美徳
いらっしゃい。
数多の塵芥に微力ながらも不明な加護がある一体で発見される。
神々はその周辺を禁域に指定する。宇宙の意志を尊重しているのだ。銀河の形成を促す加護であると予測されるが、その周辺に天界は存在していなかったのである。
「…」
ーーー
知的生命体、それ以前に単細胞すら存在しない無菌の惑星に衝突した隕石が大量の可能性を齎した。
様々な可能性を削いでゆく惑星が手繰り寄せた一つの事象。
それは、神々が介入する事なく実現した。
それは悦楽に酔う為にむざむざ破滅の道を進んで選択する愚かな人類の誕生である。
神々の予期せぬ信徒の誕生は喜ばれるばかりではない。
ーーー
「早急に対処しなければならない問題があります」
「世界樹の根元に突然現れた神を自称する不可思議な人間が次元の裂け目に飛び込み、現在は消息不明です」
「…なるほど」
「簡単に言ったら、なんかやべぇー空間にヤベェ野郎が飛び込んで、やべぇ事態がいつどの瞬間に発生するのかわからねぇって事だろ?」
「いや、既に発生している可能性もあるのだ」
「で、我々は神にでも祈るか?あぁ、神々や我々にお力をって」
「それも一つの手だろうな、有効な可能性もあるが、危惧している事態が事態なだけに、他の天界と同盟を結ぶのが良いかもしれない」
「…なるほど」
「私はごめんだね」
反逆の神は意気揚々と辞退する。否、それすらも利用した適任者への押し付けの為の会議である。
「…なるほど」
「交渉の担い手となってはくれまいか」
「…最善を尽くす」
守護の神はその頼みを引き受けた。
ーーー
「不幸せを嘆く事が出来る状態にあることがそもそも幸運で有る。不幸せは幸せの数だけ存在しているのだ。そして、幸せが不幸せを作り出し、一人でも幸せだ!などとと叫ぶだけで、それに劣る全てを受け入れている存在は幸せを叫ぶ声に反応し、自分は幸せではないのだと叫ぶようになる。叫ぶ理由など単純明快である。訳は自らが更なる好都合を現実に発見し、それに縋り付きつつ上から目線でモノを言う機会を得たからである。我々は常に理想に酔いしれていると、ただの一人も例外はないのだと断言出来る。それでも叫ばない存在は確かに…神々に全てを捧げた我々の様に一定の数この世に留まっている。叫ばぬ存在は不幸に臨む真に現実主義者たる素質を発揮しているか、そもそも現実を見据えて現実に沿って都合良く生きているか、そもそも不運な存在だけである」と神父は宣う。 神父はその言葉の締め括りに「有意義な時間とは過ぎて見なければ分からないものなのだ」と付け加えた。
ーーー
全てに無抵抗な神が座している。
平和を願う神。数々の行動によって平和は遠ざかるのならばその全ての動きが止まれば平和が実現できる。そう信じている教団が世界を征し、その行動力によって戦火の絶えぬ世界へと変わり果てた世界。しかし、その甲斐あって世界は確かな平和を実現していた。宇宙規模で見ても平和を実現できた惑星は数少ない。
全てを受け入れてただ、何もしない。
しかし、それを強制する事もない。
一時期は強制し、今では強制する必要すらなくなった。
不動を美徳とし、無口こそ真に価値ある行為だと定めている。
行動の選択を一貫するその意志の高さは実に気高くある。
人々は動かぬ事が如何に素晴らしいかを語らいたいという不徳な思いを胸に黙々と座している。
なんと素晴らしいことか。
しかし、餓死者は思いの外少ない。
不貞な輩を巨大な農村に閉じ込め、日々、農業に明け暮れさせる。
動かなかった反動で一心不乱に農業に貢献してゆく。
むろん、秩序など存在しない。
子が生まれれば農村の管理者に預け、子は神の教えを心に刻み成長する。そうして、数は徐々に増えるのだ。
お疲れ様でした。




