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5-8

 オサが洞窟から消えて、日も(かげ)ってきた頃。疲れすぎててか眠れない私が、身体痛くてゴロゴロしていたら……洞窟前に見張りの人がいるのかな、ちょっと話し声が聴こえた。足音が近づいてくる。

 それと同時に私の鼻に、悪臭以外の良い匂いが漂ってきた。

 途端に、お腹が鳴った。

「……」

 思わず笑いそうになってしまった。

 疲れすぎて寝れないっていうより、お腹空きすぎてて寝れなかったのかよ、私。

 幻聴ならぬ幻香(げんこう)とでも言うところかな。幻じゃありませんようにと思いながら、頭上に目を向けたら、人がしゃがみ込んで来るところだった。

 両手で、大事そうに椀を包み持っている。


「ミコ様……」


 さっきと同じ声だ。

 治佐。

 呼びかけたかったけど、あいにく猿ぐつわが邪魔だ。

 すると治佐が、私の側に椀を置いてから、猿ぐつわを解いてくれた。

「あの時は、お召し上がりになられませんでしたが……」

 と、おずおずと話してくれるのを聞いて、やっと、もうひとつ思い出した。最初に、洞窟に縛られてた時に、ご飯持ってきてくれてたのも、治佐だったのか。


 あなたが……と言いそうになってから、言葉を変えた。

「治佐。感謝します」

 と呟いたら、治佐が膝から崩れて座り込んで、泣き出すじゃないか!

 ちょ、ちょっ?!

「ミコ様……やはり、物の怪に憑かれてなどおられないのですね」

「……」

 いや。

 ある意味、私がカラナに憑いてるとも言えなくはないかも知れない。と思ったら、自信なくなってきた。

 私は、自分が物の怪じゃないですって言い切れない。中身は、皆が知ってるミコ様じゃない。それを指して物の怪だと言われるなら、私がそうなんだろう。


「自信はありません」


「ミコ様……?」


 治佐がキョトンとして、涙を引っ込める。不可思議な顔を向けてくる彼の目を見て、私はハッキリ言い切った。


「けれど、あなた方を傷つけたりは、決して、しません」


 この世界に来て、私が絶対に守らなきゃいけないものだ。他のクニの人たちまでもが守れれば、それに越したことはない。でも、そんな理想はひとまず横に置いておく。

 私は、ヤマタイを守るミコだ。


 ナコクが、もう攻めてこない保証はない。

 もし、まだオサがナコクと通じてヤマタイを乗っ取る気でいるなら、あんな脅しぐらいじゃナコクは退かないかも知れない。

 ミコを捕えたから、安心して攻めて来いとか言い出してもおかしくない。

 タバナがどんな交渉して来るか、そもそもナコクに到着できたかも分からないけど。でも今は、タバナが無事に帰ってくることを願うしかない。もしくは、もう一度飛べるように、私は体力を取り戻さないといけない。

 ムラの皆が、どうなってるかも心配だ。戦の準備とか、させられてないだろうか。


「治佐、フツやトワダたちは無事?」


「ミコ様……!」


 って、また泣き出しちゃった。

 治佐は結構、年寄りなのかな? 皆さんツーテールみたいな変な髪型と髭で統一されてるスタイルだから、年齢不詳なんだけど、タバナが17歳とかって聞いたから、そんなモンかと思ってたわ。

 カラナが19歳だもんね。

 オサは、もうちょっと年上だろうけど……そもそも、この世界での寿命って、いくつぐらいなんだろ。50歳ぐらいまでは生きられるのかな。

 おいおい泣いてくれる治佐を見てたら、(なご)んできた。ホッコリ。こんな状況だけど。

 治佐は『下々の心配をしてくれるミコ様』に感動したんだなとは分かるんだけど、そんなことに感動してくれる治佐に、こっちが感動するというか。私という存在を許してくれてる感じがして、救われる。


 治佐が腕で涙を拭いて、力強く頷いてくれた。

「無事です。というか抵抗せぬよう伝えましたので、すんなりとミコ様をお連れ致しまして……誠に申し訳なく……」

「いいえ」

 どんな風だったのかは想像するしかないけど、きっとオサたちは、社に上がってきたんだろう。フツたちが私を外に出したとは思えない。触るなんて、近づくことすらも怖がってくれてる子たちなのに。

「よく判断してくれました。皆が無事なら良かったです」

 って言ったら、また泣きそうだなと思ったけど、今度はグッと()らえてくれた。

 じゃあ、そろそろ頂こう。


「治佐。椀を」


「え……あっ」


 察した治佐が、私の側に椀を寄せてくれると、すぐに立ち上がり、離れた。私が犬食いするしかないのを、見ないように気づかってくれたのだ。

 それでも、どこか嬉しそうだったのは、私が「食べる」という選択をしたからだろう。前回の私はハンストして、水一滴すら口にしなかった。

 治佐の人柄からすると、食事を運んでも食べようとしなかったミコ様のことが、心配でしょうがなかったんじゃないかな。あの時も話しはしなかったけど、気の毒そうな、どこか尊敬してるような空気をまとっていた。


 死にたかった、あの時とは違う。


 私はうつ伏せになり顔を上げて、お椀に頭を突っ込んだ。


 鼻とか顎とかに、ぐちゃぐちゃにお粥がくっついたけど、構わない。そうしなきゃ口に入らないんだ、汚れたのは、助かってから洗えば良いことだ。排泄だって何だって、生きてりゃ出るんだ、後で洗えば良いことだ。

 ほどよく冷ましてくれてあるご飯が、喉を通って胃に入って、熱をくれる。私の身体を作る。活力をくれる。


 生きてやる。

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