現として外向きの感情を見せる。
ーーー
その無意識が感ずる言葉にならない"原初の感情"を言葉にする時にはもう原型を失って、綺麗な感謝となる。
人工的な感情。
そしてそれを表す為に表現方法を模索する。
加工された感情を言動で梱包する。
目に見える形で顕現した感情群は言葉に集約される。
「言葉による表現で事足りる感情を感ずるには感情の加工技術を備えてなければなりません」
そう言って微笑するセンセイは静かに続ける。
「嬉しいという感情を笑顔という言動によって梱包する。コミュニケーションにおいて、加工された感情の梱包はとても大切です。装飾された感情はより心地良く相手に渡ります」
笑顔になったセンセイが、プリントを配り始める。
「渡りましたか?見出しにある通り、『感情表現と目的』について今日は学んでいきましょう」
生徒は①と書かれた項目に目を通す。
「では、①について」
ー、笑顔は安らぎ、安心感、多幸感といった様々な感情を表現し、受け取り手に副次的効果を発揮します。
自身の目的意識をしっかりと把握して活用しましょう。
「みなさんは、笑顔と聞いて、或いは見てどんな印象を受けましたか?」
笑顔を絶やさないセンセイが歩き始める。プリントに生徒が記入している内容を確認するためであり、笑顔を間近で観察する機会を与えるためである。
「うんうん、いいですね、皆さん考えが様々有りますね」
「笑顔に恐怖を抱いている方は、存外多ですね」
微笑となったセンセイは黒板に向き直る。
「少数意見となってしまいましたが、笑顔というのは電波します。笑い声につられて笑った経験くらいはあるでしょう」
「笑顔が怖いと感じた方、その多くは“笑顔”に恐怖したのではないと思います。」
ー目的の不明な輩の笑顔ー
ー状況にそぐわない笑顔ー
ー表現として不完全な笑顔ー
ー脈絡のない唐突な笑顔ー
ー笑顔の詐称ー
「上四つは通常みなさんが、笑顔を見て緊張したり、恐れたりする理由かと思います。」
センセイが黒板から一歩引いて話し始める。
「下に書いた、笑顔の詐称。これについて」
生徒は項目2番に目を向ける。
ー、想起される感情表現に適さない言動に我々は混乱する。
「笑顔は通常、"楽しい"や"嬉しい”或いは"そう思わせたい"時に使用します。そして、笑顔を向けられると大抵の場合、ホッとするでしょう。」
コミニュケーションにおいて、笑顔は相手の警戒心を解くのに適した表現であることは、詐欺師が証明している。
相手を騙す目的を達する為に、相手の警戒心を解く。警戒心とは、論理的な思考や合理的な思考を強制する感情である。
詐欺師はその強制された思考を辞めさせる為に笑顔を向ける。
警戒心が薄れた時、疑り深い性質を持ち合わせていなければ、『強制されていた思考から解放してくれた相手』とただ認識し、詐欺師は本領を発揮する。
例えば笑顔と詐欺師を結び付けると、笑顔の相手を見て、目的不明な笑顔を懐疑的に捉える。見抜く能力が欠如しているが為に笑顔のその裏、たらればに恐れている。
「”楽しんでいる”と思わせたい人間にとって、笑顔はその場の雰囲気を保つ為のツール。相手が楽しんでいるのか、笑顔から判断できないのは君の経験則に基づいての判断でしょう。アナタは、作り笑いと笑顔を混同している」
項目三番。
ー、目的のための瞬間的な感情と強い感情の抑制と抑圧。
センセイは黒板に向かって例として怒りを取り上げた。
「怒りを感じた時は皆さんどのように表現していますか?」
ー怒る理由についてー
「おや、皆さん飽きてしまいましたか?」
センセイが振り返って見てみれば、ほぼ全ての生徒が教室を抜け出していた。
残った生徒は静かに座っている。
「…まぁ続けましょうか」
「相手との交渉において、怒りは有能な感情表現です。皆さんも一度は意図して怒りを道具として使用した経験はあるでしょう。逆ギレという現象もそれに当たります。論理的な思考によって状況の改善が見込めない場合、怒りを用いて喧嘩へ誘導する。喧嘩とも成ればどちらも悪くなる。これは子供の頃の経験則ですね」
「怒りは極論、自身の正当化であり、不利な現状を打破する道具であり、拒絶です」
感情の表現として幅広く使われる怒りはその原因は多種多様。
悲しみ、憎しみ、妬み、嫉妬、拒絶、恥じらい、心配、etc。
そして、各種の目的。
幼児、幼子は感情の表現が乏しいので、明確に嬉しくも楽しくもない時に怒りを多用します。
欲求を満たしたい場合も怒りを道具として活用します。
幼少期に身に付けた表現、これに頼らない感情表現を大人になるまでに見つけられなかった場合、欲求不満に繋がります。
「怒りは道具として優れているが、大きなコミュニティに属すると途端に使い物にならない」
怒りを抑える方法を身に付けても、怒り以外で表現が難しく、感情を活用できないために、不平不満が募り、欲求も満たせない。
大の大人が、要求(我儘)を通すために、怒りを用いても誰も相手にしません。子供だから許されるのです。
小さなコミュニティなら、通るかもしれませんが、社会という大きな枠ではただ「幼稚だ」としてあしらわれます。
つまり、幼稚な表現に頼らない適切な表現を模索しましょうという単純な話です。
「みなさん、飽きられたようなので終わりますね」
全ての生徒が離席していた。
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「転生、転移者の活用法案」
会議の内容に、苦言を呈するものはない。
「目的は、世界の調整と信者の増減」
「それだけじゃない、文明の衰退或いは発展」
「して、信仰の基盤の見直しと再建こそ急務」
「動植物の駆除或いは繁栄」
「地形の変動にも活用可能」
「異物として処理が容易いという点が多いにある」
「異族に無条件で受け入れられるという前提に立っているのは少々困りものだが」
「彼らの歴史からして、異民族が原住民にもたらす影響がどれほど大きいかわかるだろうに」
「ならば、何を期待して送り出す」
「滅亡だ」
おつかれ様でした。
以下独り言
(子供が怒るのは、怒りと悲しさ以外の強い感情を知らないからで、強い感情に襲われた時「今感じているのは怒りだ」と誤解して暴れてしまう。怒ってみて、「どうやら今感じているのは怒りでは無さそう」と気が付いて今度は泣く。泣いているうちに本当に悲しくなってきて、大泣きする。
少しずつ、状況と感情が結び付いていることを理解すると「強い感情=怒り」ではないと知るようになる。
感情の大きさも状況や考え方一つで変化することを知れば、安易に怒りを用いて感情の表現に走ることは減るだろう。
ゲームに負けて怒りを露わにするのは、悔しさを適切に表現出来ないためである。或いは悔しい原因を自他に求め、その至らぬところに怒る。表現の方法を改めることができなかったからである。感情の表現は難しいよね。過去の己を顧みて思う。




