嘘つき
いきなり女の子を連れて帰ったのに、ソウは穏やかに迎えた。
そして、一目でエミールがユリニエラン家の者だと見抜く。
「お帰り、雄哉」
「ただいま、おじいちゃん」
「冷蔵庫にケーキがあるよ。お友達に出しておやり」
「うん」
雄哉はランドセルを玄関で置くと台所まで真っ直ぐ進む。
一緒に帰ってきたエミールのことは忘れてしまっていた。
「ゆっくりしていくと良い。ユリニエランのお嬢さん」
「私のことが分かるの?」
「その魔力はユリニエラン家の物だからね。あぁ、サーマエラン家の物も感じるね」
ソウはエミールの出自を見ただけで当て、言うだけ言うと奥の部屋に引っ込んだ。
玉藻は深く溜め息を吐くとエミールを雄哉の部屋へ促す。
「ねぇ」
「玉ちゃんでいいにゃ」
「いやよ。そんなことより簡単に入れていいの?」
「ソウは細かいことを気にする性格じゃないから大丈夫にゃ」
実家よりも狭い家に興味津々なエミールは階段の手摺を撫でる。
装飾のない木の手摺はエミールにとっては貧相に見えた。
「貧乏なの?」
「わびさびが分からないとは嘆かわしいにゃ」
「失礼ね。枯山水でしょ。うちにもあるもの
」
「洋館に枯山水はセンスを疑うにゃ」
「言わせておけば」
口喧嘩はするもののエミールは玉藻に魔法で喧嘩を売るつもりは無い。
幼い頃から玉藻の武勇伝を聞かされたエミールは勝てない勝負をするほど向こう見ずではなかった。
「ここのアップルパイ美味しいんだよ」
「楽しみだわ」
「それを食べたらエミールは魔法界に帰るにゃ」
「石も無い私が帰れる訳無いじゃない。道だってないし」
「道ならあるにゃ。そこの襖を開けると、そこは魔法界だった」
「文学的に言ったって騙されない・・・ほんとに魔法界」
雄哉が繋いだ魔法界への道は気まぐれに繋がる。
三回に一回は魔法界へ繋がるため布団を敷くときに何度か開け閉めする必要があった。
「冗談じゃないわ。石も無い私が帰ったところで生きていけるはずないでしょ」
「それは人間界でも同じにゃ。魔力があれば取り返すこともできるだけのことにゃ」
「その前に殺されるわよ」
「ねぇ、石ってそんなに大事なの?」
玉藻とエミールの言い合いに口を挟んだ雄哉は一番気になっていたことを聞いた。
エミールの物騒な発言は無かったことになっている。
「気になるのは、そっちなの? 美少女が殺されるって言ってるのよ。気にならないの?」
「うーん、うん」
「それが雄哉にゃ」
「いいわ。教えてあげる。どうせ玉藻だとニャーニャーとうるさいし」
「玉ちゃんって呼ぶにゃ」
雄哉のどこかずれた感性は玉藻のせいだと確信したエミールは大きく溜め息を吐いた。
「魔法使いにとって魔法石は命と同じくらい大切で重要なものなの。失えば魔法使いとしては三流扱いをされるし、下手をすれば殺されるわ」
「どうして殺されるの?」
「石を奪われるということは不名誉なこと。だから一族の名誉のために無かったことにするのよ」
「だからエミールは殺されるって言ってたんだね」
「一応、次期当主候補だから見せしめに、ね」
石が無くとも強い魔法使いだと知られていれば殺されないこともある。
その例が雄哉の祖父ーーソウだ。
まだ候補であるエミールは親の采配で簡単に決められる。
「石は持って産まれることもあるけど、ほとんどは魔法界で自分の魔力にあった石を見つけるの」
「エミールも?」
「難しいところね。元はお兄様の石だったから」
「どういうこと?」
「お兄様が五歳のときに庭で見つけたらしいんだけど、その後で私が気に入って手離さなかったの」
兄妹だから魔力の波長が似ているのは当たり前なのだが、兄が見つけた魔法石の波長と相関性が高かったのはエミールだった。
魔力量が多いのもエミールだったことで、石の持ち主をエミールにすると母親が決めた。
「お母様のことを溺愛しているお父様は、その決定に反対はしなかったけど、賛成もしてないわ」
「ユリニエラン家の当主の蝙蝠加減は有名にゃ」
「蝙蝠?」
「妻が言えばどんにゃ意見でもころころ変えるから蝙蝠にゃ」
「お父様はお母様に良く似たお兄様を当主にしたいの。でもお祖父様が止めているわ」
ユリニエラン家当主は一族の反対を押し切ってサーマエラン家の令嬢を妻とした。
そのときの条件で、次期当主はサーマエラン家の血を引かない者から選ぶこととなっている。
魔力が高くてもエミールが次期当主候補なのは、それが理由だ。
「お母様は、条件を知らないから私を当主にしたいと同じように言ってるけど、お祖父様に止められているの」
「エミールの家って複雑なんだね」
「さんざん説明を聞いて、感想がそれって」
後継者争いの渦中でいながら、味方の母にも隠し事をしなければならないという苦しさを感じていた。
それを一言で片付けられたエミールは深い溜め息を吐く。
「・・・そういうときは甘いものでも食べて忘れるにゃ」
「そうするわ。あら、美味しい」
「ソウのお手製にゃ」
「うそっ!」
「うそにゃ」
料理は出来るがケーキは作れないソウは近所のケーキ屋で毎日購入していた。
甘さ控えめな小振りなケーキは近所の主婦に人気だった。




