素晴らしき正義
いらっしゃいませ
「流石ですね!」
その声は天界に轟く。
「うるさいなぁ…」
雷鳴の遊び場に呼び出された彼は静かに溺れる。
「困っていたんですよ!なんせ、生物の誕生がこれで七万回を超えたのに雷鳴に討たれて完全に散ってしまうんですから!」
「…液体、あとどれくらい欲しいの?」
「足りないですね!数時間もすれば全部消し飛んでしまうと思うので!」
「僕を枯らすつもりなのか」
「大丈夫!電気分解のし難い液体だったら2日は待つから!」
「…地球だったら崩壊する量だよ」
「あんな小さな星なんてどうでもいいさ!」
「うるさいなぁ…」
ーーー
世界樹の出現で神々は自分の星を探しに天界を飛び出した。
「…いやぁ何処も埋まってるね!」
「隣の天界からも神々が出張ってるからね」
「自分の星かぁーどうしようかな」
「無駄に大きくても絶対にちょっかいだされて壊されるよね」
「ブラックホールなんて人気過ぎて奪い合いだからね」
「程よく小さい星がいいなぁ」
世界樹の目的は不明ながら神々に対抗する意志が有るのは確かである。宇宙がそれを認めている。よって神々はそれを受け入れるのだ。ただ、抵抗はする。神々にも役目があるのだ。
その為に神々は開拓しているのである。
天使が悪魔を抑えるかぎり問題はない。
ただ、邪教徒の誕生は喜ばしくはなかった。
ーーー
「正義」の神は常に己の存在負荷で不安定であった。
人間のエゴによって信仰され生み出された歪な神である。
悪と断じ正義を謳った信者が悪と断じた筈の悪事を正義として振り翳すのである。悪を許してはならない神が信者の悪事に苦しむのである。
「あぁ、神よ!我々の正義を祝福されよ!」
そう言った初老の男性が婦人の腹に剣を突き立てる。
「これで悪女は我々の神がお救いになられるであろう!」
殺人は悪と断じた彼らが神の名の下に殺人を犯す。
「なんたる栄光か!神は望んでおられるのです!」
「貴方は…励みなさい」
「はい…」
正義の神は人々の代わりに苦しみ続ける。
「我らの祈りを今日も捧げましょう」
儀式は形ばかりとなり信者は神の名の下に自由を謳歌していた。
「正義」の神は弱り続ける。
信者に屈した神と天界で揶揄される。
「我々の罪は「正義」の神がお許しになられる!」
異端者を神の名の下に排除し続ける。
「入会金を譲渡しなければ信者になれませんよ」
力を持ち過ぎた。恐怖の対象である。
「正義は称賛されなければならない!」
恐怖で縛り褒めさせる。形ばかりの宗教。神は不在となる。
「あぁ、神よ!祝福を!」
次第にメッキは剥がれ始める。
人々の信仰は神有ってのモノ。
神が存在負荷に耐え切れずに消滅すれば人々は宗教を讃える事はなくなる。
「神の不在によって、神は正義を執行された!」とのちに伝わる演説は新たに神を創造した。
ーーー
「人は無差別に矛盾を孕んでいる」
「純粋な善悪を腑が煮え繰り返るまで煮詰めることができる」
「例えば、殺人衝動に駆られる英雄願望をもつ少年とかね」
「例えば、愛国心を持つテロリストとかね」
「例えば、正義を騙り悪事を働くとかね」
「例えば、そもそも矛盾ですらないのに下手に定義して矛盾にするとかね」
「例えば、信仰心が有るのに他者への信用は持てないとかね」
「どうでもいいけど、自分の事を優先した結果、自分だけが死ぬとかね」
「都合が悪い時に叩いて都合の良い時に賛美するとかね」
「嘘が無ければ本当もないのにね」
「君は人間の矛盾だと思い込む性質をどう思う?」
「筋とやらが通らないだけで理不尽と考えて憤慨する人とかみてて人間だなぁと思うだけかな?」
ーーー
天国に赴いた人々はその冷たさに驚く。
五感が働いていない事にそのあと気がつき、長く緩やかな時を延々に実感し続ける。悦楽からの解放。それが天国での目的である。悦楽を忘れ、純情な魂となる。欲の一切が無い魂。
天国は気が狂う肌に何も無い。気が狂うほどに退屈である。
その為に天使や女神は働き続ける。魂が何も感じられなくなる様に。それが仕事で、それが存在意義である。
天国は執着を手放せば楽園だ。
ーーー
「そろそろ、世界樹の成長が落ち着きそうですね」
「えぇ、この機に攻略を進めませんか?」
「そうですね、天使を投入する機会は今しかないでしょう」
「部隊の編成は任せますね、戦の神よ」
「おう、戦利品は枝がいいか?」
「可能なら、初めは木の葉でいいですよ」
「それもそうだな」
「要求があればその都度開きましょうか、会議」
「それでいい」
「まぁ、まだ始まってないので、忙しくなるのはこれからです」
「はい、解散です」
会議室は白紙となる。
お疲れ様でした。
正義って難しい…。




