教え
いらっしゃい。
神々が転生者を転生させるまでの間に滅ばぬ様に計らう加護がある。人類の敵対種族と拮抗する為の殺戮兵器。
人類は神を崇め利用する。窮地に追いやられれば神に縋って助けを求め、加護を得て独占し、愚かを極めて弱者を統治する。
統治者は転生者を冷遇する。弱者が転生者へ縋る先を変えるためである。
弱者は愚かなる統治者の支配から逃れ、神に感謝し、転生者に縋る。人類は蓄積され続ける知識と技術によって初めて進化を遂げる。それ故に不要な知識もまた蓄積される。
「神々のご意向にそぐわぬことは許されません」
宗教が人類の共通する知識でありその為の言語であり根底であり、生き方であり、常識である。
「…お許しください」
道徳は宗教によって育まれる。
情操教育であるが、それと同時に絶対の強制力を見せ付ける為でもある。法である事を理解するまでにはそう時間は必要ない。
「我々は神々の加護を受けて初めて生きられる」
加護を失えばどうなるか、それを見る。腐敗した犯罪者の末路。
そこに性別や年齢関係はない。ただ死体が積み重なり、腐敗臭が鼻をつく。「これが加護を失った者の末路です」
そして、それゆえに流行り病が絶えない。
「邪気を孕んでいるので、あまり吸い込まない方がいいですよ」あまりの悪臭に吐き出した子供らに忠告し、重い扉が閉ざされる。裏で転生者は脅される。従わねば同じ道を辿るぞと。
神々への感謝を怠れば苦になる仕事を日々こなす。
「怠けることのなき様、お互い感謝を忘れずに」
転生者にとってそれは洗脳教育に映る。
されど、その認識は間違いである。
自己犠牲を失ったらどうなるか。
法を守らねばどうなるか。
それぞれが己の欲望に従って他者を顧みず利用する。
そして、歯止めが効かずに無法地帯と成り果ててやがて国は形を保てず崩壊し、飢えた難民が他国へ寄ってたかって攻め寄って、情に訴え、盗みを働き、嘘偽りで己を装い詐欺をする。
金があるうちに逃げた難民が自由を謳う国へ逃げたならば、多様性を盾に好き勝手を謳歌する。金を払えばそれでいいと言わんばかりに様々を粗末に扱って壊し、替えが効くからとそのば限りの贅沢であたりを汚す。それもまた本人の自由だと主張する。
迷惑を被った他者との争いに発展し、やがて自由に楔が打ち込まれる。
「ならばいっそ、神々の掟に従って争いなく平和に暮らす方が利口ではありませんか」
それは人権という不要な知識が用いられない世界であった。
ーーー
「凄いですね」
驚きを装って欠伸を噛み殺す。
神々の管理する世界がまた一つ消滅する。
その原因たる彼が睡眠を欲している。
「しかし、わかりませんね、何故加護を剥奪するのですか」
「それが、面白いと感じたからだよ」
「面白い?」
その概念を知識としてしか知らぬ神々が疑問に思う。
「えぇ、楽しさとも言えますね、明日を知る存在が明日を失う事への不満や喪失感、或いは憤怒するその横で密かに歓喜する存在が必死になって未練を晴らそうと動く様は面白い」
「ほぼ全ての存在が同じ行動をとるであろう?」
「そのほぼ全ての存在とは違う行動をとる存在が面白いのだ」
「娯楽の為に世界を滅ぼさないでいただきたい」
「控えましょうとも」
ーーー
下界へ赴いた土地神が静かに目を閉じる。
永き加護を。
お疲れ様でした。




