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落とし物

いらっしゃいませ

天界の広場で人型の右半身が、作り出された簡素な椅子に座って右側にいる左半身に語り掛けていた。


「これで、足りるかな?」

躊躇なく消費されてた魂の結晶体を雑に放り投げる。

「うーん…足りないかも」

壺から溢れ出る水で手を洗ってから左半身が落ちた結晶体を丁寧に拾う。

「じゃ、もっと必要だね」

再び魂が消費されて、先ほどより大きな結晶体が出来上がる。

「そうだね、必要だね」

右半身が乱暴に放って投げ捨てた結晶体を左半身が丁重に拾い上げる。


「足りたね」

左半身がそう語ると右半身が溶け始める。

「行こうか」

左半身が急速に風化して、崩れ去る。


「…間に合わなかった」

捨てる神あれば拾う神ありと謳われた一柱の神の元へ辿り着いた疫病神が空間の心地よさに浸りながら踵を返した。



ーーー


考古学者でありながら、宗教学者として活動する神の存在を究明する団体の最高責任者が一人。

その男の手元にあるのは神秘的な石の破片。

未知の粒子で構成されていて、加工は現代の技術力では不可能と判明した神の存在を示唆する…かもしれない証拠品。


とある部族の少年に秘宝を見せて欲しいと懇願し、遂に5,000kの金塊と交換した破片。闇を放出する物体。

人がその残光を見ただけで失明する光量を当てても石から放出される闇を払う事は出来ず、石を握れば自分の手が闇に覆われる。


その部族には「転生には魂の結晶と適性が必要である。適性のある者が触れれば神の元へ転生する」という言い伝えがある。


その言い伝えに従い、様々な人種、凡ゆる病人、沢山の罪人に触れさせた。


転生したと思われる個体は在らず、中にはその石に常軌を逸した怯え方をする人もあった。


実験中、部族がテロ行為で斬首刑かそこらで処罰されたと報告を受けた時には情報源の多くを失った事実に目眩がした。


部族固有の宗教には非常に興味があったのに。転生者に必要な要素が信仰心である可能性も十分に考えられる。少年には信仰心は無かったはずだ。秘宝を見せびらかす為に握りしめて宗教的に禁止されている持ち出しを決行したのだから。


「神…やはり必要ですか」

神の存在を認めるには様々な方法が既に確立されている。


一つは信仰心。存在すると確信する事が最も確実な神を認める方法である。


一つは科学及び心理的分類。過去、人類は神と崇め認めていた種族が有った。これも有用な方法だ。


一つは科学的実証。神の存在を否定する全ての証拠が提示出来ない事を以て存在を認める方法だ。しかし、今の科学力では不可能なだけだと言い張る事もできる。


一つは神の存在を示唆する何らかの物質。

既存の或いは滅びた種族の生成した物質でない事を最低条件とした上で今後も生成不可能で有る事を認め、宇宙にも発見できない確信を得る事で神の存在を認める方法。


人類は潜在的に"神の存在"を否定する方法を探し続けている。全ては偶然の積み重ねであって、"何者か"の意図する現象でない事を求めている。これは人間主義の最たる特徴だろう。


そしてその偶然も"人間が解析解明出来る程度の現象だけ"で説明可能だと信じている。


或いは理解の及ばない全てを神に押し付けた罪を払拭する為に躍起になって理解の及ばない全ての現象を解明しようと努力しているのではないか。罪の意識によって現実から目を背け、神の存在までも否定してしまっているのではないか…などと石を握り込んで考えてみても、何ら変化は感じ取れない。


この特別な石も現代の技術では解明不能な代物で、ロマンを感じているが、一向に神を認める事ができないでいる。


今なら囚われた部族の信仰深い人に握らせる事が出来る。牢の中なら石を奪われる心配もない。


ーーー


「そういえば集中力を削ぐ為に唇を傷物にするべしって習ったけど、何でだろう?」

「唇とか鼻、怪我した事ないの?」

「鼻はあるよ…呼吸が難しくなったり血で塞がって止まるよね」

「唇が動かなくなると口呼吸が難しくなるんだよ」

「呼吸が無意識に出来なくなるから集中力が削がれるのか…なるほど」

「そうそう、そんなことよりさ、どの血管を切るのが一番相手が弱るんだろうね」

「それは難しいよね、皮が傷物になって価値が下がるから狩人の時は一撃必殺が必要だったけど、ゴブリンみたいなタフで生きている間だけは斬りにくいくせに、死んだ後は破れやすいって大した価値がなかったんだもんな」

「師匠は足の付け根とか肩とか脇の下とか、後は肘窩とか、まぁ、四肢を重点的に狙ってるね」

「なるほど…」

「…達磨にする事が血管を切る最終目標…目的だって師匠が言ってた気もする」

「筋肉とか切断してないそれ?」

「…理想がそれなんじゃない?血管を切る事を目的にすれば骨に刺さって抜き辛くなる!って事は圧倒的にへるじゃん?筋肉じゃなくて血管を狙う理由はそれくらいしか思いつかないけど」

「でも、流石にチマチマしてるよね」

「そもそも大胆に敵を倒す事なんてそうそう出来ないからね」

「…頭に深く矢が刺さっても突進する猪とか…罠に掛かった熊の心臓を刺突する勉強会でも心臓潰しても大人しくなってくれなかった個体もいたし」

「筋…血管じゃなくて筋なんじゃない?」

「あー…確かに…そうだ!」


男は猿轡を噛ませたゴブリンの筋を丁寧に切っていく。

出来るだけ外傷が少なくなる様、必要最低限、切り込んでいく。

ゴブリンの抵抗虚しく遂に手足が動かせなくなり、暴れようとするたびに激痛で歪むゴブリンの顔は怒りとも恐怖とも取れる表情で噛み砕かれた猿轡を吐き捨てる。

息を吸う音が微かに男の耳に届くよりも先にもう一人の戦士が振るった魔剣が風切り音を鳴らしてゴブリンの首を刎ねた。


「でもやっぱり、ゴブリンを相手にするなら毒を塗って、適当な血管を切ればそれで事足りると思うんだ」

お疲れ様でした

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