女公爵は屋敷を見つめる
短めの長編です。よかったらお付き合いください。
今はターブルロンド神歴五千年、ここはターブルロンド皇国のエルドラド領。エルドラド公爵家の治る領地で、最近までは主に金鉱から取れる金で成り立っていたが、未だ幼い女公爵、アンジェリク・エルドラドが爵位を継いですぐに個人資産を元に観光地化事業を展開して、今では花畑や遊園地、動物園に水族館、カジノにホテルなど様々なレジャー施設を完備。観光事業で金鉱だけに頼っていた頃よりもむしろとても潤っている。
さて、では何故アンジェリクは十三歳という幼さで、女でありながら公爵位を継げたのか。それは、とある凄惨な事件と、幼き皇女殿下の最上位の慈悲からだった…。
「ご主人様」
「あら、リュカ」
彼はリュカ・フォルクロール。フォルクロール伯爵家の三男にして、アンジェリクの執事。
「本日のお茶とお茶菓子をお持ち致しました」
「ありがとう」
「…ご主人様、また、ここ…中庭から屋敷を眺めておいででしたか」
「ええ。お父様とお母様…それに、親戚筋のみんなを思っていたの」
「…」
「黙って部屋を離れてごめんなさい」
「…いえ。まだ、ご主人様には必要な時間でしょう」
リュカは痛ましいものを見る目で主人を見つめる。その視線から逃れるようにもう一度屋敷に目をやるアンジェリク。その目は今は亡き父や母、そして『あの日』の惨劇に巻き込まれた親戚達全てを慰めるように優しいものだった。
「本当にありがとう。まあ、今日のおやつも美味しそうね」
「ええ。エルドラド公爵家の使用人たるシェフたちが腕によりをかけて作ったアップルパイですよ」
「まあ!素敵!」
「お茶もアップルパイに合うものをご用意させていただきました」
「うふふ。私は本当に使用人たちに恵まれているわ」
「ええ。そうでしょうとも」
「あら、自分で言う?」
「ええ。ご主人様の執事として恥ずかしくないだけの自信はありますので」
「うふふ!…ああ、この生地のサクサク感。りんごの上品な甘さ。今日も最高の仕事をしてくれたものだわ…紅茶との相性も抜群ね」
「それはよかった」
「ところで」
「はい」
「…このお茶の時間が終わったら、お仕事をしましょう」
「ええ。本日はどのような無理難題を押し付けられたのです?」
「うふふ。我らがお姫様は幻の石、コント・ド・フェ・アレキサンドライトをお求めよ」
「…おやおや。持ち主に祝福と呪いをもたらすという奇跡の石ですか」
「ああ、今日も骨が折れそう」
「子供のお守りも大変ですね?」
「言って私や貴方と一つ違いじゃない」
「ですが私とご主人様は本来なら貴族学院に通い始まる年齢。そう考えると皇女殿下はやはり子供では?」
「ふふ。私の恩人にそんなこと言わないの。…ああ、もうアップルパイがなくなってしまったわ。さあ、仕事ね」
「お供致します」
「当たり前よ。さて、アルファのところに行きましょうか」
こうして今日も、アンジェリクはベアトリス・ターブルロンド皇女殿下のために貢物を探しに行くのだ。
公爵家がカジノ運営ってどうなんだろう…と思わないでもないですがそういう世界線ということで一つお願いします。