余計な一言
布団を無事に手に入れた雄哉は廿楽を気にしながら着替える。
面白そうに廿楽は赤い舌を出して雄哉を揶揄った。
玉藻は窓際に座ると外を眺める。
「た、玉ちゃん!」
「どうしたにゃ?」
「蛇怖いよ」
「本当に爬虫類がだめにゃねぇ。廿楽を怖がる必要はにゃいにゃ」
「そうだそうだ。気楽につーちゃんと呼んでくれ」
涙目になっている雄哉が可愛そうになったのか廿楽は部屋の隅に移動する。
距離があることで安心したのか雄哉は布団に潜り込んだ。
「・・・寝たか」
「雄哉は昔から寝つきがいいにゃ」
「しばらく俺もついてることにする。お前一人でずっと守るのは無理だろうからな」
「領地はいいにょか? にゃーは助かるにゃ」
月明かりの下を雄哉を探して飛ぶ蝙蝠を玉藻は睨み付ける。
今のところ退院したソウが目眩ましの魔法を使っているから低級からは隠れている。
「大丈夫だ。代替わりをしたからな」
「もうそんなに経つにゃ」
「ソウに孫がいるくらいだからな」
「年は取りたくにゃいもにょにゃ」
「いくつになったんだ?」
「女に年聞くアホがどこにおんねん! このあほんだらぁ」
玉藻の爪が廿楽の顔を引っ掻いた。
廿楽は首が千切れんばかりに振る。
「分かればいいにょにゃ」
「こえぇ女だ。だから嫁の貰い手がねぇんだよ」
「口の減らない男にゃ。蛇の蒲焼は滋養強壮にいいらしいにゃ」
「俺を食っても美味くないからな! それよりもこれからどうすんだよ」
玉藻の逆鱗に二回も触れた廿楽だが、ようやく身の危険を感じて話題を変える。
一回警告する程度では懲りない性格を知っている玉藻は素直に話題転換に応じる優しさを見せた。
「とにかく雄哉には想像力を身に着けてもらうにゃ」
「魔法を使うための基本的技術だからな」
「すでにソウ以上の素質は垣間見せてはいるもにょにょ自分の意志で使えなければ意味にゃいにゃ」
「そんなにか」
「人間界で育ったせいで場を支配する力が圧倒的に足りてにゃいにゃ」
魔法を使いこなすには相手より有利に立つ力と想像力が不可欠だ。
想像力はまだ幼いということで柔軟性があり純粋なまでの素直さで身に着けるのは早い。
もう一つの支配する力は魔法界にいる住人なら感覚で身に着けるが人間界ではそれは難しい。
「どうやって教えるんだ? 魔法界に連れて行くのか?」
「それは無理にゃ」
「魔力は十二分にある。向こうでも自我を保てるだろう?」
「行った瞬間に四候が遅いに来るにゃ。そうなれば一瞬にゃ」
「ソウの生家に連絡を取れば良いだろう? 代替わりをしてソウの五番目だか六番目だかの弟が当主になっている。それにお前の罰も終わってる」
「それが問題にゃ」
玉藻は雄哉の保護をソウの生家に求めることを一度は考えた。
だが、廿楽が挙げた五番目と六番目は自分の魔力を上げることに重きを置いているから助けを求めれば命はない。
どちらが当主であっても選択肢としては最悪だ。
「どちらも最悪にゃ。せめて四番目にゃら救いはあったもにょにょ」
「四番目はどうしてるんだ?」
「魔王の八番目だか九番目だかの娘の三番目だか四番目だかの婿になってるにゃ」
「なるほどな。生きてるかどうかも怪しいな」
「五大公のいずれかが動いてくれると助かるが、こればかりは運にゃ」
日の出の時間が近づき外が明るくなりだしたころに偵察部隊の蝙蝠が窓にぶつかった。
ガラスを突き破るほどの力は無いが、雄哉を見つけたことを仲間に知らせる。
すでに守りが破られた。