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やっと、出られた。
自分の身体を見下ろしてるものの、まったく自分の気がしない。そもそも別人だしね。
ここにいたら、自分の顔を見ることもないし。たま〜に鏡を持ってきてくれるけど、めっちゃ映らないし。
カラナの、瞑想する姿のまま気絶している状態を、しげしげと見つめる。ああ疲れた。いやいや、これからだし。今から本番だし。
ロウソクは消してあるのに、顔が見えてる。どこかから光が差し込んでる。月明かりにしては明るい気がする。
まさかの、もう朝になったのかな。
私は気を取り直して、深く呼吸した。まずは自分の身体から放れたこと、それと同時に身体とつながっていることは、意識しなきゃ。そのまま上がってっちゃったら、消えるか、自分の身体に戻れなくなるもんね。
呼吸を整えて、意識を集中する。
少しフワッと身体を持ち上げたら、社の屋根から飛び出て外になった。簡単に上がっちゃうのだ。ホント気をつけよう。
東だろう方向から、眩しく太陽が上ってきている。
ヤバい、急がないと。
眼下の社が遠くならないよう高度をたもって、タバナの気を探す。オーラ? ソーマ? なんかよく分からないけど、そんな感じの空気。
社の周りには、林に隠れて見えなかっただけで、沢山の家が建っている。なんだっけ、ナントカ住居。藁葺き屋根みたいなヤツだ。
その先に広がる森、山、草原。多分、最初に私がぼうっと立っていた場所。
その向こうに、タバナの意識を感じる。
ナコクは、あっちだ。
走り出す時に足を踏み出すのが、無意識のように。
飛ぶのも、力を込めるのも無意識だ。
ひゅっと耳元で風がうなった……ように感じた。いや聴き間違いじゃないな。身体がないのに、精神体だけでも音は聴こえ、目が見えている。
空を飛んでいる今、風も感じているもの。ただし触感は薄い。風を感じるっつっても、あんまり抵抗ないし気温も感じないし。どこか現実離れしてるというか、ふわふわしてる。
現実離れしてるし、幽体離脱系なんだろうから、ふわふわしてて当たり前なんだけど。
けど。
あそこにタバナがいる! と感じている、この心だけが、やけにリアルだ。
飛びながら、ふと「私、ホントに、タバナが好きだなぁ」と他人事のように思った。いや本当に他人事だしな。めっちゃ好きだなぁと心がドキドキするのを、醒めた目で俯瞰する自分がいる。
最初に口移しで水を飲ませてくれたのも、あったけどさ。私として、タバナのこと良いなって思うけど。でも、ヒタオって嫁さんがいるのに横取りするような、そこまでドス黒い、強い恋心じゃない。
まだ、ヒタオのことを「いた」じゃなく「いる」と表現したいぐらいには、身のほどをわきまえたいというか。ガツガツしてないというか。
でも、タバナのことを考えただけで、あの目を思い出すだけで、心がザワつく。ドキドキする。髭面なのに。いや多分、剃ったらイケメンだとは思うんだけど。でも髭面だし。
この感情……。
絶対、カラナのものなんだよね。
もう禁忌だろってぐらいに、ヒタオに嫉妬しちゃうぐらいに、タバナのこと大好きな訳よ。
こんな感情。自分が一番、持て余してた。
諦めたくて諦めたくて仕方がなかった気持ち。だから社を逃げ出した。違う人生が開けるのではないかと期待を込めて、ツウリキの限りを使って自分を逃したのだ、あのムラから。クニから。ヤマタイから。
すべてを肩から下ろしたかった。
きっとタバナも、そんなカラナの気持ちには気付いてたんだろうなぁ。今にして考えたら、なんか不自然だったもんなぁ。
口移しまでして手厚く看病してくれた翌日から、ぱったり来なくなったりとか。中身の私が異世界の人間だって分かったら、色々世話してくれたけどさ。
口移ししてくれた時、タバナも本能的に、これ、ヤバいとかって思ったんじゃない? って思うわ。狙われる! みたいな?
失礼な。とも言い切れないけど……。
ちょっと一目惚れしてたもんね。
いや今でもそうだけど。
でもタバナが何を考えてるのかが、全然分からないからなぁ。カラナのこと好きだった? ウザかった? 嫌いだった? ミコになっちゃったしな。つられて、タバナの役職も変わっちゃったしな……って記憶が、ぼんやりある。
確か闘佐は最初、タバナの役目だったんじゃなかったっけか。そんな覚えがある。でも私が覚醒してミコになったから、そのお世話役、伝達係に回されたって……。
タバナとしては、どんな気持ちだったんだろう?
カラナは、タバナが危険な役目から離れて嬉しかったみたいだけど。でもタバナ、時々ミコ様放っといて遠征したりとかしてるしなぁ。
今みたいに。
あっ。
景色が変わった。平原。ものすごく広い原っぱって、こんなの日本にあるのかな。家並みがなかったら、今でもこんな景色が作れるんだろうか。
北海道みたいな、地平線が見える広大さ。
空にいるからか、大地が少し丸く見える……気がする。あれ、いかん、またちょっと上がりすぎてるな。自分が薄い。
意識して高度を下げた。
タバナが近い。




