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7-9

「あなたを憎んでおりました」

 タバナが能面を保って、言う。

「あなたは、カラナを滅ぼした」

「……!」

 叫びそうになったが、声が出なかった。

 自分でも、そうかなと思ってたから。私が入ったことで、カラナの魂が消えたのではないかと思ってたから。

 だってもう、今じゃオサも、オサと一緒に入ってきた人の気配も感じない。オサの本当の名前も思い出せないまま、消えてしまった。

 でも、うっすらと覚えてはいる。

 オサの記憶。

 カラナの想い。

 名前も知らない彼が抱いていた、使命感。


 タバナが続ける。

「あなたが初めて、ここに来た日。ムラに引き戻し、洞窟に幽閉された時。私は、オサに(あらが)わなかった。あなたが力尽きるなら、それも仕方なしと見捨てた」

 ああ。

 ストンと何かが腑に落ちた。

「それで……」

 呟きかけたけど、思考が言葉にならなかった。

 私を連れ戻したのに、洞窟には来なかったタバナ。オサから他の命を受けたからだと言っていたが、それだけじゃない理由があったのだ。

 でもオサのほうには、タバナもそう考えていたという記憶はなかった。自分が先に、タバナをミコに近づけぬよう命じたから。

 だからか。

 死にかけて空に浮かんだ私の幽体を、タバナが追ってきた時に、念を押すように、あなたがミコ様ですと言った。元の私が、カラナじゃない私の姿が見えていたから。

 衰弱した私に水を飲ませてくれた唇は、カラナのためのものだった。

 雨を降らせる祈祷をして、無事に降らせることが出来た私に、よく出来ましたと言ったタバナ。ミコとしての役割を果たしたのを、ねぎらった……だけじゃなかった。

 カラナに成り代わった娘がどこまで頑張れるのか、お手並み拝見ってところだったんだろうな。


 ところが中の私があっけなくカミングアウトして、助けを求めてきたもんだから、タバナとしても戸惑った……というのが、悪意を感じなかった理由か。

「あなたも巻き込まれた被害者だったと、頭では分かっても、なかなか納得は出来なかった。が、それでも、ミコとして()って頂かなくては、ならず……」

 消え入るタバナの声に、苦悩が混じる。ずっと葛藤してて、それを見せないようにしてたんだな。

 だから、何考えてるのか、ずっと分からなかったんだな。

「……懸命に、ミコとして以上に、ヤマタイに尽力するあなたに……」

 顔を上げたタバナとは、しっかり目が合った。

 続く言葉はなかったけれど、もう目をそらされることはなかった。

 私も見つめた。

 真っ黒な瞳の奥に映る私の姿は、カラナのものだ。でも私が元々どんな姿だったのか、近頃は思い出せなくなっている。思い出そうとすることも少ない。

 タバナがにじり寄ってきて、私も、手を伸ばして彼を迎えた。互いの腕を掻き抱く。折れそうに細い私をいたわってくれながらも、段々と強くなる力が心地よい。手を背に伸ばして、抱きしめた。引き寄せ、布団に倒れ込む。

 彼の重みが、私に生きているよと感じさせる。

 彼の小さな震えが、彼も生きてる一人の人間なのだと自覚させてくれる。完璧なんかじゃない、ずっと悩んでて、もどかしく私に接してくれていた、優しい人だ。

 泣きそうだ。


「カラナだったから心が動いたのか、カラナでない言動をするあなたがいたからこそなのか」

「……両方じゃないかな」

 カラナでない、私としての素直な気持ちで言った。

「忘れなくて良いし、カラナとして愛してくれて良い。だって、この身体はカラナだし、カラナがあなたを愛する気持ちがあったから、私も、タバナを好きなんだと思う」

 またタバナが苦笑した。が、柔らかく暖かい笑みだ。

 抱きしめられて、身体の緊張が解けるのを感じた。代わりに、さっきお風呂で味わった、ゾワッと身体の芯がしびれる感じが襲ってくる。

 と同時に、タバナの息遣いも変わった。

 少しずつ荒くなる。釣られて、私の息も上がってきた。

 タバナの唇を探して、顔を寄せる。

 むさぼり食うみたいな、噛みつくみたいな口づけに、安心感を覚えるなんて。

「私も、あなたを」

 続く言葉は、行動に表された。

 充分だ。

 もう、呼ばなくて良い。呼ばれる名前もない。

 着物を剥ぎ取る間も互いの顔を放さず、素肌が現れたところから互いにくっついて、その熱を確かめる。燃えて消えそうなほど熱い。まさぐり、全身を愛してくれるタバナに、自然と身体が開いた。

 怖くはなかった。


 魂が喜びに叫ぶ。


 意識が、そこで途切れた。

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