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5-4

 どうしよう。動けない。思考がぐるぐるしてる。

 なんなの、私って女子高生じゃないの?

 現代人じゃないの?

 現代人って何?

 現代って何?

 どこのこと?

 そういえば最近、現代のこと思い出してない。私は、私がカラナだと思ってた? それは違うな、私はカラナじゃない。ヒミコじゃない。大丈夫だ、ちゃんと他人だ。

 待って待って、今そんなことよりも、こいつを何とかして、タバナを逃さないと駄目なんじゃないの。私が何者とか後で良いって。


『知りたくないの? 君がどうして、ここに来たのか、どうして日神子の中にいるのか』

 そりゃ知りたいよ。キヒリ、色々知ってるっぽいし。なんなら、現代に帰る方法だって教えて欲しいよ。

 でも……今すぐ帰れますって言われたとしても、今は帰れないに決まってるじゃん!

『帰れないって駄々こねられても、僕が強制的に帰せるんだけどね。君を殺して、僕は日神子の身体を貰う。君は現代とやらに帰れる。ウィンウィンじゃないか』

 ウィンウィンなんて言葉を知ってるってことは、それなりに近い時代なのか。もしくは、ひょっとして外国人だったりするのかな。作り、日本人っぽいけど。


 ってか、死んだら現代に戻れるなんて、はいそーですかって信じられるかっつーの。キヒリはどうなのよ。幽体っぽいけど、身体はどこよ。

『僕はね、日神子』

 キヒリの笑みが、ちょっと遠い目をした柔らかいものになった。あ、これ自虐的な笑い方だ。

 なんて見とれてたら、キヒリの手がスッと上がった。

 ヤバい、また不意打ちだ!


『!!』


 破裂音がした。

 キヒリはまだ微笑んでる。

『キヒリの残骸なんだ。彼が死んだのに、僕はまだ()()()()。浮いてる。だから君を貰って、僕が日神子になるしかないんだよ』

 歌うように語るキヒリを、私は肩で息をしながら眺めてた。間一髪、切り抜けた。致命傷になったかな。

 今を逃したら、もう二度と身体のこと聞けないかも知れない。けど、これ以上は何も出ない気もする。

 だって、自虐的、自己陶酔的なキヒリの言葉からは……絶望しかない。


 嘘じゃん。

 死んだら現代に戻れるなんて。

 あんた、戻ってないんじゃん。

 キヒリっていう身体が死んでなお、幽体で浮いてるって。ただの亡霊じゃん。なのに私は戻れるなんて、そんな保証はどこにもない。この身体を追い出されたら、私が幽霊になって彷徨(さまよ)うんじゃないか? いやもう絶対そうだろ。

 私も上げた手を下ろして、崩れ落ちそうなキヒリを放置して、飛んだ。お腹が熱い。幽体だから血は出てないみたいだけど、その代わりに、ビジュアルが歪んでた。幽体を、形を成している力が弱まったってことか。

 形を成すっていうのは、見た目とかだけじゃなく、中身のことも指すのかも知れないな。記憶を成す。人格を成す。私が、成る。私という人間を示す名前も、ひとつの形だ。


 相打ちだ。


 でも、ちょっとだけキヒリのほうが重症だ。飛び上がった私を見上げて、キヒリは萎びた顔でよろよろしている。下半身が消えかけてて、本当の幽霊みたいになっている。

 あのまま消滅してくれたら……嬉しいような、寂しいようなな?

 それとも中のあんたも消滅したら、本当に現代に戻れるかもね。って分かっているとしたら、喜んでトドメを刺してあげるんだけど。

 私だって、これが終わったら、タバナが無事でいられたなら、もう心置きなく思い切って終われるっつーに。


 同じクニで遭遇してたなら、同じ不遇を嘆いて、情報交換したりなんかして、友達になれてたのかな。いや……ないな。

 忘れちゃ駄目だ。あいつは、ヒタオを殺したんだ。容赦なく。躊躇なく。ヒタオは生身だった。ツウリキなんて持ってなかった。

 いや潜在的にはツウリキって、皆が持ってる力なんだろう。あの死にかけの状態になって、ヒタオは初めてツウリキを使って、私を見た。使いこなせてるのか、力が大きいかどうか、ってのが重要なんだろう。

 キヒリの衝撃波で傷ついたお腹を押さえて、私はヒタオの綺麗な笑みを思い出した。まだ帰れない。死ねない。


 私は遥か上空に立って、地表を見おろした。

 ナコクに向けて手をかざす。

 もう、建物の外側に出ているから、ナコクのおじさんたちは見えない。

 見えないけど、まだ騒いでるのは分かる。

 キヒリと話してた時間は、ほんのわずかだ。一瞬だったかも知れない。

 まだタバナは来てない。

 来させないように、来る必要がないように……ナコクを、潰す。

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