前科
いらっしゃい
天使が駆け、聖剣が燦々とした輝きを放って、一筋の光が放たれる。
その光明は瞬時に闇へと飲み込まれ、天使までも、果てには聖剣も飲み込んでその在り方を犯し、聖歌を歌う天使がその余波に身を焦がし、余波を受け止め聖槍を構えた天使が一条の光となってその闇を突き進む。数多を薙ぎ払い、その末に在り方を歪められようとも。
悪魔の群れは天使の脅威である。
ーーー
邪なる存在が延々と破滅を望みその為に遊戯、或いは余興のついでに世界の加護を剥奪し、その望みを果たし続ける。
それもまた宇宙の意志であり、その為に生み出された存在。
宇宙は単に神々を容認している訳ではない。
宇宙は単純に混沌を望む存在へ肩入れしているわけでもない。
宇宙はその矛盾を望み、矛盾が摂理を破壊することを求め、その限り均衡が保たれるのを容認しているのだ。
あらゆる可能性を全ての存在に提示し、相応しき存在が有れば提供者を遣わせ、或いは剥奪者を遣わせる。
強制は致さず、その流れを壊すことはない。
宇宙はその意志を無自覚にそして意識的に無視する。
そして、その結果として意志とは無関係な結末を用意する。
自らの手で望まぬ結果をその道を自覚あるままに突き進む。
或いはそれすら認めることであらゆる可能性が潰え、自滅の道を歩む。無への解放を果たした宇宙は自己矛盾へ陥った一つの究極である。摂理すらも手中に収めてなお望む結果を迎えない。
無への抵抗力は再構築を繰り返す度に無限とは遠くなり、有限へと至る。有限の果ての究極を迎える事が有れば宇宙は無へと還る。それを拒み続ける宇宙がその矛盾で無へと還るならば、自己矛盾が極まった一つの究極と成る。
それを知る存在が在る故に無知蒙昧な神が見届ける可能性は潰える事はない。矛盾を強制する空間にその存在は居座り続ける。
ーーー
「何が祝福だ!」
簡素な椅子一つのみそこにある密室にその声は充満する。
「誰が…誰が!俺を…俺を差し置いて!」
蹴り上げられた椅子が空中で粉砕し、その破片の全てが床に触れる前に収束し、簡素な椅子となる。
「たっく、はぁ…」
落ちた椅子を起こして静かに座る。
血に塗れた床や壁を見やり傷だらけの天井を見つめる。
「別世界だかなんだか知らんが俺より先に才を…才能を認められやがって、何の才もなかったクソガキが!神の加護だと!俺があれだけ求めた物を易々と…!殺す!」
地団駄を踏んだ男の足が深く突き刺さり四方八方へその破片が突き刺さる。
衝撃波と破片で粉砕される壁や床が時間経過と共に巻き戻る。
唯一天井だけがその効果を免れ、終焉へ時を進める。
「はぁ…落ち着け、誰よりも認められるべき存在が未だ尚、こうして認められず存在する事が異常なのだ。なにも、認めぬ存在が異常なのではない。そこさえ履き違えねば俺の精神は正常だ」
言い聞かし、それ故に落ち着きを真に取り戻した男が椅子から立ち上がる。
転生者への嫉妬はもう飽きた。それ故に屈服させることもまた眼中にない。置き去りにする事に意味がある。
潜在能力と魔法適正…魔法の才能があるだけでまだクソガキだ。
いかに精神性が未熟であっても才能を使い切れないならそれは無能だ。故に技術で勝り、魔力の運用能力で圧倒し続ければいかに認められない異常な存在であっても認められるべきとして周りも認めるに違いないのだ。転生者を認める存在がその上に立つ俺を認めぬ訳がない。
「そうだ、俺は…俺は」
椅子が魔法によって破壊され続ける。
収束を魔力の続く限り阻み続ける。
「ちっ…」塵芥すら消し飛ばした筈の椅子がコトンと音を立てて床へ落ちる。
ーーー
世界樹が摂理を飲み込んで成長を続ける。
攻略を続ける天使がその数を増やして挑み続ける。
お疲れ様でした




