エピローグ 後編
「私には、息子がいるの」
恐る恐るといった風情で、お母さんが言葉を紡ぐ。きっと本当に怖いのだろう。今まで黙ってきたことをカミングアウトするのは怖い。
男やもめのお父さんと結婚した継母もまた、自分の子供を持つ身だったのだ。だが死別した夫方の家に奪われるように引き取られたため、生きる気力を失っていたところを、私の父に救われたのだという。
「多感な年頃だったあなたに言うのが憚られたし、このまま縁が切れて会えないなら、わざわざ言わなくても良いかと思っていたの。けど……」
と、お母さんがうつむく。
縁が、切れてなかったんだなと悟った。
元夫の両親が、共に亡くなったのだ。
なかなかの資産家だったらしき元夫の家に、自分の息子がポツンと一人。とはいえ自分は息子を捨てた身、会いたくとも会わせてもらえなかった日々は長い。遺産相続権利を認めないためというのが、一番だったそうだ。
息子とて、もう会いたくないかも知れない……と諦めていたが、彼のほうから打診があったのだという。
会いたいと。
「結婚した以上、私の子供はあなた一人と思って接してきたし、あなたを愛している気持ちにも、変わりはないつもりよ。でも……」
と、歯切れの悪い母の気持ちは、察して余りある。
私は笑みを作って見せた。
「分かってるよ。10年も寝たきりだった私の面倒をみてくれてた人が、私を嫌いな訳ないもん。会っておいでよ。きっと待ってるよ」
私は、すっかり泣き虫になっちゃったねとお母さんをからかいながら、背中をポンポンと叩いた。
予感は、いつからあったのだろう?
待ち合わせ場所に訪れた彼の姿を、見た瞬間。
心が、震えたのだ。
はじめはお母さんだけが何度か息子さんと会っていた。打ち解けたところで、今の家族を紹介するわねとなった日のことだった。息子さんも、今の母を支えて下さったご家族なら、と、意欲を示してくれたのだという。
顔を合わせることに、何の障害もなかった。
今後一緒に住むとかいう条件も特になく、ただ単に挨拶するだけだった。
が。
思わず呟きそうになった。
やっと会えたね、と。
相手も同じ気持ちで、私を見たように思えた。
ここが喫茶店じゃなかったら、駆け寄って抱きしめていたかも知れない、それぐらいの衝動を感じた。会ったこともない、もちろん、見たこともない人のはずなのに。もし、どこかで顔を見ていたなら、絶対に忘れないだろう、それぐらいの衝撃だった。
彼に見つめられると、泣きたくなる。
けれど目が放せない。
魂が、喚起している。
「あなたは……」
呟いた私と彼のセリフがかぶった。お父さんもお母さんも、キョトンとしている。そこで、やっと笑みが出た。彼は、父に挨拶してくれると、親しみのある微笑みで、私にも手を差し出してくれた。
その手を取ると一層、懐かしさと愛しさが込み上げた。
暖かい、包み込んでくれる優しさが感じられた。
「はじめまして」
私の手を握りしめて、彼が言う。
私も、はじめましてと微笑んだ。
私は名前を、彼に告げた。
〜fin〜
長々とした物語にお付き合い下さいまして、本当にありがとうございました。
至らぬ点が多々あり読みづらかったかも知れませんが、少しでも読んで良かったと感じて頂けたなら幸いです。




