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 まだまだ説明……。


 

 アルドはある時から急にマーリアを避けるようになる。

 近くにマーリアが存在さえすればアルドの魔力は安定するため、頻繁に「会う」必要はないと、月に一回の短い茶席のみとなり、やがてそれもなくなっていった。


 アルドは何かに取り付かれたように魔力制御の訓練を始め、その過酷さは、父王自らがアルドを縛り上げて止めた程と言われている。


 なぜ、マーリアを拒絶するのかアルドは語らぬまま。

 そんなアルドをマーリアはいかに思っていたか。それも誰にも語らぬまま、アルド十三歳、マーリア十八歳の時に、マーリアは病死した。


 王家に必要とされ望まれて婚約した娘が、王子に拒まれて、十八という人生を終えたことに、アシューミ家は計り知れぬ憎しみを持った。


 更に、国事の場で、アルドがマーリアを放っておきながら、他の女性を連れ、身体に触れていたことが広く目撃されていた。

 王侯貴族は人前で妻や婚約者以外の異性に触れない。この不文律の文化があることを承知の上でのこの行いは、婚約者、ひいてはアシューミ家を軽んじていることに他ならない。婚姻の誓約をしておきながら、マーリアによって生かされておきながら、アルドがマーリア以外を選んだことが国中に広まると、アシューミ家は完全に王家と没交渉となった。

 アシューミ家のその態度は、理由はあれども臣下としては許されるものではなく、アシューミ家の処罰を望む声も上がったが、では、アシューミ家に代わって誰が森境を守るのか、と問われると、声は上がらなくなった。


 第一王子アルドは王位継承権を剥奪。当時まだ八歳の第二王子ルカが王太子となった。

 アルドの王族籍は、王族が少ないことから、ルカに子が生まれた際に離脱することが決められた。


 マーリアが死亡したことにより婚姻の誓約は解かれたが、アルドは恋人と言われた女性とも他の誰とも婚約せず、自分の処分の手続きが終わると、その身一つで軍属に入って今に至る。


 王家とアシューミ家は、妻に先王の姫、妹にアシューミ家の分家から婿をとっている侯爵を仲立ちとして、公的には徐々に関係を修復していったが、ヨルゴスが領主となってからは、年に一度行われていたアシューミ家の登城は行われていない。


 領民も、自分たちの「姫様」をここまで蔑ろにした王家とアルド本人に良い感情を持っているはずもなく、町が迎える危機でなければ、マーリアが眠るこの地にアルドを踏み入れさせなかっただろう。


 そんな地で、そんな二人が相見えたら。


 誰も手出しはならぬと、一騎打ちとなった戦い。黒の森から魔物たちが溢れるよりも、先に町が壊滅しそうになるほどの凄まじさで、町外れの草原は深く(えぐ)れた。


 この世の物とも思えぬその様子を見た領民たちは、やってきたアルドを「領主様と同類(のうきん)だ」と早々に判定し、戦いを止めることを放棄し、避難した。


 昼過ぎから陽が落ちても終わらぬ戦いに、ヨルゴスの妻アステが二人を魔術で凍らせ、更には二人の脳天に本気の拳骨を落とし、アルドに「マーリアが眠るこの地を魔物から守り抜く」と、領民に約束させたことでようやく収束した。


 ヨルゴスはその後、アステから叱られ、一ヶ月、寝室も別で口も利いてもらえなかったという。


「あの男にはこの私がけじめをつけるとあれほど申し上げ、旦那様もこの場は譲ってくださっていましたのに……! 我慢できずに手を出して、何かあればすぐ拳、拳、拳。町にまで被害を出して……!!」


 アステの猛烈な怒りにヨルゴスは謝る言葉も見つからず、寂しく一人寝をしたという。


 (わだかま)りが解けたわけでも、許し許されたわけでもないが、前線の後ろにいる戦う術のない無数の民のため、お互いが必要な戦力であることは認め合い、二人は長く共闘する事となる。

 二人の戦いの跡地に出来た大地の(くぼ)みへ魔物を誘導し、追い詰める形で討伐するその作戦は成功し、今後も余程のことがない限り、劣勢となることはないと思われた。


 が、余程のこと。それが現実に起こる。


 総指揮官アルドの不調である。

 アルドは、とある人物を目にした途端、身体も思考も正常に動かなくなる現象に苛まれていた。


 弓が得意なその「とある人物」は、討伐隊とは別の救護隊に所属し、後方から援護射撃を行いながら、けが人などの情報を伝令する担当で、今のところ魔物と直接対峙することはない。しかしながら、戦場内であるので、いつ誰に何が起こるかは分からない。現にその人は一度額に怪我を負い、血塗れで運ばれている。


 その「とある人物」が血塗れになって以来、アルドはその人物を目にすると、自分がまさに魔物と対峙している瞬間だとしても、その人物の周囲に危険がないか確認し、声をかけようか、守りに入ろうか、わたわたオロオロし始め「使い物」にならなくなった。それは段々と度を越えてゆき、目にしなくても「とある人物」の気配を察知すると、転移の術で側へ行くようになってしまったのである。

 アルドにしかできない魔物を誘導する魔術の補修や、討伐自体にかなりの影響が出始めていた。


 領主ヨルゴスを始め、アルドと「とある人物」の周囲の者たちは、いよいよ本格的な打開策をとらなくてはと、深刻になっていた。




 お読みいただき、ありがとうございました。

 次話は準備でき次第アップします。


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