6-3
「ミコ様!」
声の方向、斜め下。身体を巻き付けてる縄が引っ張れるので見てみたら、縄を切ってる人が見えた。治佐だ。助かった。
私がホッとしたからか、雨の勢いが弱まった。
とはいえ弱まらないのは、オサと闘佐の戦いだ。
チサが私を自由にしてくれてる間、トサがずっとオサの猛進を抑えてくれていた。
「ええい、どかぬか、この!」
「退きませぬ」
オサの剣を受け流して、どっしりと立つトサの心強いことったら! 現代でも通用しそうな体格だもん、そりゃどう考えてもトサのが強いんでしょうよ。
……と思ったけど、決定的な違いがある。
トサからオサに斬りかかることは、ないのだ。
「オサ。剣をお収め下さい。ミコ様は気がふれてなど、おられないようです。まずは、お話を」
「ええい、退け!」
トサがしゃべってても、オサはお構いなしに斬りかかる。トサがすかさず避けて、自分の剣でオサの剣をはたき落とす。オサははたき落とされた剣の遠心力に、身体が持って行かれそうになってるけど……でも、体勢を立て直して、また上手く剣を構えた。
「あっ!」
「トサ!」
チサと私、同時に声が出てしまった。チサが急いで私を解放しようとしてくれる。ぐるぐる巻きなので、縄を切るのも時間がかかる。ハサミとかない時代でナイフの切れ味悪いし、結局は地道に解くのが手っ取り早いんだよね。
トサが、とうとう傷を負ってしまった。鋭い、包丁で指を切っちゃった時みたいな切り傷がトサの腕に走ったのだ。ナイフは切れ味悪いのに、鈍器みたいな剣なのに、剣の切れ味は良いなんて。
オサなんて、ヒョロっとしてて頭脳派悪党と思ってたのに……。トサから傷つけられないの分かってて斬りかかるなんて、ひどい。
周りの皆が、豪雨から逃げ惑う傍ら、こちらを見て驚いている。
やっと自由になった私は、身体が固まっちゃってて上手く立てず、倒れそうになった。
「ミコ様!」
すかさずチサが支えてくれたが、ミコに触れるというのが恐れ多いことなのか、「あっ……」とか言って戸惑った。いやいや、そこ躊躇しなくて良いから。
私はチサにしがみついて、体制を立て直した。チサも気を取り直して、しっかり私を掴んでくれた。
「ミコ様!」
「ミコ様!」
他の、なんか役職ついてそうな偉い感じの人たちが、わらわらと寄ってくる。そうか、水佐とか稲佐とか色々いるもんな。何人かはタバナについて遠征中だけど、こっちにも心強い味方がいたのは助かった。
オサ的には、自分の思い通りになる人間だけ手元に残したつもりだったんだろうけど……。
「皆、ミコ様を捕えるのだ! 勝手をしたチサも捕えよ!」
オサが叫ぶものの、もう誰も従わない。
怪我を追ったトサをかばって、皆が押し寄せ、逆にオサを押さえ込んだ。中には私の可愛い侍女たちまで混じってる。
「ちょっ……! フツ! トワダ! 何やってんの!」
「ミコ様、ご無事でしたか!」
「ミコ様をお守りできなかったとなれば、私、私たちは……!」
フツが言葉に詰まりながら、必死にオサの足にしがみついている。上半身はチサたちが羽交い締めにしたが、オサはなおも暴れて足を振り上げて、あわあわしてる侍女たちを蹴飛ばそうとする。
「危ない!」
手を伸ばした私の指先から、雷光が走った。
「うわっ」
「きゃあ?!」
雷光はオサの足にだけ当たり、絡みつき、焦がした。
「この……物の怪が!」
オサが吐き捨てる。何ていうか、もう自棄糞だ。
オサの計画として、ここで私が処刑されて終了だったのかな。そんな簡単な脳味噌はしてなさそうなんだけどな。
火傷を痛がるオサがやっと動きを止めて、皆に押さえつけられて地べたを舐めた。さっきまで私を締めていた縄が、今度はオサに使われた。ちょっと短くなったから、ぐるぐる巻きって訳には行かなくなったけど、手首足首を縛る程度なら問題ない。
なんて効率的リサイクル。
関係ないけど、こないだからずっと「物の怪」って脳内変換されてる用語って、みんなには何て聞こえてるんだろう。妖怪とか物の怪って概念が縄文時代からあったとは思えない。
まぁ良い意味ではないだろうけどなぁ。
「オサ」
落ち着いて静かになり、人もまばらになった広場の真ん中で。焦げた処刑台と雨の匂いが残る中、オサはやっと私の顔を見た。
暴れるのも力尽きたって感じかな。
今なら触っても大丈夫かな。
殺したいほど嫌いだとは思うものの、傷つけるのは別に本意じゃなかったし。こんなので恨みに思われても面倒くさいし。
と、内心で言い訳しながら火傷になったオサの足に触れ、肉の状態を感じ、力を込めて、ただれた肉を正常に戻した。
「何を……!」
「黙れ!」
叫びかけたオサを、チサが押さえる。
やっと雨がやんだ。




