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オサの喋り声が、段々と叫び声に換わる。
「ミコ様をお助けするのだ!」
って、なんか涙声になってるし。
でもって松明を持った人が、私の横に立ってるし!
この人を私は知ってる。
闘佐だ。
お願いトサ、という気持ちを込めて見つめてみたが、どうやらオサの演説に心酔してるようで、私に向けられてる目に、憐れと嫌悪が浮かんでる。早く燃やしてあげなきゃ、みたいな気持ちが透けて見えてる。
ーー私を救うがために火をつけるのだ、という演説。
いやホント上手かったわ。周囲の皆のみならず、聴いてる私まで、自分が火にくべられるってのに、燃やされたら生まれ変われる気になっちゃったもんね。
火の鳥のように、とか言われたらさ。そういう奇跡もアリなのかなとか思うじゃん。ツウリキだけで充分、普通じゃないんだから。
一度は私だって、死ねば元に戻れるのかなって思った時もありました。でも死んで元に戻れる保証はないって、分かっちゃったし。
こんな半端な状態で、タバナを放って私だけ舞台を下りる訳に行かない。この後に戻ってくるだろうタバナだって、どんな扱いを受けるやら、たまったもんじゃない。
「火を!」
「……っ」
松明が揺れる。炎が揺らぐ。
ほんの少し、トサが躊躇した。やめて、火をつけないで! 目で訴えたけど、逆にトサが意を決したみたいになってる!
松明が視界から消えて、足下が熱くなった。
「!!」
ゴウッという音が響いた。ベッドになってる焚き木の中で、音が反響してる。すごい燃えやすそうな音だ。実際よく燃えてるんだろう。
熱い。いや。痛い。足が、手が、顔が、痛い。皮膚が痛い。
ぐるぐる巻きつけられてる縄も、燃えてきてるみたいだ。焦げ臭い。なんなら肉の焼ける匂いとかしてない? 私の足とか言わない? いや人間そんな簡単には燃えないと思うんだけどさ、思いたいんだけどさ。
でも昔から火刑はあった訳だから、燃えない訳はないんだよね。
皆が退いている。
オサも一歩退いている。
多分すごく熱いよね、周りも。
皆の顔が歪んでいる。ミコ様ミコ様と叫んでる声が、燃えてる音に混じってる。喜びなのか、悲しみなのか。
火柱が上がっている。天高く。私の視界を炎が包み込む。その向こうに青空が広がっている。
雲ひとつない、青空。
あの時も、こんな空だったな。
私は天に還るんだろうか。
上昇気流。
熱気が、舞い上がる。
あの時よりも、熱はある。
焼け死ぬほどの熱が天に昇っている。
来い。
あの時よりも簡単でしょう。
上げた熱が冷える。
水滴になる。
ほら。
もう落ちる。
しかも一気に。
ピシャーン! と雷が落ちた。
「うわー!!」
「きゃーっ!」
次いで、豪雨だ。
途端に、皆の祈りが叫びに変わった。阿鼻叫喚。
恵みの雨なんて可愛いモンじゃない。皆が逃げ惑う。私の名を連呼する悲鳴が、豪雨にかき消されている。代わりに燃え盛ろうとしていた炎が、みるみる消えた。
私を包んでいた熱気が、一気に沈んだ。私はといえば、縄や衣類は焦げたようで嫌な臭いがしているが、どうやら身体は無事みたいだ。焚き木に動物の脂とか仕込まれてたのかな。なんか美味しそうな匂いになってるよ。
足や皮膚がじんじんしてるから無傷ではなかったようだし、なんなら雨がばちばち当たってスゴい痛いんだけど。しかも焦げたのに縄が解けないんだけど。どんな縛り方したんだよ。
もたもたしてたら、耳元で声がした。
「おのれ!」
「ひゃっ?!」
思わず目をつむっちゃった頭上で、ガキィンと金属音が響いた。といっても鈍い音で、岩がぶつかったような感じだ。
すぐに目を開けた。
私を襲ってきたオサの剣を、トサが剣で受け止めていたのだ。
「オサ様! 血迷いましたか!」
「どけ、トサ!」
「なぜ、ミコ様に刃を向けまする?!」
偉いな、トサ!
燃やすのには同意してたくせに、斬るのは駄目って瞬時に判断してくれてたとは! おかげで助かった。
ってか誰か、縄を解いてくれー。




