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どうしよう。動けない。思考がぐるぐるしてる。
なんなの、私って女子高生じゃないの?
現代人じゃないの?
現代人って何?
現代って何?
どこのこと?
そういえば最近、現代のこと思い出してない。私は、私がカラナだと思ってた? それは違うな、私はカラナじゃない。ヒミコじゃない。大丈夫だ、ちゃんと他人だ。
待って待って、今そんなことよりも、こいつを何とかして、タバナを逃さないと駄目なんじゃないの。私が何者とか後で良いって。
『知りたくないの? 君がどうして、ここに来たのか、どうして日神子の中にいるのか』
そりゃ知りたいよ。キヒリ、色々知ってるっぽいし。なんなら、現代に帰る方法だって教えて欲しいよ。
でも……今すぐ帰れますって言われたとしても、今は帰れないに決まってるじゃん!
『帰れないって駄々こねられても、僕が強制的に帰せるんだけどね。君を殺して、僕は日神子の身体を貰う。君は現代とやらに帰れる。ウィンウィンじゃないか』
ウィンウィンなんて言葉を知ってるってことは、それなりに近い時代なのか。もしくは、ひょっとして外国人だったりするのかな。作り、日本人っぽいけど。
ってか、死んだら現代に戻れるなんて、はいそーですかって信じられるかっつーの。キヒリはどうなのよ。幽体っぽいけど、身体はどこよ。
『僕はね、日神子』
キヒリの笑みが、ちょっと遠い目をした柔らかいものになった。あ、これ自虐的な笑い方だ。
なんて見とれてたら、キヒリの手がスッと上がった。
ヤバい、また不意打ちだ!
『!!』
破裂音がした。
キヒリはまだ微笑んでる。
『キヒリの残骸なんだ。彼が死んだのに、僕はまだ生きてる。浮いてる。だから君を貰って、僕が日神子になるしかないんだよ』
歌うように語るキヒリを、私は肩で息をしながら眺めてた。間一髪、切り抜けた。致命傷になったかな。
今を逃したら、もう二度と身体のこと聞けないかも知れない。けど、これ以上は何も出ない気もする。
だって、自虐的、自己陶酔的なキヒリの言葉からは……絶望しかない。
嘘じゃん。
死んだら現代に戻れるなんて。
あんた、戻ってないんじゃん。
キヒリっていう身体が死んでなお、幽体で浮いてるって。ただの亡霊じゃん。なのに私は戻れるなんて、そんな保証はどこにもない。この身体を追い出されたら、私が幽霊になって彷徨うんじゃないか? いやもう絶対そうだろ。
私も上げた手を下ろして、崩れ落ちそうなキヒリを放置して、飛んだ。お腹が熱い。幽体だから血は出てないみたいだけど、その代わりに、ビジュアルが歪んでた。幽体を、形を成している力が弱まったってことか。
形を成すっていうのは、見た目とかだけじゃなく、中身のことも指すのかも知れないな。記憶を成す。人格を成す。私が、成る。私という人間を示す名前も、ひとつの形だ。
相打ちだ。
でも、ちょっとだけキヒリのほうが重症だ。飛び上がった私を見上げて、キヒリは萎びた顔でよろよろしている。下半身が消えかけてて、本当の幽霊みたいになっている。
あのまま消滅してくれたら……嬉しいような、寂しいようなな?
それとも中のあんたも消滅したら、本当に現代に戻れるかもね。って分かっているとしたら、喜んでトドメを刺してあげるんだけど。
私だって、これが終わったら、タバナが無事でいられたなら、もう心置きなく思い切って終われるっつーに。
同じクニで遭遇してたなら、同じ不遇を嘆いて、情報交換したりなんかして、友達になれてたのかな。いや……ないな。
忘れちゃ駄目だ。あいつは、ヒタオを殺したんだ。容赦なく。躊躇なく。ヒタオは生身だった。ツウリキなんて持ってなかった。
いや潜在的にはツウリキって、皆が持ってる力なんだろう。あの死にかけの状態になって、ヒタオは初めてツウリキを使って、私を見た。使いこなせてるのか、力が大きいかどうか、ってのが重要なんだろう。
キヒリの衝撃波で傷ついたお腹を押さえて、私はヒタオの綺麗な笑みを思い出した。まだ帰れない。死ねない。
私は遥か上空に立って、地表を見おろした。
ナコクに向けて手をかざす。
もう、建物の外側に出ているから、ナコクのおじさんたちは見えない。
見えないけど、まだ騒いでるのは分かる。
キヒリと話してた時間は、ほんのわずかだ。一瞬だったかも知れない。
まだタバナは来てない。
来させないように、来る必要がないように……ナコクを、潰す。




