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魔法使いの孫は魔法使い、のはず  作者: 都森 のぉ
第一章

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魔法使いの本気

 エミールは空を見てから続きを話し出した。


「お父様は一族と誓約を結んだけど、自分に良く似ているお兄様を当主にしたいの。だから、誓約に抵触しない次期後継者候補として指名した。お母様のご機嫌取りのためについでに私のこともね。後継者も次期後継者も一族から決まっているのに無駄なことだわ」


 エミールが育った環境は雄哉が想像できないほど陰謀が渦巻いていた。

校門では体育教師が児童に挨拶している。


「ああやって大人が気にかけてくれることは魔法界ではないわ。教育係がそうかも知れないけど、能力が無い者は見捨てられるだけ」


「あの先生、声が大きくて苦手なんだ」


「離れたところを堂々と通れば良いのよ。びくびくしていたら目立つわ」


「そっか。エミールは凄いね」


 他の児童の影に隠れて雄哉とエミールは校舎に入った。

教室に入る前にエミールは廊下にいる監視役の男を見つけて険しい顔をする。


「そう怖い顔をするな。旦那様より帰還命令が出たことを伝えに来ただけだ」


「そう。言われなくても明日帰るわ」


「石を失ったお前に居場所があるとは思えないがな」


 監視役を先生だと思っている児童たちがすれ違い様に挨拶をする。

違和感を持たれないように笑顔で挨拶を返している。


「先生、おはようございます」


「はい、おはよう」


 雄哉とエミールも同じように挨拶をして教室に入る。

朝のホームルームではエミールがイギリスに帰国することが告げられた。


「エミールさん、イギリスに帰るの?」


「ええ。お父様の日本でのお仕事が終わったから」


「そうなんだ」


「・・・お父様から早く帰るように言われてるから行くわね」


 エミールは最低限の会話で終わらせると、雄哉と一緒に帰る。

魔法界に帰る決意が揺らがない内にソウに声をかける。


「ねぇ」


「帰るのかい?」


「ええ。世話になったわね」


「大変なこともあるだろうけど、エミールなら強い魔法使いになれるよ」


「そうかしら。(たにん)の石が無いと魔法を使えない私なのに?」


「石が無くとも魔法が使えることをエミールは知っているだろ」


 ソウはエミールの不安を優しい言葉で諭す。

エミールは直接、石を持たない雄哉が魔法を打ち破ってきたことを見てきた。


「そうね。石が無くてもできるわね」


「気をつけて帰りなさい」


「ありがとう」


 雄哉の部屋の襖が三回に一回だけ道を繋ぐことを散々見てきたエミールは落ち着いて、開け閉めをした。


「それじゃありがとう。雄哉」


「うん。バイバイ、エミール」


「バイバイ」


 エミールはユリニエラン家の領地の森に足を入れると、少しだけ振り返って微笑んだ。

姿が見えなくなると雄哉は襖を閉める。

もう一度、開けても布団が仕舞われているだけだった。


「雄哉、お煎餅を食べないか?」


「食べる」


「エミールとはお別れしたかい?」


「うん」


「そうか」


 ソウが淹れてくれた緑茶を一口飲むと、雄哉は海苔の巻かれた醤油煎餅を噛った。

砂糖をまぶした煎餅を食べるときに雄哉は呟いた。


「僕、魔法使いにはならないよ」


「そうか」


「うん」


「なら、部屋の道は後で閉じておこう」


 雄哉はお茶を飲み干すと部屋に戻り宿題を広げた。

階段を上がる雄哉を見送ったソウは巾着袋に入れた石を手のひらに乗せた。


「ソウ」


「玉藻。世話をかけたね」


「楽しかったにゃ。在りし日の誰かさんを見ているようで」


「その話し方、何とかならないか?」


「何や、気に入らんかったか? まあええは、もう会うこともあらへんやろうし、次の教え子も見つけたさかい」


「ユリニエランの娘か」


 玉藻は口調をあっさりと変えた。

ソウはかつての教育係が好みの者にしか教えないことを思い出した。


「道を閉じられる前に帰らせてもらっとくわ」


「玉藻。私が人間界に出奔したとき見逃してくれてありがとう」


「才能があるから()うて、そうならなあかん理由はあらへん。それだけや」


 軽快に階段を上がった玉藻は襖を通って魔法界に帰った。

玉藻が居なくなると隙間から廿楽が這い出た。


「だとよ」


「耳が痛いね」


「雄哉の才能に気づいて、ラファエラン家当主にさせようと思ったんだろ。だから、元五大公の一人である俺に接触した」


「ユリニエラン家、ガブリエラン家が動けば、ラファエラン家も本腰を上げて雄哉を囲い込もうとするかと思ったんだがな」


「食えない奴だな。自分は当主になりたくないって人間界に逃げた癖に孫を差し出すのか?」


(あきら)に才能が無かったからな。それに、弟たちには苦労させたからせめてもの罪滅ぼしだ」


 ソウにとって魔法界は全てが思い通りになる箱庭だった。

そんな中で人間界で出会ったユカリは新鮮で、かけがいの無いもので忘れられない存在だ。

ユカリがいないなら息子や孫もただの血を引く存在でしかない。


「その石はどうするんだ?」


「こうするさ」


 指に力を入れると手元に戻ってきた石を砕いた。


「もったいねぇ」


「ああ、道も閉じないとな」


 廿楽は舌を出してから這ってソウの家を出た。

ソウは雄哉が風呂に入っている間に襖を外した。


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