巨乳派か貧乳派か、親友と喧嘩してから親友の妹(貧乳)が俺に優しい
頭の悪いラブコメです。
男には譲れないものがある。
俺にだってある。皆きっとそうだろう。
キノコとタケノコのお菓子。
ワクドナルドの略称。
卵焼きは甘い派かしょっぱい派か。
くだらないと笑うがいい。
でもそのくだらないことすら譲れてしまうような男はロクなやつじゃない。
断言してもいい。
こと今日の話題においては絶対に譲るわけには行かなかった。
「はぁ……はぁ……お前がここまで頑固だとは思わなかったぞ、ユウマ」
俺の親友、西城レンが額の汗を拭いながら口にする。
「当たり前だ……こればっかりは絶対に譲ることができないからな」
「俺たちの友情にヒビが入っても?」
「当たり前だ、その程度で壊れる友情なら壊れてしまえばいいさ」
「へへ、間違いねぇ」
俺たちはかれこれ三十分近くとある話題について激論を交わし合っていた。
しかし完全に議論は平行線。
将棋で言うなら千日手。
なぜならば、どちらかを至高とするならばもう片方は究極……選び難い中で各々が導きだした答えだから。
普段は穏やかなレンだが、今日は一歩も引く気を見せてこない。
「なあレン、もう一度議論を始めようじゃないか」
「望むところだ、決着をつけようぜ、ユウマ!」
「ああ……行くぞ!」
お互いに譲ることのできない熱いバトル。
その議題は──
「俺は絶対に巨乳の方がいいと、断言する!」
「いいや、貧乳こそ至高だ!」
巨乳派か貧乳派か──。
……第三次世界大戦の引き金にもなりかねない話題。
いつものようにレンの家で下世話な話に興じていた俺たちはふとしたことから巨乳と貧乳、どちらが好きか、という話になった。
そしていっせーの、でお互いの手札(性癖)を暴露することになったのだが……
「巨乳!」
とレンが言い、
「貧乳!」
と俺が答えた。
瞬間。
空気が凍る。
戦いが始まる前特有の張り詰めた空気が部屋を満たす。
そして数瞬の後に法螺貝の音が鳴り響いた──気がした。
「なぁ、レン。俺たち戦うしかないのか?」
「だけどよ、ユウマ。この意見……譲れるか?」
無理だ。
もう賽は投げられてしまった。
レンが悲痛な表情を浮かべている。
きっと俺も同じような表情をしていたことだろう。
この瞬間、俺たちの関係は親友から戦敵へと変わったのだった。
「何故分かってくれない、ユウマ! 大は小を兼ねるんだぞ!?」
「バカ野郎、お前がそんなに浅はかなやつだとは思わなかったぞ! 貧乳はステータスなんだぞ? これから成長するかもしれない……そんなわずかな望みを抱く貧乳女子……萌えるだろ!?」
「うぐぅ……確かに。だが、巨乳とて場合によってはコンプレックスになりえる! それは決して貧乳特有のものではない! デカければデカいほど良い、というわけではないが巨乳女子の胸に顔をうずめたくはないか? これは決して貧乳女子にはできないことだろう!?」
「ぐはぁ……! だが現実的に考えろ……俺たちにそんな巨乳女子は振り向いてくれると思うか?」
「お前さぁ……」
シュンと、急激に萎れていくレン。
「それは……無しじゃん」
「悪い……今のはご法度だった……」
つい勢いに押されて禁じ手を使ってしまった。
この手の話題において実現するかどうかを考えるほど不毛なものはない。
妄想の中でさえ成立していればいいのだ。
俺としたことが……。
がくり。
勝敗があるなら俺の反則負け。
くそ、やはり巨乳は強し。
などとバカみたいな話を大音量でしていたせいだろうか。
バン!
部屋のドアを蹴破らんばかりの勢いで開け放たれた。
そして部屋に入ってきた女子は開口一番に不機嫌そうな声で唸った。
「ねえ、うるさいんだけど」
声の主はレンの妹であるカレン。
俺たちとは一つ年下。
全体的にチマっとした印象の、マスコット的な可愛さを持つ女の子。
俺とレンは小さい頃からの仲だから必然的にカレンとも長い付き合いに当たる。
「またくだらない話でもしてたの?」
「いや……くだらなくはないぞ!」
「なによ、お兄ちゃん。じゃあ、どんなに高尚な話をしてたのか、私に教えなさいよ!」
「いや、そのぅ……それは」
昔は三人でよく遊んでいたのだが、思春期に入ってからはカレンは俺たちから一定の距離を取るようになった。
ここ最近、カレンと話す機会と言えばそれこそ、こうしてレンの部屋に怒鳴り込んでくる時くらいなものだ。
「何よ、ハッキリと答えなさいよ」
「ここはやっぱりユウマの口から……」
「お前、友達を売る気かよ!?」
「どっちでもいいわ、さっさと答えなさいっての」
有無を言わせぬ圧力。
元から目力は強い方だったが、最近更に凄みを増してきた。
黙っていれば顔立ちは整っていてカワイイとは思うのだが、この圧力。カタギのそれではない。
「……大きさについて議論を深めておりました」
「何のよ」
「……」
「答えなさいよ」
「……胸の、サイズです」
「っサイッテー」
これなんの拷問?
冷や汗が体中から吹き出て止まらない。
気付けば俺もレンも自然と正座をしてしまっている。
「それで……ユウマ」
「ひゃい!」
「あんたは……どっちなのよ」
「言わなきゃダメ……?」
「言いなさい」
「……貧乳派です」
「へー、そう。貧乳派なのね」
ふと、カレンが自分の胸の辺りに目をやったような気がした。
言ってしまえば悪いがカレンは虚乳だ。
断崖絶壁だ、まな板だ。
スレンダーな体型と言えば聞こえはいいが、高校生になっても一向に大きくなる気配がない。
それでも可愛らしいカレンは高校では活発な美少女として人気が高いのだが、多分本人は気にしている──というかそうであってほしい。
「それでお兄ちゃんは?」
「巨乳派です」
「くたばれ、エロ星人」
「あれ、俺だけ扱い酷くない?」
「口を開かないで、ミシンで縫い付けるわよ」
「はい……」
兄よ……それでいいのか。
兄の威厳なんて微塵も感じられない、情けない姿を見せる親友の姿がそこにはあった。
「ねえ、私不愉快な気持ちにさせられたの」
「ごめんなさい……」
「だからその……付き合いなさいよ」
「え?」
「……荷物持ちとして買い物に付き合いなさいって言ってるの」
「ついでに何か飲み物でも奢って」と付け足したカレン。
その少し不自然な様子を見た俺たちは目だけで会話を交わす。
──おい、ユウマ。どういうことだこれは。
──俺にも分からん。
──カレンが自分から俺たちを誘うなんていつぶりだ。
──分からんがとにかくお怒りのようだ。
「そこ、何二人でこそこそしてるの」
「いえ別に?」
「何も?」
ギロリと。
射竦められてしまえば、密談もそこでおしまい。
改めて正座のままカレンのお言葉に耳を傾ける。
「というわけで今週の日曜日、駅前のショッピングモールね」
「はい……」
どうやら拒否権はないらしい。
まあその日はバイトもないから構わないのだが……。
それに久しぶりにこの三人で買い物というのも悪くない。
「うぅ……妹よ、久しぶりにお兄ちゃんとお出かけしてくれるんだな……」
「いや、お兄ちゃんはいらないから」
「え?」
「お兄ちゃんは財布だけちょうだい。ユウマと二人で行くから」
「兄に対する扱いが鬼なんですけど!?」
え?
カレン、それ本気で言っているのか?
俺と二人っきりってことだぞ?
その事実に気づいているのか疑問に思った俺はカレンに尋ねてみた。
「だって荷物持ちが二人いても暑苦しいだけじゃない。これはそう……消去法よ、消去法」
「……なるほど」
「いやユウマ、そこ納得しないで!?」
確かに筋は通っている。
だがほんの少し違和感を覚えたのは気のせいだろうか。
日曜日。駅前にて。
「早かったじゃない」
「まあ、女の子を待たせるわけにはいかないからな」
待ち合わせ場所で待っていると、バッチリオシャレをしたカレンがやってきた。
にしても……たかが兄の友人と買い物に行くのにオフショルダーの服は気合いを入れ過ぎじゃないだろうか?
なんてツッコミを入れるのは野暮だと分かっているので敢えて口にしたりはしない。
沈黙は金。
だから俺は話を逸らすことにした。
「それで買い物って言ってたけど何を買おうとしてるんだ?」
「……水着」
「え?」
「ほら、もうすぐ夏でしょ? 私くらいカワイイと夏休みの予定がパンパンなわけよ。当然海とかも行く予定があるんだけど……やっぱり水着は初お披露目のものが欲しくなるわけ。だから夏休みは暇そうなユウマに付き添いをお願いしたって感じで……」
「ああ、そういうものなのか?」
女心はよく分からないが、カレンに言われた通り夏休みの予定はバイトだけでレン以外と遊ぶ予定もない。
だから俺が水着選びに付き添っても問題ない、ということなのだろう。
妙にテンションの高いカレンに連れられてショッピングモールの水着売り場へ。
周りに男の人は少なく、いたとしてもカップルばかり……。
出来れば早く選んで欲しいんだけど……。
そんな俺の気持ちなど微塵も察することなくカレンは真剣な表情で水着を選んでいる。
……見せたい相手でもいるのだろうか。
小さい頃から見てきて妹のように思っているカレンだが、その身内贔屓を抜きにしてもカレンはかなりカワイイと思う。美少女、といって差し支えない。
そんなカレンに想いを寄せる男子も……逆にカレンが想いを寄せている男子だっているかもしれない。
なんとなく小鳥の巣立ちを見守る親鳥の気分になった。
そのまま黙々と選び続けること数分。
カレンはタイプの違う二つの水着を手に取って俺に見せてきた。
「ねえ、ユウマ。この二つだとどっちがいいと思う?」
出たよ。この質問。
こういう時って大体自分の中で答えが決まってるけどイマイチ自信がないからとりあえず聞いてみる──こんな感じなんだよな。
答えが決まってるからハズレの方を選んだら機嫌が悪くなってしまう、理不尽な二択。
どっちも似合ってるよ……と言うのは最悪の選択だ。
それは答えを放棄することと同義だから。
即ち俺は選ぶしかないわけだ。
目の前の二択から、正しい答えを。
カレンが持っているのはフリルがあしらわれた可愛らしいセパレートタイプの水着。
もう一つが……割とセクシーな感じの黒ビキニ……。本当にこんなの着る気なの?
「えーと、俺はこっちの水着の方がいいと思うな……」
俺は迷わず前者──可愛らしいセパレートタイプの水着の方を指さした。
さて、カレンの顔は……ぴくりとも動かない。
これは間違えたか?
背中をツーっと汗が流れる。
もうすぐ夏だと言うのに寒気もする。
圧迫面接みたいだ。
「なんで黒ビキニの方じゃないの?」
あ、これ選択肢ミスった。
「男の人ってこういうセクシーな水着が好きなんでしょ?」
「いや……それはだな」
「まさか……私には似合わないって思ってない?」
カレンがジッと自分の胸を見つめながら言った。
見つめた先にはおそらく地面しかないが、それを言ったら多分殺される。
「いや、そうじゃないよ」
「じゃあ、何でこっちにしたの?」
「だってカレンってどっちかって言えばカワイイ系だろ? セクシー路線も意外性があっていいとは思うけど、やっぱりもう一つの方がカレンの魅力が十分に引き出されるかなって思ったからさ」
「……ちゃんと見てくれてたんだ」
カレンが何やらボソリと呟く。
ほとんど声にはなっていなくて聞き取れなかった。
「え? なんて?」
「案外見る目あるじゃん、って言ったの!」
「そりゃどーも」
ほっと息をつく。
どうやら選択肢を間違えたわけではなかったらしい。
結局カレンは俺がいいと言った方の水着をそのまま購入した(レンのお金で)
そして「ちょっと疲れたから休憩したい」と言うから、近くの喫茶店に二人で入ることにした。
したのだが……喫茶店に入ってからどうもカレンの様子がおかしい。
「ね、ねえ……」
「ん?」
「私たちってカップルに見えてるのかな?」
「あー店の人が言ってたやつ?」
この喫茶店では現在カップルフェアなるものが開催されているらしく、席に案内された時に「カップルのお客様であれば是非こちらを」とオススメされたのだ。
「へーお得じゃん、カップルセット。せっかくだし頼んどく?」
「私とそういう目で見られてもいいの?」
「あー、ごめん。カレンは嫌だったか。悪いな、俺カレンくらいとしか女子と接する機会がないから距離感分かんなくて」
「女子……」
俺の言葉にカレンは何やら頬をわずかに赤色に染める。
また何かまずいことでも言っただろうか。
「じゃあ、カップルセットはやめとくか……」
「いや、カップルセット頼む!」
「あ、そ、そう? カレンがいいなら俺はいいけど……」
不意に訪れる沈黙。
珍しくしおらしい様子で何やらもじもじとしているカレン。
何かを言いたそうな……そんな顔をしていた。
「ねえ、ユウマ」
「ん?」
「あんたって今付き合ってる人……いるの?」
「残念ながら。逆にカレンはいるのか? ぶっちゃけモテるだろ」
「……断ってる」
断ってる……ってことは告白はされているってことなのだろう。
まあそうだろうな……こんなにカワイイ子普通は放っておかないよな。
「そういうの興味ないの?」
「違うし……鈍い」
「え?」
「もう……今日ずっとアピールしてたのに全然気づいてくれないんだもん」
「えっと……カレンさん?」
「分かってよ、この朴念仁」
ちろりと。
むっと頬を膨らませながら俺のことを上目遣いで熱っぽく見つめてくるカレン。
さすがにそんな目で見つめられて気付かないほど鈍感が過ぎてはいなかった。
「え……マジ?」
「私……ずっとユウマのこと好きだったのに」
「マジかぁ……」
天を仰ぐ。
己の鈍感さに苛立ちすら覚えた。
パズルのピースが全部ハマったような感覚。
思春期になってから疎遠になったと思ってたのも。
レンを置いて二人で出かけようと言ったのも。
カップルって言葉に過剰に反応してたのも。
全部俺のことを好きだったから、と考えると納得がいった。
「私……ずっとね、自分に自信がなかったの」
「意外……」
「だって……男の人って皆胸が大きい方がいいんだって思ってたから」
「それは誤解だな」
ちっぱいにはちっぱいの良さがある。
「でもこの前、ユウマがその……貧乳派って知って……もしかしたらこんな私にでもチャンスがあるのかもって思って……」
「なるほど、な……」
あのバカみたいな話がカレンに希望を与えていたとは。
人生とは分からないものである。
でもあんなに強気なカレンが貧乳なことをコンプレックスにしていたとは……萌える。
やはり貧乳は正義であった。
「だから、その……私と付き合ってください」
熱っぽい視線で見つめられる。
小さい頃から見てきた姿なのにドキドキしてしまう。
それでもやっぱり……。
「ごめんな、カレン。俺もカレンのことは好きだよ。でもそれは妹みたいに思ってるって意味での好きってことで恋愛感情の好きとは違うんだ」
「……だよね、知ってた」
「でもこれからはさ、ちゃんと向き合うから。カレンを一人の女の子として見るから……今はそれじゃ、ダメかな?」
「うん……でも嫌いじゃないってことよね? アリかナシかで言えばアリってことよね?」
「まあ、そうだけど……」
「じゃあ、全然OK! 私絶対ユウマの彼女になってみせるから」
満面に笑みを咲かせるカレン。
その表情は今まで見てきたどの表情よりもグッときた。
ちょうどその時、カップルセットが運ばれてきた。
目を惹かれたのは30cmはあろうかという長いスプーン、用途は明らか。
早速そのスプーンでパフェをすくったカレンが俺の口元にスプーンを押し付けてきた。
「はい、あーん♪」
言われるがままに口を開く。
それと同時に思うのだ。
俺が本当の意味でカレンに落とされるのはそう遠い未来の話ではないだろうな、と。
あなたはどっち派ですか?
ありがとうございました。
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