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「それはそれは……」


 そんなのは見ていて分かっていたことだが、ビビはディリアが正直に気持ちを吐露したことに目を剥いた。


「自分でもなんでか分からないのよ。顔と体つきと眉間の皺と腰回りがとても好き。でも、中身は、気持ちはちっとも分からない。私を一人の人間としてすら認識してもらっていないのは分かる」


「若さを武器にいっそ落としちゃえば?」


「……ビビさんや。ビビさんは「私は前世であなたに嫌われて死にましたが、あなたのために死んだのだから、生まれ変わった私と付き合ってください」って言われたら、落ちる?」


「意識を落として急所も落とす。……尻を見てから」


 ビビは真顔である。そんな電波は余程の尻でなければお断りだ。


「現金ね。でも同意見です。そして今の私には、殿下にとって惹かれるところがあるとは思えません。これ以上領主様を泣かさないでね? くっつきようがないですからね? 私は時々あの腰回りを堪能できればいいの」


「ふうん? ま、でももう約束しちゃったし。私は私の出来ることをするよ」


「……誰と、何の約束?」


 ディリアは嫌な予感しかしない。ビビは幼く見えるので、何も出来ないような子どもに見る人もいるが、ビビは大人で(したたか)かで、行動力がある。


 ディリアの訝しげな顔にビビは含み笑いするだけで答えない。


 遠くの子どもたちが少々不穏な二人に一瞬注目したが、またディリアがビビに遊ばれているだけと分かると興味を失った。いつものことだからである。


 ディリアとビビ親子がここまで仲良くなったのは、ビビたちがディリアの家の横に住み着き、家族ぐるみで生活しているからである。

 ビビ親子は基本的に一緒に行動しているが、領主館での作戦会議など、ビビ一人で行動しなければならない時があり、そんな時にはディリアの家でユーリを預かっているのである。ディリアの家は親子三人で雑貨屋を営んでおり、現在はディリアが従軍しているので夫婦で切り盛りしている。店舗併用住宅なので子ども一人くらいの面倒は見ることは出来る上、ユーリは、抜けたディリア分を埋めるくらいよく働いていた。代わりと言っては何だが、ディリアが酒場に行く時のお供はビビがつとめるようになった。ちなみに今までは、ディリアは一人で酒場に行っていると思っているが、必ず父親が遠くの席にいて見守っていた。


 ビビの息子ユーリは、濃い茶髪で綺麗な黄緑色の目をした非常に顔立ちの整った少年である。物静かであまりしゃべることはないが、一人親の(ビビ)をとても大切にしている。今は離れて暮らす兄のこともとても慕っており、親子三人、肩を寄せ合って南西の国で薬草を採取して薬を作って暮らしていたのだという。

 ビビは多くは語らないが、子どもたちの父親は魔物に襲われ亡くなっており、自分の故郷は遥か遠く、近くに親戚もおらず、一人で子どもを育ててきたことだけ周りに話している。

 だが、少し想像すれば分かることがたくさんある。

 一人で子どもを産み育てることの大変さ。しかも、魔力のない身ではつける仕事も非常に限られていること。

 一般的に「魔力持ち」や「整った顔立ち」には貴族階級が多いこと。

 魔力がない上、とても貴族には見えないビビが母親で、魔力が大きく、整った顔立ちのユーリが息子、ならばその父親は。


 (とお)以上年上なのに、同年代に見え、黒髪黒目で異国の顔立ちをしている。

 魔力はないのに、その手から作られる色んな薬は、他の追随を許さないほど優れている。ディリアには同じ「緑」にしか見えない植物たちが、ビビの手に掛かると人の命を救う薬となるのである。まるで魔術のようだとディリアは思っていた。ビビは、そうして職を得て子を育て、しっかり生きている大人の女性だ。


「なあに? じろじろ見て。勤務をいじったこと怒っているの?」


 視線の種類が変わったことに気が付いたビビが笑う。


「勝手なことをしたのには怒っています。まあ、その結果、私はただ無視されて、娘(ラブ)の騎士ナガールとの絆が深まっているだけですが。……それより、ちょっと思ったんですけど、私たちは友達ですか、ね?」


 それともただの同僚? 隣人?

 ディリアが笑いながら問うと、ビビは驚いたように答えた。


「え、トモダチ違うの? ……だとしたら、勘違い恥ずか死ぬ。やっぱりおばはんの私など「リアたん」のお友達なんて烏滸(おこ)がましかったか」


 ビビが顔を覆って俯いてしまった。


「いやいや、その自己評価低いのはいりませんし、あなたまで「リアたん」呼びはやめてください。元兄と爺様たちだけで十分です。皆さんが可愛がってくれているのは嬉しいのですが、さすがに友達にまで呼ばれるのは、ちょっと」


「デレた!」


「そういうのですよ」


 二人がきゃいきゃい戯れていると、子どもたちが寄って来て、その辺に転がって休憩しだした。散々走り回ってクタクタなのか、小さな子はウトウトしている。ユーリが小さい子の手を引き、寝転んでも服が汚れないように魔術をかけている。七歳にしてなんという気遣いか、ディリアはいつも感心している。


 ディリアも慣れたもので、側に転がる子の背中を割と強めに叩きながら子守歌を歌った。

 歌と言っても歌詞はなく、ハミングだけのこの地に伝わる伝統的な子守歌である。ただし、ディリアの子守歌にはアレンジがある。子守歌にはアシューミ家に伝わる魔術が込められた節があり、それはアシューミ家に生まれた者それぞれに親から贈られる歌で、ヨルゴスにはヨルゴスの、マーリアにはマーリアの節がある。聞いた者が真似をして歌っても、術は発動しない。


 ホワホワと子どもたちの周りに光が生まれる。子守歌を聞いた者が良い夢を見て幸せになるちょっとした魔術。

 この旋律を知り、この魔術が発動する。それこそが「マーリア」である証明なのだが、ディリアは誰が歌ってもこうなるものだと思っており、長く領地を離れていたマーリアはアシューミ家伝統の子守歌だということを知らないまま儚くなったのである。


 その時、少し離れた所で、その光景を見ていた男がいた。



 お読みいただき、ありがとうございました。


 ビビの言う「約束」は短編のアステ様との約束のことです。


 次話は準備でき次第アップします。

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