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魔法使いの孫は魔法使い、のはず  作者: 都森 のぉ
第一章

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双極な教え子

 完全に戦意を失ったガブリエラン家当主は椅子に力なく座った。

ミハエラン家当主は雄哉の正面に立つと真っ直ぐに目を見る。


「とても良い戦いだったよ」


「ありがとうございます?」


「話に聞いていた最高の魔法使いの片鱗を見た気がしたよ。どうだろう? 君がラファエラン家当主になるのは」


 雄哉は驚いて瞬きの回数が増える。


「ぼ、僕が?  でも、僕は魔法なんて全然知らないし・・・」


「知らないからこそ、染まっていない。君が椅子に座るだけで、四候の均衡は保たれる。・・・横にいるハルト君も、君の補佐なら喜んで務めるはずだ」


 その言葉に、ハルトの肩がびくりと震えた。

幼い頃からラファエラン家当主になることを求めらてきた。

地を這うような修練を積んできたハルトにとって、それは屈辱以外の何物でもない。

耐えるように拳を握り締め、床を見つめるハルトの瞳に、黒い感情が混じる。


「勝手に決めないで貰いたいもにょよ。雄哉は、五大公の駒じゃないにゃ」


 それまで無言を貫いていた玉藻が、一歩前に出た。

その瞳は、教え子を見る慈しみではなく、一人の権力者を警戒する鋭いものに変わっていた。


「おや、厳しいですね。私はただ、彼の類まれなる資質を正しい場所で開花させるべきだと言っているだけですよ、先生」


「その『正しい場所』が、血生臭い椅子の上だと言うにゃら、笑わせないで欲しいにゃ。お前たちがソウの石を巡って醜い争いをしたせいで、この子は危うく命を落とすところだったにゃ」


 玉藻の低い声が広間に響く。

ミハエラン家当主は困ったように肩をすくめたが、その目は笑っていない。


「・・・先生。あなたは昔から、お気に入りの教え子には過保護だ」


「教え子を守って(にゃに)が悪いにゃ」


「私も教え子ですよ。先生」


 当事者だが雄哉は口を出せない。

エミールは五大公が居ることで完全に萎縮してしまっている。

ハルトは五大公のミハエラン家当主から力が足りないと断言されたことにプライドが折れてしまった。


「人間界で過ごす内に先生も衰えてしまったのですね」


「どういう意味にゃ!」


「ラファエランの血を引く者が現れた以上、魔法界は彼を放っておかない。私が保護しなければ、次はもっと強引な連中が動くでしょう。()()()()()()()()()


「誰が来ようと同じにゃ。雄哉の道を決めるのは雄哉自身であって、魔法使いの都合じゃないにゃ」


「なるほど。先生は分かっておいでなのですね」


「にゃーを誰だと思っているにゃ。ええ加減にせぇよ、われぇ」


 玉藻は雄哉を背に隠すように立ちはだかった。

かつての教え子を見据えるその背中は、どんな魔法障壁よりも固く、雄哉を守る意志に満ちている。


「・・・先生がそこまで言うのなら、今は引き下がりましょう。ですが、彼が『魔法使い』であることを選ぶなら、いつでも歓迎しますよ」


 ミハエラン家当主は優雅に一礼すると、一度も視線を向けなかったハルトの横を通り過ぎ、闇に溶けるように姿を消した。

姿が無くなるとエミールは腰が抜けて座り込んだ。

ハルトは溜め息を吐いてエミールを横抱きにした。


「ちょっと、何をするのよ」


「腰が抜けて歩けないのでしょう。戦いに決着がついた以上、長居をする必要はありません」


「下ろしなさいよ。お父様にだって抱っこされたことないわ」


「静かにしてもらえませんか?」


 ハルトの声は低く、どこか冷えていた。

エミールは、ハルトの腕の中から見上げた彼の横顔に言葉を失う。

いつも完璧で自信に満ち溢れていたハルトからはラファエラン家当主の風格を感じさせエミールに格の違いを見せつけていた。


「今まで無駄なことをしていたのではないかと自己嫌悪中なんです」


「無駄、なことかもしれないけど、無駄では無かったんじゃない。少なくとも当主候補に選ばれたんでしょ? 私は選ばれてすらいないもの」


「もしかして慰めようとしていますか?」


「な、何よ。悪い? 落とされたら敵わないからよ。勘違いしないで」


 慣れないことをしたエミールは顔を赤くしている。

年下の少女が精一杯の言葉を紡いだことはハルトに届いた。


「そうですね。同じ土俵に立っていない相手を敵視しても虚しいだけですし。彼は断っていますからね」


「ごめんね、ハルト君」


「・・・謝る必要はありません。僕の実力が五大公の求める域に達していなかっただけのこと。玉ちゃんが優秀な方だと言ってくれましたしね。それを信じることにします」


「にゃーは正直者にゃ。これ以上、淀んだ空気を吸うのは御免だにゃ」


 玉藻が先頭に立ち、歩き出す。

戦いの余韻が残る石造りの廊下を抜け、一行は再びあの霧の立ち込める庭園へと戻った。

行きは三回に一回しか繋がらない不安定な道に翻弄されたが、帰りは違った。

雄哉の胸元で「ソウの石」が微かに熱を帯びている。それが、迷いようのない灯台となって、現実世界への距離を縮めていた。

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