表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/78

思考錯誤

いらっしゃいませ


「我々は勝てるのか…?」

そう疑問を呈した男は舞台の最高指揮官である事を忘れ、参謀本部に居座る首脳たちに弱音を吐いた。

「恐れながら閣下、自軍の数倍の突撃兵を敵主力と思い違いを起こし、最終兵器まで使用してしまったのです。講和の席に着くべきです」

それがこの場の総意である。

項垂れた男は静かに席に座る。

「…我らに正義は有ったか?」

「正義は有ります。其れを示す実力がなかった」

服従の道を選ぶか、或いは徹底抗戦するべきか。

幸い、前線を後退すれば戦争を続ける事が可能である。

「敵方の指示系統が不合理である事が唯一の救いか」

捕虜の尋問から判明した事実。一部隊の隊長が独自に作戦目的及び戦術を決定すること。そして軍全体の統率は存在しない。

各部隊が独自に作戦行動を繰り返すのみである。

「我々からすれば理解に苦しむが、それと同時に敵の動きが不規則で計画が狂い続ける」

そのせいで、敵主力と勘違いしてかなりの消耗と苦戦を強いられた。

「閣下、席に着くべきです」

必死になって地図を見続ける一人の男を除き既に集中力を切らしていた。無論、それでも一応に打開策を考えてはいる。


「森というのが厄介ですな」

死体のフリや仲間の死体の下に隠れて何週間もじっとする精神力。見落とせば兵站が襲われる。その為、死体に対して球の消費を強制される始末。

「非戦闘員の護衛にも兵力が裂かれる」

「現場はゲリラだと気が付かずに勝手に前線を伸ばす」

「相手が若干劣っているというのも考えものだな」

「やはり、前線を後退させよう」

「うむ、そうすれば講和での舌戦や伸び切った兵站にも余裕が生まれてくる」

「……」

視線が集まるのを感じた男は地図から顔を微かに逸らす。

「開戦場所からかなりズレている」

それは優勢となった当時から危惧されていた。

故に、軌道修正の意味でも一度後退する必要があるのだ。

「前線を後退させる事を許可して頂けますか?」

「で、勝ち目はあるのか?」

「…正直有りません」

優位なのは今だけである。そもそも奴らにマトモな兵站などなかった。それ故か、さまざまな作戦は失敗に終わり補給部隊が執拗に狙われる羽目になっている。

かつてないほど補給部隊が襲われる。

そして、奪い合う様に個々の猛者が独自の攻め方を、味方の部隊すら利用した奇襲を仕掛けてくる…らしい。

各個撃破すれば良いと分かっていても森の中では殲滅は難しい。

そして、飢えた敵部隊が森を抜けて後方部隊、直接支部を5度も襲撃し、3度も食糧庫や主要人物を奪われている。


「奴らはそもそも何者だ…」

突然の宣戦布告、村々の襲撃、指揮系統のメチャクチャな部隊。

底の見えない残存兵。撃破すればする程に奴らの装備は充実していく恐怖。数年前に突如現れた未知の武器を扱う軍団。

延々と続く戦争と過去最多を記録し続ける豊作の報告。

そもそも、講和の席を用意したところで、奴らの国、首謀犯すらわからない。人類未到の森から現れた我々の言葉を解する何か。

最強の軍事大国とまで謳われた我々の戦果が芳しくない事実。

他国との不可侵条約もいつや破られるか分からない。

いや、未知の武器が手元にあることが唯一の救いか。

しかし、人材に関してはもう後がない。

傭兵を買収して積極的に軍隊に組み込んだ即席部隊の乱立。


「前線を下げる」

男の発言はこの場全員を安堵させた。

「敵が新兵器を持ち出すまで下げた前線を維持する事に専念せよ」それはこの場全員の総意となった。

ーーー

一柱は考える。


転生者は多くの能力を求める。

そして個人で多くを遂げようとする。

それを能力主義と言うらしい。

能力が高い事を良しとする思想。

人間は群れる生き物である筈だ。

群れの特性を個人が独占することを理想としている。

正直、腕一本使い物にならなくなるだけでその価値はほぼ地に落ちるし、病を患えば第三者の助けが必要になる肉体だ。

結局のところ、群れの生き物に限らず孤立した存在は万全の状態を保ち続ける以外に生きる術はない。


孤立した寂しさを万能感で誤魔化すにも限界がある。

安定した暮らしも慢心が有れば崩れる要因になり得るし、環境の変化は転生者のみならず現地の生物にとっても危機である。


そもそも、神となり人間を辞めるならば転生する意義がない。

全てを達成可能な人間を用意したところで、妬みや嫉妬の対象となって結局は破滅するだろう。人間の妬み僻みは限度がない。


ーーー


「善悪という不定の絶対を騙る輩を私は信用できない」

「では、モラルを語る輩は信用可能か?」

「無論、倫理に基づいた考え方は賛美する」

「なぜ?」

「それが世の習わしだからだ」

「風習は嫌いなのでは?」

「風習を嫌う道理がない」

「犯罪者はなぜ犯罪者となるか分かりますか?」

「倫理に反する追求を理性的に堪える事が出来ないからです」

「ふむ、理性とは?」

「理性?合理性と人格形成に必要な経験と知識、後は臆病さですね」

「君は自身の犯罪行為をどう思うか」

「私の行為を犯罪と定義する法と民衆の意識が狂っている」

「ふむ、これは困った」

「何に困ったのですか?」

「罪の定義とはなんだね?」

「定義…」 

「…分からないかな?」

「いえ、初めて考えた事なので、後少し待ってください」

「…こんな短時間で芽生えた答えでは価値はないだろう」

「正直その通りですね……罪の定義とは定められた秩序を乱す事」

「定められた秩序?」

「…要するに国です」

「国を乱す者は罪人ということですか」

「私なりの答えです」


お疲れ様でした

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ