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怒れる猫

 雄哉が学校から急いで帰ると、退院した祖父がこたつで寛いでいた。

年齢による不整脈だったらしく問題ないということで退院した。


「お帰り、雄哉」


「おじいちゃん」


「心配かけてすまんのぉ」


「ううん」


「さて、じいちゃん特製のグラタンでも作ろうかの」


「なぁにが、じいちゃん特製のグラタンでも作ろうかの、にゃぁ! だいたいソウがきちんと雄哉に教えておけば問題(にゃ)かったにゃ」


 お座りの状態で聞いていた玉藻は尻尾を床に叩きつけて怒りを露わにする。

耳が痛いとばかりにソウは、こたつから出て台所でグラタンを作り出す。

昔からソウを知っている玉藻は仕方ないとばかりに嘆息して、雄哉の部屋へ向かうために階段を上った。

ランドセルを置くために雄哉も玉藻と同じように階段を上る。


「玉ちゃん」


「ほら、おじいちゃんは帰って来たにゃ」


「うん、玉ちゃんの言う通りだった」


「グラタンができるまで時間があるにゃ。このまま何も知らないでは危険にゃ。全部、話すから座るにゃ」


「うん」


 ベッドに座ると、玉藻は覚悟を決めたように話し始めた。

上機嫌なソウの鼻歌が玉藻の神経を逆なでした。


「まず、こことは違う魔法界という世界があるにゃ。そしてここは人間界と呼んでるにゃ」


「小説みたいな話、本当にあるんだ」


「あるにゃ。そこで、にゃーはもちろん魔法界の住人だし、ソウも元は魔法界の住人にゃ」


「えっ? おじいちゃんが?」


 料理上手な優しい祖父が違う世界の人だとは思ってもみなかった。

ただ、玉藻を見てもソウは普通にしていたから本当のことなのだろう。


「しかも数ある王家のひとつの息子だから王子様、プリンスにゃ」


「おじいちゃんが王子様」


「はるか昔のことにゃ。魔法界の住人は時々人間界に来て観光して帰るのだけど、ソウは一人の女性に一目ぼれしたにゃ」


「それがおばあちゃん?」


「そうにゃ。一目ぼれして片思いで終わってくれたら良かったにゃ。こともあろうに魔法界を抜け出して、おばあちゃん・・・ユカリと添い遂げようと駆け落ちしたにゃ。いや、駆け落ちではないにゃ。出奔? よく分からないが、とにかくソウは魔法界からいなくなったにゃ」


 玉藻は当時のことを思い出したのか、尻尾を叩きつける速度が速くなっている。


「最高の魔法使いと呼び声の高いソウがいなくなったことは、大騒ぎになったし、誰も行方が分からないとあって、魔法界は揺れに揺れたにゃ」


「騒ぎになったんだ」


「いきなり居なくなったせいで、お目付け役だった、にゃーは責任を取ってソウを探すことになったにゃ。だけどソウの目くらましの魔法の痕跡を探すのは骨が折れたにゃ。ようやく見つけたと思えば、結婚して子どもまでいたにゃ」


 幸せそうにソウとユカリは笑いながら生まれた我が子を腕に抱いていた。

昭と名付けられた子は魔法使いの才能を持たないことが分かり、玉藻もそれで報告をしようとした。

だが、玉藻の動きを見張っていたヤツがいた。

そいつも同じようにソウとその血をひく子の存在を知る。


「息子の昭は、魔法使いの才能はなかったことで、命拾いしたにゃ。それで全てが終わるはずだったにゃ。孫の雄哉が生まれるまでは」


「僕?」


「そうにゃ。生まれてすぐに魔法使いの才能があると分かり、ソウは守りの魔法をかけたにゃ。最高の魔法使いの魔法を見破れる者など限られてるから安心だと思った矢先にゃ」


 玉藻も人知れず雄哉を見守り、敵が放った偵察部隊を蹴散らしたり、違うところに目を向けさせたりと工作を行ってきた。

だが、一瞬の隙をついてソウの魔法石を奪ったヤツがいる。

魔法石がなくとも魔法は使えるが、どうしても威力が落ちてしまう。

それでも最高の魔法使いと言われるソウは、魔法で雄哉を隠し続けた。


何者(にゃにもにょ)かに魔法石を盗まれてしまったにゃ。八方手を尽くして探したけど見つからなかったにゃ。そうこうしているうちにソウも年を取って魔法の力が弱まったにゃ。それでも下級魔法使いに知られるようなヘマはしないにゃ。おそらく上級魔法使いが根気よく魔法の痕跡を探し、そして手当たり次第、才能を持つ子を探したというところにゃ」


「それがあのお巡りさん」


「お巡りさんの恰好をしていたのは、あの付近を見て回っても不振じゃないからにゃ。どこかの家を除いても警邏中とでも言えば、誰も怪しまないにゃ」


「僕どうなるの?」


「ソウが守りを強くしたところで居場所が知られてるにゃ。かくなる上は、雄哉が魔法使いとしての才能を開花させて使いこなすことにゃ」


「そんなの無理だよ」


「できるにゃ。雄哉はソウの孫なのだから簡単にゃ」


 無茶苦茶な理論だが、これからは雄哉の命を狙ってくる魔法界の住人が多くなる。

自衛のために覚えるのは悪いことばかりではなかった。



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