主義の主義者
いらっしゃいませ。
人間至上主義者が宣う。
「我々人類はこの星で最も秀でた存在であり、最も神に近い存在である」
しかし、現実には神を認知する事が不可能である。
宇宙の矛盾によって神の存在に干渉する能力を得たに過ぎない。
否、本来人間は最も神から遠い存在だったといえる。
自然保護団体の最高責任者は宣う。
「我々人類は神によって創造され、自然保護を命じられたのだ」
しかし、人類は神の認知しないところで発生した。
それゆえに唯一使命を持たない存在でもあった。
神が望まない存在…否、宇宙が望んだ存在である。
反人類主義者が宣う。
「我々は存在してはならない。我々は早急に滅ぶべきであり、我々は人類が滅んだ事を観測する義務がある」
しかし、反人類主義者は誰よりも生に固執している。
でなければ、もう人類に反人類主義者は存在しない筈である。
自爆テロをしない理由。それは富の分配を可能な限り自分の手元に増やしたいからである。そして死ぬ事を避ける為である。平等や公平性を重んじる主義者たちは究極の考えに辿り着く。富を分配する時、母数が減ればそれだけ豊かになると。
だからこそ反人類主義者の派生として反出生主義者が生まれた。
これ以上の母数を増やさない為に。
彼らは実に欲に目がくらんだ愚か者である。
が、その活動の真意とは裏腹にある程度までの出生操作や人類至上主義に対するアンチテーゼは必要である。だからこそ、一応に表立って批判することはないし、彼らは生かされている。
自由主義者が宣う。
「我々は自由だ。しかし、人権を他者に認めてもらうには他者が背負う義務程度は背負わなければならない。我々は自由であると同時に人間という存在に縛られているのだから」
だからこそ、人類は繁栄している。
人間に本来、義務も責任も存在しなかった。
それ故に自由も存在しえなかったのである。
不自由を感ずることで自由を見出した。
様々な主義主張は"その人が生きる為"に都合が良いから或いは"不都合な主義主張から身を守る為"に有るに過ぎない。
神の信徒は宣う。
「我々人類は神に認められている。しかし、愚かな人類はそれを軽んずる。我々は神に敵対して生活出来るほど強い存在ではない。だからこそ我々は正しく跪くのだ」
神に人類が抗おうとする意味や理由は皆無で有る。また、そんな愚行を行うほど能無しでもない。ただ、軽んじるのみである。
人間に干渉する神は人間と強く結びつく。
天界と星々を繋げば下天する。
一人の人間が神を冒涜したところで神は怒りを覚えないし、その程度のことで神々が直面している問題を後回しにすることはあり得ない。
ゆえに人類は盛大な勘違いをする。
「神は居ない、或いは不在である」と。
人間如きに神々が気に掛ける事がないという単純な理由だったとしても、相手にされていない人間は傲慢にも神に最も近い存在だと人種単位で考えている。
神の信徒は神と人間を繋ぐ楔である。
様々な災害を呼び寄せ、同時にそれ以上の富と名誉、幸福や祝福が与えられる。
ーーー
世界は実に平和に実に醜く途絶えていく。
継続性のある終焉が世界を構築していく。
蓄積された結末が新たな終焉を導き出す。
そうやって世界は廻っている。
有限で有り続けること。
終わり続ける事が世界の唯一の救いである。
ーーー我々は実に多くの失敗をした。
終焉を回避する事が生存の手段だと思い込んでいた。現実は世界を破綻させるに至る手段だった。我々は誰にそう思い込まされていたか。
世界は終焉の連鎖で辛うじて形を保っていたのだ。生物の死や無生物の崩壊は世界の所以であった。所以を根底から覆せば世界は破綻する。
終焉を回避する事を善とする考えを植え付けたのは一体何者か。
死の回避を当たり前のことと定めたのは誰か。
ーーー
【死を回避する事は人生を豊かにします。
我々が我々で有るのは今この瞬間だけ。
死を迎えれば我々は我々では無くなります。
人生をより進歩させるには寿命が足りません。
人生には意味が有ります。それを自覚するためには時間が足りません。我々は我々である事に意味があるのです。しかし、それを自覚する頃にはその使命を果たす事はできません。
我々は死を回避する必要があります。
たった一度の人生において、何かを躊躇する必要は皆無です。我々は常に豊かになる権利が有ります。我々を贅沢者と賛美する声を聴きましょう。我々は多くの幸福を追求する義務が有ります。我々が幸福になる事を望まれています。
この世界は我々に与えられています。
我々は幸福を維持する事を目的とした行動を推奨されています。
仕事や義務は幸福を幸福と感ずる為に必要な代償です。その代償は大きければ大きいほどより多くの幸福を与えられます。
我々は死ぬ事を回避する手段を知っています。
我々は我々の活動に賛同し、入会する方々を募っています。
我々の活動方針は死を回避して人生を進歩させる事です。
我々にはアナタが必要なのです。】
ーーー
「美味しいね」
「…これは不味い」
お疲れ様です。




