絶対的存在
いらっしゃいませ。
太古の昔…神話の時代は有神論によって人類は繁栄していた。
そして、遠い昔は無神論…神の否定をすることで飛躍的に人類は進歩した。
今現在、科学者は神を肯定する。
最新の研究という最後の研究で無神論によって発展し続けた科学という分野において神の存在が証明された。
かつての無神論者は科学という"叡智の集合体を神に勝る存在"として崇めていたという。無神論が神よりも絶対の存在を作り出して崇め奉る不可思議を当然のこととして認識していたのである。
当時の人間は科学を真っ向から否定する存在は居なかった。
居たとしても誰にも相手にされてなかった為にきろくにものこっていない。
無論、科学者はその科学を疑っていた。
究極の無神論者は「絶対に正しい存在を超える科学的な様々」を疑っていたからである。
その結果として、人類の技術は飛躍的に向上した。
導き出された様々を知的に疑い続ける存在を「科学者」と呼んだ。
八十年前の人類はその神の存在が証明された時に混乱して、混乱の末に戦争が勃発。結果的に数十億人の人が命を落とした。
幸いしたのは遺伝子の多様性保持の義務として生まれた存在の遺伝子的多様性が強制的に保管される仕組みがあったことである。
人工人間と自然人間という対立が神の存在によって表沙汰になって久しいだろうか。利権関係の対立煽りに国民は無関心を決め込んでいる。
例えば目の前にいる、明らかに失敗作の男。
知能も認知能力も、剰え六感の一部分が欠けている。戦争の被害者なのだろうか。戦争の電磁波によって機械の一時的なエラーがあって生まれてしまったのか。
或いは、完全に独立した地下帝国によって出荷される人間の中に遺伝子の多様性の観点から奇形の子がいると聞く。
意図して失敗の人生を強制されている目の前の男の驚愕に染まった顔に同情をしてしまう。
「…異世界か?」
最近はテレビで昔のアニメ特集という番組でリメイクされた転生ものというジャンルが流行っている。
これは昔の文化が好きなマニア御用達のチャンネルであるが、考古学者も視聴しているため、テレビが今の時代においても廃れていない唯一の理由だったりもする。
「あの…」
明らかに稚拙な人間が必死になってモノを考えている事に時間の無駄な消費がこれ程までに不快だったのかと私の中で衝撃となっていた。感情の起伏は操作可能だ。
ゆえに、強制的に負の感情を引き出されることは新鮮だった。
大抵は負の感情の起伏がないように制御されている。
「…どいてくれませんか?」
本題はそこである。
目の前の人間は男である。通常は肉体能力に秀でている筈だ。
女たる私が上乗りになっている状況下である今は、法律で生物学的女性である事を条件として武器の所持が許されている女の私の方が強い。ということを男も理解している筈だ。
ゆえに、声を掛けるよりも先に力任せに立ち上がって状況の好転を見込むべきであった。
肉体能力で劣る存在が武器を手に勝利を掴むという戦争によって単純化された分かりやすい娯楽が世界中で数世紀前に禁止とされた。武術やスポーツを想起させるそれらは保守派によって運営されている違法サイトの映像でしか見られなかった娯楽となった。結果、リアルに体感しようとする集団が現れた。
その集団に属する私は勝利の快感に理性的に酔っている。
今の流行りは男狩りである。
撲殺する一歩手前まで暴力を振るう。
感情の制御がお粗末な男は泣きじゃくりながら初めは抵抗し、時間経過と共に無抵抗となっていく。
殴り方やそのリズムを変化させるたびに逃げ出そうとする。
敵前逃亡は最近の男の常套句であるが、この男の場合は逃げ足が遅すぎる。ゆえに、十分に私が満足出来る一方的な鬼ごっことして成立する。
人気の多いところに逃げようとすれば先回りする。
可能な限り痛ぶった私は今にでも死にそうな男を集団に持ち帰ってヤブ医者に見せる。次も楽しむ為だ。
数年して彼の精神が崩壊する。
崩壊した後はよく分からない事を譫言のように言っている。
そろそろ棄てる時が来た様だ。
「ト…ッチ」
ーーー
宇宙に散乱する転生者の魂が幾星霜の時を掛けていくつかが死滅していた。
お疲れ様でした。




