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魔法使いの孫は魔法使い、のはず  作者: 都森 のぉ
第一章

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魔法使いの知略

 当主に勧誘されたこと自体については、雄哉の心は驚くほど凪いでいた。

玉藻がはっきりと断ってくれたことで、自分には関係のない遠い世界の話と思っている。

ハルトは一度だけ、雄哉を鋭く、だが複雑な光を宿した瞳で見つめた。

そこには嫉妬だけでなく、雄哉の持つ強さへの認めがたい敬意が混じっていた。


「ねぇ」


「何かな」


「この道で合ってるの?」


 霧の奥に、不自然なほど白い光を放つ「襖」が浮かび上がる。

雄哉がその取っ手に手をかけ、一気に引き開けた。

次の瞬間、肺に流れ込んできたのは、魔法界の冷たい魔力を含んだ大気ではなく、少し埃っぽくて、どこか安心する自分の部屋の匂いだった。

雄哉は大きく息を吐き、自分の部屋の中央で、ようやく肩の力を抜いた。


「帰って・・・これたんだね」


「そうにゃ。やれやれ、えらい一日だったにゃ」


 玉藻は畳の上に寝転がり、大きく伸びをした。

エミールを静かに下ろしたハルトは、開いたままの襖の向こう――暗い魔法界の景色を、いつまでも黙って見つめていた。


「この石をおじいちゃんに渡してくるね」


「帰りにお茶菓子を持ってくるにゃ」


 雄哉は石を持って部屋を出ると、階段を下りる。

居間ではお茶を飲んでソウが詰め将棋をしていた。


「おじいちゃん」


「お帰り、雄哉」


「これ、取り返したよ」


 ソウは手のひらに乗せられた石を懐かしそうに目を細めて見つめた。

その眼差しには少しだけ敵意のような熱を孕んでいるようにも見えた。


「・・・懐かしいものだ。本当によく取り返してきたな、雄哉」


「・・・うん。僕、疲れたから。上でお茶にするよ」


 雄哉はソウのどこか重い視線から逃げるように黙って立ち上がる。

台所の棚からエミールたちが好きそうなクッキーの入った円形の缶を手に取った。

背中でソウが石を握り込むかすかな音が聞こえた気がしたが、雄哉は振り返らずに二階への階段を上がった。

部屋に戻ると、玉藻が畳の上で転がり、ハルトとエミールが対照的な表情で座っていた。


「玉ちゃん、持ってきたよ」


「そのクッキーは素朴ながら美味しいにゃ」


「いただくわ」


「・・・毒見もなく食べるとは、危機感が無いんじゃないか?」


「嫌なら食べなくて良いにゃ」


「食べないとは言っていないよ」


 ハルトは相変わらず不遜な態度を崩さなかったが、差し出されたクッキーを丁寧に受け取る。

一枚だけゆっくりと咀嚼した。

魔法界にはないバターの香りと素朴な甘さが口の中に広がる。

食べ終えるとハルトは静かに立ち上がり、まだ繋がっている境界の前に立った。


「・・・僕は帰らせてもらうよ」


「ハルト、ありがとう」


 ハルトは一度だけ雄哉を鋭く見やり、そのまま霧の向こうへと姿を消した。

襖が音もなく閉まると、不自然な光は消え、古びた押し入れの扉だけが残った。


「僕も・・・今日は少し疲れたよ」


「そうね。私も疲れたわ」


「だらしにゃいにゃ」


「玉ちゃんも眠そうだよ」


「お子様は早く寝るにゃ」


 エミールも一枚のクッキーを食べ終えると、眠たげに目をこすりながら部屋を出て行った。

雄哉もパジャマに着替えるとクッキー缶に蓋をして布団を整える。


「魔法使い、か・・・」


 電気を消し、布団に潜り込むとすぐに深い眠りに落ちた。

翌朝、台所から漂ってくる味噌汁の香りで雄哉は目を覚ました。

一階へ下りると、エミールがすでに食卓についていた。


「おはよう、雄哉」


「おはよう、エミール」


「オムレツは食べたことあるけど、玉子焼きは初めてよ。同じ玉子を固めただけなのに違うのね」


「おじいちゃんの得意料理なんだ」


 昨日の死闘が嘘のような、静かな朝が訪れた。

雄哉とエミールは玄関でソウに見送られながら、いつも通りの通学路へと足を踏み出した。

鬱陶しいくらいに飛んでいた蝙蝠の姿も保護者のようについて来ていた玉藻の姿もない。


「・・・魔法界に帰ることにしたわ」


「もう帰るの?」


「忘れたの? 私は貴方を襲うように命令されて人間界に来たのよ。今回のことでお父様にも何らかの処罰が下るでしょうし、私も無関係ではいられないわ」


 石を失ったエミールは魔法界に帰ることに怯えていたが、今では何か吹っ切った顔をしている。

エミールに魔法界に戻る決意をさせたのは石を持たなくても四候当主を退けた雄哉の在り方だ。

完全に自分の力で魔法を打ち破った姿はエミールに勇気を与えた。


「そうね。雄哉には話しておいても良いかしらね」


「何を?」


「私がどれだけ頑張ってもユリニエラン家当主になれないってことを」


 学校に着くまでの間にエミールは話し出した。


「私の両親は本来なら結婚を認められなかったの。四候は魔法界の秩序を保つ役目があるから互いを監視し合うために結婚を禁止されていた。でも、お父様は一目惚れしたお母様と結婚をしたくて、だから認めさせるために一族の者たちと誓約を結んだの。ユリニエラン家とサーマエラン家の()()の血を引く者を後継者にしない。ユリニエラン家当主はユリニエラン家一族の優秀な者に譲る、と」


 エミールだけでなくエリオールもユリニエラン家を継ぐことはできない。

エリオールは知らずに次期当主になれると信じている。


「お母様は誓約を知らずに、私を後継者に推していてね。お父様はお母様を傷つけたく無いから私が魔法使いとしての力を失うことを望んでいるの。今回の、雄哉を襲えという命令も、私から石を奪うことが目的で、成功しても失敗しても結果は同じだったでしょうね」


 雄哉の側に居てもユリニエラン家からの接触は一切なかった。

魔法界で石を奪うことはエミールの実力から難しいが人間界でなら上手くいくと踏んだ父親の計画だった。

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