無名
いらっしゃい。
幸不運の神と運命の神が相対する。
幸運にも生き延びる運命に有る人が不運にも死ぬ。
主人公補正と呼ばれる英雄の加護に従って運良く生き残れる法則を、突然の不運によって死を上書きする打ち切りの法則で死に至らしめる。信仰心を必要とする運命の神はその結果を打ち消す準備に取り掛かるも幸不運の神に妨害される。
不幸な転生者の幸運な生還と不幸な転生者の不運な死の必然性の衝突である。
乱数の神々はその仲裁に入る。
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存在が徐々に安定してゆくのを神は感じ取り、思想誘導に勤しむ。
神は云われる。
「幸運とは。悦楽を感じられる人間のその人生において一瞬でも人類史上の不運を更新する事なく、生るか死ぬかを自らの手で選べる事である。そして何より、不運を嘆く暇を幸運と呼ぶ」
故に、世の中は幸運に満ちている。
神は云われる。
「理想とは。己の欲や願望の妄想である」
故に、理想に染まった思考回路を構築してしまった存在は言葉は通じるが話が通じなくなる。
神は云われる。
「理不尽とは。不運を世間が悪いと決め付け、都合の良い妄想を常識と思い込むこと」
故に、理想的な境遇に遭遇すると、理不尽に憤慨する理想に染まった思考回路に嵌まりやすい。邪教徒の常套手段である。
神は云われる。
「現実とは。主体となる己とは無関係に積み重なった多種多様な都合を複雑怪奇に単純化した事象」
故に、理想とは程遠い諸事情が起こる理由など改めて考える必要すらない。現実に起きたのだからそれが全てであり、そこには理不尽なことなどないのだ。
神は云われる。
「価値観とは。常識や思想の副産物。常にこう有れば困惑などしないのにという考え方」
故に、価値観は常識や思想の数だけ存在する。そして、常識の差異から生じる価値観の相違は大義名分となり、争いの火種であると同時に道徳的役割も担っている。
神は云われる。
「秩序とは。何を誰にどんな手段で、どれだけ行おうとも問題にならない無秩序な状態を制限することである」
故に、秩序とは犯罪に対する楔である。
神は云われる。
「自由とは。理想の果てである」
故に、現実に自由を求めても、現実は都合よく変化せず、その普遍性を理不尽に感じるのである。
神は云われる。
「神の教えとは。神の教えはその全てを凌駕している。一切の反論も反対も意味を持つ事はない」
故に、常識や価値観による大義など生まれるはずもなく、身勝手な正義など起こり得ない。神のみ信じよ。
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「人に自由や発言権などもとより無い」
「人は神にその身を捧げる為に存在している」
「無秩序な世の中で秩序を維持する理由など至極単純である」
「無秩序な世界で自由を謳うなど神への冒涜である」
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世界樹の根元。
転生者は深い眠りから目覚めようとしていた。
悪魔や神々すら認識している存在はない。
ただ、宇宙がそれを知っている。
お疲れ様でした。
(主義主張は価値観の押し付けになる。世界的にみても犯罪の少なく治安も維持できている平和な日本には、主義主張をする人が海外に比べて少ないらしい。あら、世界的に見て、自分の主義主張を言わない人たちが長命で、治安もそこまで悪くなくて、識字率も高いという事実。全くの無関係では無いと思ってるよ。
医療技術万歳なのには変わりないかな。
グローバル化が進み、海外の価値観が流れ込んでくると徐々に崩壊してゆく日本の価値観。
昔は国境の先は異世界だと揶揄されていたが、現代ではただ、価値観の違う人が住んでいるだけだったと落胆する人もいる。
異文化はまさに異世界。ある程度恵まれた日本に生まれたのにも関わらず、人間関係で悩んでる人間が本物の異世界に飛ばされればどうなるか?
考える必要すらないよね。もし仮に運良く言葉は通じた。けど話が通じない。詰んでるよね。
常識や道徳が異なってる可能性が高いのに転生者側の常識や道徳や邪悪や理念など、聞く価値もないよね。だって話が通じない人間の理想に染まった思考回路から生まれた思想なんて現地民からしたら排除すべき危険思想者、良くて変わり者扱いだよ。
変わり者はどうなるか、いじめの対象になる。
もちろん、料理無双や発明無双で悠々自適に暮らせるかもしれないが、料理無双するなら死を覚悟しなきゃね。
「林檎に似ているから料理に使いました。毒はないので安心してください」と神への供物を食べ出したら冒涜として殺されるかもしれないし、何が神の教えで禁止されてるか分からんからね。
え?発明無双は安全だって?
さぁ、ブラック企業よりブラックな環境下で拷問を受けて情報を抜かれながら発明し続ける人生を送るかも?おめでたいことに王族が発明の神と友好関係を結べたと世間に公表したりして、宗教戦争とか何かで発明が軍事利用されて平和とは程遠い現実に生きるかもね。
以上、あれ?異世界物ってかなり難易度高いんじゃね?なんの特徴のない凡人高校生が主人公のご都合主義ってすごい平和かつ穏やかな異世界なんだなと思い至った作者の一人言です。本編より長い?ごめん。)




